乾燥ろ紙血でより多くの遺伝性疾患を発見できる検査法開発、新生児スクリーニング検査の充実に期待

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. 新生児の血液から多数のタンパク質を同時測定できる新しい検査法を開発
  2. 実際の患者さんの血液から遺伝性疾患の発症に関係するタンパク質の減少を検出
  3. 従来は発見できなかった遺伝性疾患を早期に診断できる可能性

現行の新生児マススクリーニングで診断できる遺伝性疾患の数は限られる

京都大学とかずさDNA研究所の共同研究グループは、新生児マススクリーニング検査で使用される乾燥ろ紙血を用いたプロテオミクス解析により、遺伝性疾患の早期発見を可能にする新しい検査法を開発しました。

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画像はリリースより

遺伝性疾患は病気が進行すると治療が難しくなることが多く、早期に見つけて治療を開始することが重要です。日本では、遺伝性疾患を持つ子どもを早期に発見・治療することで将来的な障害を予防する目的で、すべての赤ちゃんを対象とする「新生児マススクリーニング検査」が実施されています。しかし、現行の方法では診断できる病気が限られており、従来の検査と並行して検査でき、より多くの病気に対応できる新しい検査法の開発が望まれていました。

乾燥ろ紙血検体は、新生児から採取された数滴の血液サンプルをろ紙に染み込ませて乾燥させたもので、室温で保存ができ輸送もしやすいので、多くのサンプルを一度に調べる必要のあるスクリーニング検査に適しています。遺伝性疾患の多くは、原因遺伝子から作られる特定のタンパク質が少なくなることが病気の原因となっています。そこで、研究グループは、乾燥ろ紙血に含まれるタンパク質の種類とその量を測定することで病気を診断できる可能性を調べました。

プロテオミクス解析で新生児乾燥ろ紙血から約3,000種類のタンパク質を同時検出

多数のタンパク質の種類と量を同時に解析できるプロテオミクスと呼ばれる手法を用いて、健康な新生児の乾燥ろ紙血40枚を調べたところ、約3,000種類のタンパク質を安定的に測定でき、そのうち1,000種類以上が病気に関連するタンパク質であることが判明しました。特に免疫系、神経系、血液系の疾患に関わるタンパク質を数百種類検出することができました。また、新生児期の血液の中には大人の血液と比べて少ないタンパク質、多いタンパク質がいくつかあることが今までの研究でわかっていますが、今回の検査法でもこれまでの研究で報告されている通りの結果が得られました。これらの結果から、この方法が血液中のタンパク質の定量検査として信頼できる方法であり、新生児の乾燥ろ紙血を用いて複数の病気を同時に検査できる可能性が示されました。

次に、タンパク質の量が減ってしまうことで病気になることが多い常染色体潜性及び X 連鎖性の遺伝性疾患(特定の免疫疾患)を持つ患者さんの乾燥ろ紙血を調べたところ、多くの病気において、患者さんでは原因となる遺伝子が作り出すタンパク質の量が健康な人と比べて大きく減っていることがわかりました。特定の血液細胞の減少や機能異常が起こる病気では、その細胞に多く含まれるタンパク質やその細胞の働きに関わるタンパク質も少なくなっていることが確認されました。

研究グループは、すでに多くの乾燥ろ紙血検体を同時に処理する技術を開発しており、今後は実際に新生児から採取した乾燥ろ紙血を用いてどれくらい病気を見つけ出すことができるかを確認する予定です。(遺伝性疾患プラス編集部)

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