原因不明の女性の知的能力障害、12%の患者さんでWDR45遺伝子変異を発見

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. 原因不明だった女性の知的能力障害患者さんの12%でWDR45遺伝子変異を確認
  2. 重度の知的能力障害を示す新しいWDR45遺伝子変異を発見
  3. 同じ遺伝子変異でも人によって症状の程度が異なるメカニズムの解明は今後の課題

「WDR45遺伝子」は知的能力障害の発症に関連する遺伝子の一つ

国⽴国際医療研究センターと国⽴精神・神経医療研究センターの研究グループは、知的能力障害の診断を受け、これまで原因不明とされた女性患者さんの遺伝子解析を行い、「WDR45遺伝子」の変異が主な原因の一つであることを見出したと発表しました。

知的能力障害は、考える力や生活へ適応する力が幼少期から障害されている発達障害で、全世界で約1~3%の有病率とされます。多くの場合、遺伝要因と環境要因が関わりますが、たった一つの遺伝子変異が原因になることもあります。

WDR45遺伝子はX染色体上に存在し、知的能力障害に関係する遺伝子の一つです。WDR45遺伝子の変異は女性に多く、成人になってから運動能力や認知機能の急激な衰え(退行)と脳への鉄沈着を特徴とする病気(NBIA5)を引き起こすことが知られています。

原因不明だった女性患者さんでWDR45遺伝子変異を特定

今回の研究では、小児期に知的能力障害を発症した32人の女性患者さんについて、WDR45遺伝子変異の割合(頻度)や、症状の特徴について調べました。患者さんたちは、これまで知的能力障害に関係する遺伝子に異常が見つかっておらず、原因不明とされていました。

その結果、2人(6.3%)に病気の原因となりうるWDR45遺伝子の変異(病的バリアント)が見つかりました。研究グループによる以前のデータを含めると、知的能力障害の女性患者さんでWDR45遺伝子の病的バリアントを持つ人は51人中6人(12%)となりました。これは、知的能力障害に関連する遺伝子が1,500個以上あることをふまえると、とても高い頻度と言えます。

症状の重さを決めるメカニズムは複雑

2人のうち1人で見つかった変異は、これまでに報告がないものでした。この患者さんは知的能力障害が非常に重度で、MRI画像ではWDR45遺伝子変異に特徴的な脳への鉄沈着が確認されました。

研究グループは、変異によって症状が異なる理由を明らかにするため、まず患者さんの遺伝子をさらに詳しく解析しましたが、WDR45遺伝子以外に知的能力障害の原因となりうる変異は見つかりませんでした。次に、「X染色体の不活化」(女性で2本あるX染色体のうち1本が働かなくなる現象)に注目して解析を行いました。変異のあるWDR45遺伝子を持つX染色体が多く活性化されていれば症状が重くなるという仮説でしたが、実際にはこの患者さんで、X染色体の不活化に偏りは見られませんでした。

これらの結果から、症状の重さはX染色体の不活化だけでは説明できず、他の要因も関わっていると考えられます。今後、WDR45遺伝子の変異によって症状の程度が異なるメカニズムの解明が望まれます。(遺伝性疾患プラス編集部)

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