小児期発症の早老症HGPS、原因タンパク質の新たな機能を解明

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群(HGPS)は小児期発症の早老症
  2. HGPSの原因である「プロジェリン」が細胞の核膜修復を遅らせることを発見
  3. 「プロジェリン」の蓄積を抑制すると核膜修復の遅れが改善することを確認

LMNA遺伝子の変異が原因で起こる非常にまれな早老症

東京科学大学は、ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群(HGPS)で細胞の核膜修復が遅延する仕組みを解明したと発表しました。

HGPSは、約400万人に1人という非常に希少な小児期発症の早老症です。この病気の患者さんは生まれた時には異常がなくても、徐々に成長障害や老化に似た症状が現れます。知能は正常に発達しますが、動脈硬化が進行し、心筋梗塞や脳卒中などの合併症により、多くの場合10代前半で命を落とすとされています。

HGPSの原因は「LMNA遺伝子」の変異です。LMNA遺伝子は核膜(細胞内でDNAが収納されているを囲む膜)の成分である「ラミンA」と「ラミンC」というタンパク質の設計図です。HGPS患者さんの細胞では、遺伝子変異によって、これらに加えて「プロジェリン」というタンパク質が作られるようになります。プロジェリンが蓄積すると核に異常が生じ、病気が引き起こされると考えられています。

これまでの研究で、核膜がダメージを受けると、そこへラミンCが迅速に集まり、少し遅れてラミンAも集積して修復に関わることがわかっていました。しかし、このプロセスにプロジェリンが与える影響については、明らかになっていませんでした。

プロジェリンが核膜修復を遅らせることを発見、HGPS治療薬の改善効果も確認

今回の研究では、特殊な顕微鏡を使って細胞の核を人工的に傷つけ、その修復過程を観察しました。この方法でHGPSの症状を再現したマウスの細胞(HGPS細胞)を調べたところ、正常なマウスの細胞に比べて核膜修復が遅いことを発見しました。また、プロジェリンはラミンAよりも遅れて核膜の損傷部位に出現することがわかりました。

さらに、ラミンAには「LACS1」と「LACS2」という特殊なアミノ酸配列があり、これらの配列があることでラミンAの集積がラミンCよりも遅れることが明らかになりました。

プロジェリンは「ファルネシル化」と呼ばれる修飾(小さな化学変化)を受けています。ファルネシル化を阻害する薬である「ロナファルニブ」はプロジェリンの蓄積を阻害する作用があり、HGPSの治療薬として用いられています。そこで、ロナファルニブでHGPS細胞を処理したところ、核膜修復が改善することを確認しました。

今回の研究から、HGPSにおいてプロジェリンが核膜修復を遅延するメカニズムが明らかになりました。また、HGPS治療薬が核膜修復の遅延を改善することを確認しました。これらの知見は、HGPSだけでなく、LMNA遺伝子の変異によって引き起こされる別の病気のメカニズム解明や新たな治療法開発にも役立つことが期待されます。(遺伝性疾患プラス編集部)

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