インヒビターが生じると凝固因子補充治療が効きにくくなる
フランスのサノフィ社は、12歳以上の血友病Aおよび血友病Bの新しい治療選択肢として、初のアンチトロンビン低下薬「Qfitlia(fitusiran)」が米国食品医薬品局(FDA)より承認されたことを報告しました。
血友病は、血液凝固因子の不足により出血が止まりにくくなる先天性の希少疾患です。血友病Aでは第VIII因子、血友病Bは第IX因子が不足し、その結果、血液凝固に必須のトロンビンが十分に作られません。このため多量の出血や突然の関節内出血が生じ、痛みや関節損傷によりQOLが低下します。治療には不足した凝固因子を補充しますが、一部の患者さんでは治療薬に対する抗体(インヒビター)が生じ、治療が困難になることがあります。
Qfitliaは、siRNA(small-interfering RNA)という技術を用いた血友病A・Bの新しいタイプの治療薬で、血液を固まりにくくするタンパク質「アンチトロンビン」の量を減らして出血を抑制し、トロンビンの産生を促すように設計されています。12歳以上の患者さんに使用でき、従来の治療が効きにくいインヒビターを持つ患者さんにも効果が期待できます。また、Qfitliaは少量でも効果が期待できるよう開発されており、皮下注射で年に最少6回の投与で効果が持続します。あらかじめ薬液が入ったプレフィルドペン型の注射器を使用するため、比較的簡単に投与できます。
同剤は、米国FDAよりオーファンドラッグ指定、ファストトラック指定、インヒビター保有の血友病Bの治療薬としてブレークスルーセラピー指定を得ています。
重大な副作用は、血栓性事象・急性/再発性の胆嚢疾患・肝毒性
今回の承認は、ATLASと呼ばれる大規模な臨床試験プログラムの中で行われた第3相臨床試験の結果に基づいて行われました。
試験では、血友病患者さんの年間出血率(ABR)がどれだけ改善するかが調べられました。結果として、Qfitliaは年間6回の投与でいずれのサブグループでも効果を示すことがわかりました。Qfitliaを定期的に使用した場合、インヒビターがない患者さんでは、従来の凝固因子製剤を必要に応じて使用した場合と比べて、年間出血率が71%減少しました(ABRの推定平均値:9.0 vs. 31.4)。インヒビターがある患者さんでは、従来のバイパス止血製剤を必要に応じて使用した場合と比べて、年間出血率が73%減少しました(5.1 vs. 19.1)。
試験の延長期間では、怪我などが原因ではない自然に起こる出血(年間自然出血率)は、インヒビターがない患者さん1.9、インヒビターがある患者さん1.9でした。また、参加した患者さんの約半数は年間の出血回数が1回以下となり、31%の患者さんでは出血が見られませんでした。
安全性については、いくつかの副作用が報告されており、重大な副作用としては、血栓性事象(血栓ができる状態)、急性および再発性の胆嚢疾患、肝毒性などがありました。10%を超える患者さんで高頻度に認められた副作用は、ウイルス感染、上咽頭炎(のどの感染症)、細菌感染でした。
ATLASプログラムでは、現在もQfitliaの安全性と効果を調べる試験が続いています。特に、アンチトロンビン活性に基づいてQfitliaの用量を調整し投与する方法を改善し、より低い用量や投与間隔を広げた治療法についても研究が進められています。(遺伝性疾患プラス編集部)