低身長や特徴的な顔立ちのほか、さまざまな合併症も見られる疾患
岐阜薬科大学を中心とした研究グループは、軟骨無形成症に対する新規治療薬候補としてCDK8阻害剤「KY-065」が有望である可能性を見い出したと報告しました。
軟骨無形成症は、FGFR3遺伝子の変異によって、およそ2万人に1人の割合で発生するとされる遺伝性疾患です。この病気では、軟骨細胞の異常により、手や足の短縮を伴う低身長や特徴的な顔立ちが見られます。身長は成人でおよそ130cm程度にとどまり、日常生活に制約があるだけでなく、さまざまな合併症も引き起こされます。
これまでに、軟骨無形成症の治療薬としてボソリチドが承認されていますが、毎日の皮下投与が必要であり、特に新生児や乳幼児の患者さんに対しより安全で負担の少ない治療法の確立が求められています。
研究グループはこれまでに、細胞周期や遺伝子発現の調節に関わる因子として知られるCDK8が、軟骨細胞へと分化する能力を持つ間葉系幹細胞の機能に重要な役割を果たしていることを解明してきました。今回、CDK8が軟骨無形成症の軟骨細胞の機能異常に関与しているのかを検討しました。
CDK8によるシグナル伝達を部分的に遮断し軟骨細胞の正常な発達促す
研究グループがまず、軟骨無形成症モデルマウス由来の軟骨細胞について遺伝子とタンパク質を解析したところ、CDK8の発現量が増加していることがわかり、軟骨無形成症の病態にCDK8が関与する可能性が示唆されました。
次に、軟骨細胞の分化や成熟を示す特殊な方法で細胞を染色する実験を行いました。その結果、軟骨無形成症モデルマウス由来の軟骨細胞は、健康なマウス由来の軟骨細胞と比較して染色されにくく、軟骨細胞としての機能が低下していることが確認されました。
CDK8が軟骨無形成症の病態進展に関与するのかを明らかにするため、研究グループが独自に開発したCDK8の阻害剤「KY-065」を軟骨無形成症モデルマウス由来の軟骨細胞に作用させたところ、染色性が明らかに増強することが判明しました。また詳細な解析により、KY-065がCDK8の働きを抑えることで、STAT1というタンパク質のシグナル伝達を部分的に遮断し、軟骨細胞の正常な発達を促すメカニズムが示唆されました。
経口投与可能な治療薬として、ボソリチドとの併用効果も期待
最後に研究グループは、動物実験を行いました。軟骨無形成症モデルマウスは、手足の長さを決める長い骨(長管骨)が著しく短縮しますが、同じマウスにKY-065を投与すると、長管骨が伸長していることが確認できました。さらに、骨の成長を担う部分(成長板軟骨層)の状態や軟骨細胞の成長が改善していることがわかりました。
この研究成果から、CDK8阻害剤KY-065は軟骨無形成症の軟骨機能を回復させ、骨の成長を促進できることが明らかになりました。KY-065は経口投与が可能であるため、特に新生児や乳幼児の患者さんの治療負担を大きく軽減できる可能性があります。また、既存薬のボソリチドとは異なる作用メカニズムを持つため、将来的には併用による相乗効果も期待されます。
研究グループは、この研究成果はさらに、軟骨無形成症に限らず、軟骨細胞の機能異常や恒常性維持の破綻によって引き起こされるタナトフォリック骨異形成症などの難治性骨系統疾患に対しても新しい治療法の提供につながると期待される、と述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)