全身のさまざまな部位が繰り返し腫れるHAE
遺伝性血管性浮腫(HAE)は、全身のさまざまな部位が繰り返し腫れる希少遺伝性疾患です。腫れる症状は突然現れるため、予測ができません。特に、喉頭の腫れは窒息につながり、命に関わる可能性があります。こういったHAEの症状には、「血漿カリクレイン」という経路の制御異常が関わっています。
現在、HAEの治療法には発作時の治療(オンデマンド療法)と、発作を予防する治療(予防的治療)があります。このような中で、患者さんの治療負担の軽減や治療効果の向上が課題として認識されています。今回は、海外で発表された3つの薬剤の研究開発データをご紹介します。これらは、血漿カリクレイン経路を標的とするアプローチで開発が進められています。
ナベニバート、3か月/6か月ごとの少ない頻度の投与でHAE発作予防を目指す
米国のAstria Therapeutics社が開発中のナベニバート(navenibart)は、血漿カリクレイン阻害薬(モノクローナル抗体)です。3か月ごと、または6か月ごとの少ない頻度の投与でHAE発作予防を目指しています。2月27日に発表された第1b/2相臨床試験では、平均月間発作率の90~95%減少、6か月間で最大67%の無発作率が示されました。この良好な結果に基づき、現在、第3相臨床試験が進行中です。年間2回または4回の投与で発作予防が可能になる可能性があり、治療負担の大幅な軽減が期待されています。
セベトラルスタット、既存薬より迅速な対応が可能なオンデマンド治療薬
米国のKalVista Pharmaceuticals社が開発中のセベトラルスタット(sebetralstat)は、経口の血漿カリクレイン阻害薬。HAEのオンデマンド治療薬として開発が進められています。3月3日に発表された第3相臨床試験データでは、特に、喉頭発作に対するセベトラルスタット治療までの中央値が発作から11.5分、症状緩和が始まるまでの中央値が1時間16分と、既存の注射薬と比較して迅速な対応が可能であることが示唆されました。また、青年期の患者さんでは、発作から治療までの中央値が4分と、既存の注射薬の報告値と比較して大幅に短縮されました。その他、携帯・投与のしやすさ、注射部位反応の解消も利点として挙げられます。セベトラルスタットは現在、米国などで承認申請中です。なお、日本では1月に承認申請されています。
ドニダロルセン、月1回または2か月に1回オートインジェクターで自己投与可能な発作予防薬
米国のIonis Pharmaceuticals社が開発中のドニダロルセン(donidalorsen)は、HAE発作につながる経路を遮断することでプレカリクレイン(活性化されるとカリクレインになる前駆体)の産生を抑制する、RNAを標的とした発作予防薬です。2月20日に発表された、第3相臨床試験と第2相臨床試験のデータでは、HAE発作率の持続的な減少と疾患コントロールが示されています。特に、既存の長期予防治療からドニダロルセンに切り替えた患者さんでも、発作頻度の減少と生活の質の改善が継続して確認されました。月1回または2か月に1回のオートインジェクターによる自己投与が可能で、投与の簡便性も特徴です。ドニダロルセンは、米国などで承認申請中です。
今回ご紹介した3つの開発中の薬剤は、それぞれ異なるアプローチでHAE治療の向上を目指しています。今後、日本でも承認された場合、患者さんにとってより負担の少ない、効果的な治療選択肢が増えることが期待されます。(遺伝性疾患プラス編集部)