歩行時のふらつきなどが見られる脊髄小脳変性症、重症度の評価には課題
北海道大学の研究グループは、脊髄小脳変性症の患者さんに見られる小脳性運動失調の重症度を歩行動画から簡便に予測する手法を開発したと報告しました。
脊髄小脳変性症では、脳の小脳という部分の神経が変性することで体をうまく動かす機能に異常が生じ、ふらつき・めまい・しゃべりにくさ・歩きにくさなどが見られます(小脳性運動失調)。歩く際のふらつきは疾患の初期段階で最もよく見られる症状のひとつで、患者さんの生活の質に大きな影響を与えます。
小脳性運動失調の治療やリハビリテーションの方針を決定するためには、歩行障害の重症度を正確に評価することが重要です。しかし、この疾患における重症度を推定するためのバイオマーカーは十分に開発されておらず、診察する医師の経験や技量により評価にばらつきが生じることがあります。そのため、より客観的な重症度評価方法の開発が求められていました。
従来、歩行の異常を詳しく調べる方法として、体に取り付ける小型センサー(ウェアラブルデバイス)が多く利用されてきました。しかし、この方法には特別な計測機器が必要で、使い方やデータ解析に専門的な知識が求められるという課題がありました。
そこで研究グループは、もっと簡単で身近な方法として、一般的なビデオカメラで撮影した歩行動画から、AI技術(深層学習)を使って脊髄小脳変性症患者さんの症状の重さを評価する方法を開発しました。この手法の最大のメリットは、特別な機器を身に着ける必要がなく、カメラさえあれば誰でも簡単に使える点です。
これまでパーキンソン病などでは同様の技術が活用されてきましたが、小脳性運動失調の評価に使った例は少なく、今回、その有効性を確かめることを目的に研究を行いました。
66人の患者歩行データ、2つのAI技術を組み合わせて評価スコアを予測
今回の研究ではまず、66人の脊髄小脳変性症患者さんの歩行の様子をビデオで撮影しました。撮影した動画を「OpenPose」というAI技術を使って、肩、肘、膝など体の25か所のポイントがどのように動いているかを数値化しました。さらに、この数値データを「Transformer」という別のAI技術で解析し、小脳性運動失調の重症度を測る国際的な評価基準「SARA」の点数を予測させました。
AIが予測した点数と、神経疾患の専門医が実際に測定した点数を比較したところ、平均の誤差は2.3点で、一致度を示す数値は0.79という精度を達成しました。これは、従来のウェアラブルデバイスを使った研究と同程度の精度でした。
つまり、特殊な計測機器を使わなくても、普通のカメラとAI技術だけで、小脳性運動失調の重症度を高い精度で評価できることが実証されました。
今回の研究成果により、脊髄小脳変性症の進行状況をより手軽に評価できるようになり、将来的には、病院での診療だけでなく、遠隔診療での活用や、新薬開発のための臨床試験での新しい評価方法としても応用が期待されます。
研究グループは、今後、脊髄小脳変性症以外の病気にも応用範囲を広げ、さまざまな歩行障害を持つ患者さんの診断補助にも役立てることを目指す、と述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)
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