多発性嚢胞腎の治療法開発に期待、コレステロールが腎臓細胞を守るメカニズム発見

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. コレステロールが腎臓細胞を正常に保ち、ADPKD発症を防ぐメカニズムを解明
  2. 遺伝子変異により細胞のセンサー機能が低下、腎機能に影響することを確認
  3. コレステロール補充による新たな治療法の可能性を実証

根治療法のないADPKD、60歳までに半数が末期腎不全に至る

山口大学を中心とした研究グループは、常染色体優性(顕性)多発性嚢胞腎(ADPKD)患者さんで見られる遺伝子変異を導入した培養細胞やマウスの解析から、コレステロールによる多発性嚢胞腎の発症抑制メカニズムを明らかにしたと報告しました。

ADPKDはPKD1、PKD2遺伝子の変異により、腎臓に数多くの袋状の構造「嚢胞」ができ、腎臓の機能が低下する遺伝性疾患です。腎機能低下は進行性で、60歳までに約半数が末期腎不全に至るとともに、高血圧、肝嚢胞、脳動脈瘤などを合併することもあります。日本には約3.1万人の患者さんが存在し、4,000~8,000人に1人の頻度で発症すると推定されています。ADPKDの治療については、トルバプタンという薬が病気の進行を遅らせる目的で使われますが、完全に治す根治的な治療法はまだありません。

細胞のセンサー「一次線毛」に集まるコレステロールとポリシスチン2の関係に着目

PKD1、PKD2遺伝子が設計図となるポリシスチン1、2というタンパク質は、腎臓の細胞表面にある「一次線毛」に存在し、腎臓の正常な機能を保つ重要な役割を果たします。一次線毛は細胞の表面に発達する「1本の毛」のような突起構造で、「細胞のセンサー」として働きます。尿の流れなどの変化を感知して、ポリシスチンタンパク質が細胞内にカルシウムイオンを流入させることで、腎臓の機能を適切に調節しています。

一次線毛にはコレステロールが豊富に存在し、ポリシスチン2と結合することが知られていました。しかし、この結合がADPKDの発症とどう関係しているかはわかっていませんでした。

ポリシスチン2が一次線毛に集積できない細胞、コレステロール補充で回復

研究グループは、まず多発性嚢胞腎を引き起こすことが知られているZellweger症候群のモデル細胞を作製しました。Zellweger症候群は、一次線毛へコレステロールを運搬する機能をもつ細胞小器官・ペルオキシソームが欠損する遺伝性疾患です。

Zellweger症候群モデル細胞の一次線毛を調べたところ、正常細胞の一次線毛にはコレステロールとポリシスチン2タンパク質が豊富に存在するのに対して、Zellweger症候群モデル細胞では劇的に低下していました。この細胞の一次線毛にコレステロールを補充したところ、ポリシスチン2タンパク質の一次線毛への集積が正常細胞レベルまで回復し、再び機能することが明らかになりました。

実際の患者さんの遺伝子変異を詳細に解析

研究グループは、実際にADPKDの患者さんで見つかった遺伝子変異を培養細胞に導入して調べました。その結果、変異があると一次線毛にコレステロールとポリシスチン2が正常に集まらないことがわかりました。興味深いことに、コレステロールを補充すると、一部の変異細胞では機能が回復することも確認されました。

また、見つかった遺伝子変異のうち、ポリシスチン2がコレステロールとうまく結合できない変異を導入したマウスを作製したところ、多発性嚢胞腎だけでなく内臓の位置が逆になる「内臓逆位」という症状も現れました。

これらの結果から、コレステロールはポリシスチン2タンパク質を一次線毛の適切な場所にしっかりと保持する重要な役割を果たしており、この働きが失われると多発性嚢胞腎などの病気が発症することが示唆されました。

また、研究成果により、コレステロールを一次線毛に供給することが新たな治療として有用であることが明らかとなりました。研究グループは、一次線毛へコレステロールを集積する薬剤の開発を進めており、新たな創薬展開が期待される、と述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)

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