フォンヒッペル・リンドウ病の全身治療薬「ウェリレグ」が製造販売承認

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. フォンヒッペル・リンドウ病に対して、初めての全身療法の経口薬
  2. HIF-2αを阻害する新しい作用機序で、腫瘍の成長を抑制する
  3. 開発中に希少疾病用医薬品の指定・優先審査の対象となり、今回の承認に至った

腫瘍の摘出手術や放射線治療以外の新たな治療選択肢

MSD株式会社は、経口低酸素誘導因子2アルファ(HIF-2α阻害)剤「ウェリレグ(R)錠40mg」(一般名:ベルズチファン)について、フォンヒッペル・リンドウ病関連腫瘍を適応として製造販売承認を取得したと発表しました。

フォンヒッペル・リンドウ病(VHL病)は、VHL遺伝子(VHLタンパク質の設計図となる遺伝子)に変異があることで起こる難治性の希少疾患です。VHL遺伝子の変異によりVHLタンパク質が機能せず、HIF-2αと呼ばれるタンパク質が過剰に作られることで腫瘍が発生します。主な腫瘍に、中枢神経系(小脳、延髄、脊髄)血管芽腫、網膜血管腫、腎細胞がん、腎嚢胞、褐色細胞腫・パラガングリオーマ、膵神経内分泌腫瘍、膵嚢胞、精巣上体嚢胞腺腫、子宮の広間膜嚢胞腺腫、内リンパ嚢腫瘍などがあります。いずれも若年で発症し、複数の部位に同時に発生する、生涯にわたって発症を繰り返す、といった特徴があります。また、腫瘍の発生部位によって、多血症、高血圧、視力障害、運動障害、膀胱直腸障害、腎不全、不妊症などの合併症が現れることがあります。

フォンヒッペル・リンドウ病の患者さんは日本には600~1,000人いると推定されており、治療方法には腫瘍の摘出手術や放射線治療などがありましたが、手術の侵襲に伴う障害が発生する場合や頻回の手術が必要になる場合があることなど、患者さんの生活の質(QOL)への影響が大きく、新たな治療法が望まれていました。

今回承認された「ウェリレグ」は、HIF-2αを阻害する新しい作用機序の薬剤で、フォンヒッペル・リンドウ病の全身療法に使える初めての経口薬です。VHLタンパク質が機能しないがん細胞で過剰になるHIF-2αが、がんの成長を助けるHIF-1βとペアになることを選択的に阻害します。それにより、血管新生・増殖および腫瘍代謝に関連する低酸素下で誘導される遺伝子の転写を阻害し、腫瘍に対して治療効果をもたらします。

希少疾病用医薬品として承認、臨床試験で高い有効性を示す

同剤は、2024年2月に厚生労働省より開発中に希少疾病用医薬品の指定を受け、優先的に審査されて今回の承認に至りました。なお今回、フォンヒッペル・リンドウ病に加えて「がん化学療法後に増悪した根治切除不能又は転移性の腎細胞癌」についても製造販売承認を取得しています。

フォンヒッペル・リンドウ病関連腫瘍に対する承認は、即時手術を必要としないフォンヒッペル・リンドウ病関連腎細胞がん患者を対象とした海外第2相試験LITESPARK-004および、前治療歴を有する進行腎細胞がん患者を対象とした国際共同第3相試験LITESPARK-005の試験データなどに基づくものです。主要評価項目であるフォンヒッペル・リンドウ病関連の腎細胞がん病変に対する奏効率(ORR)は、63.9%[90%信頼区間(CI),52.6-74.2]でした。安全性については、安全性解析対象例61例の全員に副作用が認められ、主な副作用は、貧血54例(88.5%)、疲労39例(63.9%)、悪心15例(24.6%)、浮動性めまい15例(24.6%)、呼吸困難11例(18.0%)、頭痛11例(18.0%)、筋肉痛8例(13.1%)およびALT増加7例(11.5%)でした。(遺伝性疾患プラス編集部)

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