激しい腹痛が主症状のAHP、診断がつくまで15年かかることもある
Alnylam Japan株式会社を中心とした研究グループは、論文「Features of Undiagnosed Abdominal Pain and Diagnostic Status of Acute Hepatic Porphyria in Japan: A Retrospective Study(日本における診断不明の腹痛の特徴と急性肝性ポルフィリン症の診断に関する後方視的研究)」がInternational Journal of Medical Sciences誌に公表されたことを発表しました。
急性肝性ポルフィリン症 (AHP) は、命に関わる危険性があるほど激しい急性の腹痛が起こることを主な症状とする、遺伝子の異常が原因で起こる希少疾患です。AHPには、急性間欠性ポルフィリン症 (AIP)、遺伝性コプロポルフィリン症 (HCP)、異型ポルフィリン症 (VP)、ALA 脱水酵素欠損性ポルフィリン症 (ADP) の4つの病型があり、どの病型も遺伝子変異により、肝臓でヘムという物質を作るのに必要な特定の酵素が足りなくなることで発症します。
AHPは主に思春期から閉経前の女性にみられ、その症状は人によってさまざまです。最もよくみられるのは激しい腹痛ですが、随伴症状として、四肢痛、背部痛、胸痛、悪心、嘔吐、錯乱、不安、痙攣、四肢脱力、便秘、下痢、暗色尿あるいは赤色尿などがみられることがあります。発作中に麻痺や呼吸停止が起こる可能性もあることから、命に関わる危険もあります。また、患者さんによっては日常生活の機能や生活の質に悪影響を及ぼすこともあります。
AHPの症状は病気特有ではないものが多いため、婦人科疾患、ウイルス性胃腸炎、過敏性腸症候群(IBS)、虫垂炎などの他の病気と診断されることも少なくありません。世界的にみると、症状が現れてから診断がつくまでに平均15年に及ぶという報告もあります。
AHPが疑われる症状があっても、診断に必要な検査は不足していた
この研究は2019年4月からの3年間にわたり、この研究に参加した6つの医療機関の総合診療部門を受診し、腹痛を訴えて、腹部CT検査、上部・下部消化管内視鏡検査、腹部超音波検査のいずれかを受けた患者さんのカルテに書かれた情報を解析しました。そして、診断不明の腹痛の患者さんと、腹痛の原因が特定できた患者さんとのデータを比較しました。
最終報告によると、収集された症例1,915例のうち、腹痛の原因が特定されたのは1,598例 (83.4%) で、診断不明の腹痛は317例 (16.6%) でした。原因が特定された腹痛のうちAHPと診断されたのは0例でした。診断不明の腹痛について詳しくみると、全例でAHPの診断基準にある臨床所見が認められていました。そのうち198例 (62.5%) に尿検査が実施されていましたが、AHPを診断するための尿中アミノレブリン酸 (ALA) 及び尿中ポルフォビリノーゲン (PBG) の測定は行われていなかったことが明らかになりました。
原因不明の腹痛の診断基準確立で、AHPなど希少疾患の早期診断へ
今回の報告では、診断不明の腹痛の患者さんには、抑うつ症状や鈍痛の欠如といった特徴がみられ、検査入院によって診断が改善する可能性も示されました。また、AHPかもしれない症状が認められたにもかかわらず、診断に必要な尿中ALA、PBG測定が1例も実施されていなかったことが明らかになり、臨床現場でAHPという病気が十分に知られていないことが、重要な課題として改めて浮き彫りになりました。研究グループは、診断不明の腹痛の診断基準を確立することが、非特異的腹痛(NSAP)の患者さんの適切な診断と、AHPの診断プロセス短縮につながる可能性がある、と結論付けています。(遺伝性疾患プラス編集部)