SMA当事者に聞いた!分身ロボットOriHimeのパイロットという新しい働き方

遺伝性疾患プラス編集部

株式会社オリィ研究所は2021年6月、「分身ロボットカフェDAWN ver.β(ドーン バージョンベータ)」常設実験店を、東京・日本橋エリアにオープンしました。分身ロボットカフェとは、難病や障害を理由に外出困難な人々が自宅から分身ロボット「OriHime」「OriHime-D」を遠隔操作し、サービススタッフとして働くカフェのことです。

PCやスマホから操作することが可能な、分身ロボット。そのため、入院中の方や、重度の障害により首から下を動かすことができない方はもちろん、育児や介護、感染防止などで外出が困難な方々であっても、さまざまな場所から分身ロボットを通じて、カフェや受付での接客・案内、会議へ出席、講師や秘書などの仕事を行うことができます

※詳しくは、オリィ研究所のウェブサイト「AVATAR GUILD(アバターギルド)」をご覧ください。

現在、病気や障害を理由に外出が困難な方々は、「働きたい」という気持ちを持っていても自由に働くことが難しい状況にあります。オリィ研究所が提案する、分身ロボットのパイロットという働き方は、そんな方々の「働きたい」を後押しする、新たな一歩となりそうです。

今回は、「分身ロボットカフェDAWN ver.β(ドーン バージョンベータ)」オープン時から、分身ロボットのパイロットとして働く西村泉さんに、仕事を始めたきっかけや、やりがいなどについて詳しくお話を伺いました。

Dawn Pro

西村 泉(いずみ)さん

40歳。生後6か月の頃に、脊髄性筋萎縮症(SMA)と診断を受ける。

ハイハイがうまくできなかったことをきっかけに、診断に至った。

5~6年前に、SMA II型(別名:デュボビッツ(Dubowitz)病」だとわかる。

Twitterhttps://twitter.com/OriHime_izumi

経済的な自立を目指して「働きたい」

分身ロボットのパイロットに応募したきっかけについて、教えてください。

「経済的に自立したい」と考えたからです。

実は、8年ほど前から一人暮らしを始めました。家族が健康なうちに、自立して生活したいと考えたためです。今は、ヘルパーさんに来て頂きながら、生活しています。

一人暮らしを始めて5年くらい経った頃から、生活が安定してきたんですね。そこで、「次の自分の目標は何だろう?」と考えた時に、真っ先に浮かんだのが「経済的に自立したい」という気持ちでした。今は、障害年金と生活保護で暮らしています。働くことで、生活保護が無くても生活できるくらい経済的に自立することが、今の目標です。

そうだったんですね。分身ロボットのパイロットという仕事はどのように知ったのですか?

仕事を探している時に、インターネットで見つけました。ここ数年、仕事を探していたのですが、重度の障害となると、なかなか希望するようなお仕事が見つかりませんでした。そんな時、この分身ロボットのパイロットという仕事を見つけたんです。接客のお仕事は初めてでしたが、思い切ってチャレンジすることにしました。

緊張であっという間に過ぎ去った、パイロット初日

分身ロボットのパイロットのお仕事初日は、緊張されましたか?

はい、前日からすごく緊張しました。「お客様との会話、上手く続くかな?」という不安でいっぱいだったのを覚えています。前日も当日も緊張し過ぎて疲れてしまって、夜はぐっすり眠りました(笑)

お客様との会話、確かに不安ですよね。初日を終えられて、いかがでしたか?

パイロット初日は、あっという間に終わりました…!「お客様と、どう話したらいいんだろう?」と、それが初日に思った一番の課題でしたね。

目の前のお客様が、よくお話しされる方なのか、そうでない方なのか、パッと判断することが難しいんです。例えば、あまりお話しされないお客様の場合、無言になって変な間があいてしまうこともあって…「ここは、もっと自分のことをしゃべったほうがいいかな?」と思っても、うまくタイミングがつかめないことも。そんな時は、心の中で「どうしよう~!」と、叫んでいました(笑)。

初日、印象的だった出来事はありますか?

オーダーを受ける時に、焦って、何回も打ち間違ってしまったことです。「焦らないように、焦らないように…」と思うほど、何度も打ち間違ってしまいました。

お客様との会話もあまり覚えていないほど、初日は、あっという間に過ぎていきました。

分身ロボットのパイロットのデビューから、2か月以上が経ちましたね。泉さんの中で、変化はありましたか?

オーダーを受ける時は、焦らず、冷静に対応できるようになりました!最近では、打ち間違いもなくなりましたよ。最初の頃は、会話をしながら同時にオーダーも受けていたんですね。それで焦ってしまったので、今は、作業を分けて対応するようにしています。

あとは、お客様との会話にもやっと慣れてきて、最近は楽しめるようになりました。「もしTwitterをやっていたら、フォローしてくださいね」と、私のTwitterアカウントもご紹介しているので、お店から帰られた後も、お客様とTwitterで交流などもしています。Twitterを通じて、お客様から「今日は、ありがとうございました!」と、声をかけて頂けると、とても嬉しいです。

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「お客様との会話も楽しめるようになりました」と、泉さん。

疲れない秘訣は、ちゃんと休むこと

パイロットとして働く日の、一日の過ごし方について教えてください

朝は、8時前には起きます。朝ご飯を食べて、朝にお仕事が入っている時は、そのまま仕事をします。

お昼ご飯を食べた後は、だいたいお風呂に入ります。そこから、夕方にかけてお仕事が多いです。お仕事が終わった後は、夜ご飯を食べて、その後は自分の時間を過ごして寝ます。

仕事で疲れないように、どんな工夫をされていますか?

なるべく、自分の今までの生活リズムを崩さないように、気を付けています。そして、一番は「お休みの日は、ちゃんと休む」ということです。休むことで、リフレッシュして仕事も楽しむことができると思います。

アクシデントも味方に!日々の経験が成長につながる

分身ロボットカフェDAWN ver.β(ドーン バージョンベータ)で働く中で、印象的な出来事はありましたか?

嬉しかったこととしては、受付業務をしていたときに、4~5歳くらいの小さい女の子が来てくれて、一生懸命お話してくれたことですね。その姿がすごく可愛くて、私も嬉しくなりました。

実は、もともと、私は子どもがあまり得意ではなかったんです。だけど、OriHimeを通じてコミュニケーションを取ってみると、「子どもって、かわいいな」と、素直に思いました。

あと、これはちょっとしたアクシデントだったんですが、最近、接客中に、OriHimeの腕が壊れてしまうことが起こりました。飲み物をお客様の元へ運ぶとき、テーブルにOriHimeの腕がバン!と当たってしまい、腕が曲がって、うまく上がらなくなってしまって…。

お客様の前だったので、とっさに「腕が折れちゃいました…!」と言ったら、逆に、喜んで頂けました(笑)。写真撮影も喜んで頂けて、最後は「今から、治療に行ってきます!」と言って、バックヤードに帰りました。予想外のアクシデントでしたが、お客様がそういったことも含めて喜んでくださったので、本当に良かったです。

そんなアクシデントが…!泉さんのとっさの対応が、素晴らしかったんですね。

内心、すごくドキドキしていたんです。「怒られないかな?」と不安でしたが、結果的にお客様に喜んでもらえて、本当に良かったです。日々、さまざまな出来事があるので、これからも自分なりに考えながらお仕事と向きあっていきたいですね。

ちなみに、OriHimeの腕は、その後、オリィ研究所の優秀なエンジニアさんがすぐに直してくれましたよ。

失敗しても大丈夫。一緒に、一歩踏み出そう

分身ロボットのパイロットのやりがいは、どのようなところにありますか?

お客様と同じ時間を共有できること、そして、最後はお客様が笑顔になって帰っていく姿を見ることができるのがやりがいだと感じています。

皆さん、本当に満面の笑みで楽しんでくださるんですよね。アンケートでも、「友だちとしゃべっているように、楽しかった!」と書いて頂くこともあるくらいです。お客様が楽しんでもらえていることが伝わってくると、「ああ、やっていて良かったな」と感じます。

もちろん、仕事なので大変なことはありますが、お客様の笑顔を見るだけで「頑張ろう!」と、思えますね。

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お客様の笑顔が、泉さんの仕事の活力につながっている
最後に、分身ロボットのパイロットという働き方に興味を持たれている方々へ、メッセージをお願いします。

まず、やってみるということが一番大切なのではないでしょうか。心配なこともあると思いますが、難しく考えず、ぜひチャレンジして欲しいです。

また、オリィ研究所の方々は、本当に優しい方ばかりです。万が一、間違ったことをしても、怒られることはないので、安心してくださいね(笑)。失敗しても「大丈夫だよ」と言ってくれる方々が、ここにはいっぱいいます。

そして、私も、分身ロボットのパイロットを通じてこれからも多くの方々に出会い、「経済的な自立」という目標に向かって進んでいきます。


泉さんの明るいお人柄に、お話しを伺っているこちらも、いつの間にか笑顔になっていました。きっと、分身ロボットカフェDAWN ver.β(ドーン バージョンベータ)にいらっしゃるお客様も同じように、泉さんの明るさに癒され、笑顔になっているのではないでしょうか。お話を伺う中で、泉さんが楽しみながらやりがいを持って、分身ロボットのパイロットとして活躍されていることが伝わってきました。

「働きたい」という気持ちはお持ちで、病気や障がいを理由に一歩を踏み出せずにいるという方へ、働く選択肢の一つとしてこの分身ロボットのパイロットを知って頂けたらと思います。(遺伝性疾患プラス編集部)

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