困難な状況でも「周囲に、自ら積極的に伝えていく」大切さ
中外製薬株式会社は12月6日、「神経筋疾患患者の学習意欲を奪う壁と生涯学習の可能性」と題したセミナーを開催。脊髄性筋萎縮症(SMA)II型の当事者である増田優花さんらが、講演しました。
体幹や手足の筋力低下、筋委縮といった症状が現れる、進行性の遺伝性疾患SMA。増田さんは、SMAの症状によって4歳から電動車いすで生活しています。そんな中、幼稚園~高校は地域の普通学校に在籍し、大学へ進学しました。大学卒業後は、通信教育で翻訳の勉強し、医療関係の事務、SMA当事者グループにおける交流イベントの企画・運営を担当。現在は、分身ロボット「OriHime」※のパイロットとしても仕事しています。今回、増田さんは「普通学校、大学から就職まで歩んだ苦労と学び」のテーマで講演されました。
※分身ロボットは、PCやスマホから操作することが可能。そのため、入院中の方や、重度の障害により首から下を動かすことができない方など、外出が困難な方々であっても、さまざまな場所から仕事を行うことができます。詳細は、コチラの記事をご覧ください。
増田さんが普通学校へ入学を検討していた当時、お住まいの地域では、電動車いすの交付や、重度肢体不自由児(肢体の不自由の程度が重度と認められる児童)の普通学校への入学などについて、前例がなかったそうです。そうした中、増田さんは丁寧な働きかけを続け、周りの方々と協力体制を築いてきました。
苦労した経験も多かったそうですが、「置かれた環境と自身の身体能力のギャップの中で、視野を広げ工夫する力を身につけた」と、増田さん。困難な状況でも「周囲に、自ら積極的に伝えていく大切さを学んだ」と前向きに話しました。
小学校~大学まで、それぞれの環境で対話を
頻繁に体位変換が必要で、長時間の座位がとれない増田さんは、日常生活で介助が必要な状態です。そのため、学校側へ配慮をお願いする必要がありました。
まず、小・中学校の学校生活では、介助人員の配置、横になって体を休められる個室の確保、授業への途中参加、ノートテイク(ボランティアの学生さんが一緒に授業を受け、その場で文字通訳すること)などを相談し、配慮してもらうことが可能に。「運動面では叶わない。勉強面であれば対等。だから勉強で頑張りたかった」と、増田さん。実現に向けて、教育委員会や学校の先生方との対話を地道に重ねていったそうです。
その後、エレベーターが設置されている私立高校へ進学。県内の公立高校にはエレベーターが設置されていなかったので、私学を選択したそうです。高校では、「教員の配置ができない」など新たな問題も生じましたが、親の付き添いを提案するなどして、臨機応変に対応を重ねていきました。
そして、大学は「障がい学生支援室」が設置されている学校を選択して進学。学校側へ相談を重ね、参加できない時間の授業録画、ノートテイクなどの対応も実現したそうです。
協力体制を築くために心がけてきたこと
このように、それぞれの環境にあわせて対話を重ねてきた増田さん。基本的なこととして「感謝の気持ちを積極的に伝えることが大切」と、述べました。その他、協力体制を築くために心がけてきたこととして、以下の内容を紹介しました。
- こちら側で対応可能なことは、できる限り対応する
- 相手に対して、一方的に要望を伝えるのではなく、丁寧に説明し、歩み寄る
また、「障がいがあっても与えてもらうばかりではなく、それぞれができる形で社会の役に立ちたい」と、増田さん。そのためにも「自らが学ぶことが重要」と、述べました。
新たなツールの活用も視野に。さらなる環境整備に期待
最後に、これからの社会に望むこととして、「身体状況に左右されない教育」「既存の体制を越えた柔軟な対応」などを挙げた増田さん。また、「新たなツールの活用」の重要性も述べ、例として、分身ロボット「OriHime」を紹介。こうしたツールを柔軟に取り入れながら、誰もが自宅や病院から、授業や仕事に参加できる社会となることに期待を寄せました。
また、今回のセミナーでは、東京都立光明学園統括校長の田村康二朗先生と、みらいつくり研究所所長の土畠智幸先生を交えたトークセッションも行われました。田村先生は、「以前と比べて、環境の整備は進んでいる」とし、土畠先生も、神経筋疾患患者さんについて「地域の普通学校へ通うことは、不可能というわけではなくなってきている」とコメント。今後、さらなる環境整備が期待されます。(遺伝性疾患プラス編集部)