医療的ケアと向き合う当事者に聞いた!お出かけを楽しむための準備と心構え

遺伝性疾患プラス編集部

うららさん

うららさん

未診断の時期を経て、31歳の頃にアイザックス症候群および遺伝性驚愕病と診断を受ける。

医療的ケアと向き合いながら、SNSでさまざまなお出かけ情報を発信中。

 

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医療的ケアが必要な当事者の場合、お出かけを考える際にさまざまな心配ごとが出てくるかと思います。例えば、旅行を計画する時など、心配や不安に思うことがより一層多くなるかもしれません。そんな時は、どのようなことに気をつけて準備を進めたら良いのでしょうか?

そこで今回は、ご自身もまた医療的ケアが必要な当事者であり、お出かけなど日常生活を楽しむ様子をSNSで発信しているうららさんにお話を伺いました。うららさんがお出かけの際に気を付けていることや、事前にどのような準備をしているかなど、詳しく教えていただきました。

また、うららさんは、なかなか診断がつかない未診断の時期を過ごされた経験をお持ちです。幼少の頃から症状が現れていたものの、アイザックス症候群と遺伝性驚愕病(hereditary hyperekplexia)と診断を受けたのは31歳の頃でした。未診断疾患イニシアチブ(IRUD)にも参加しています。今回は、診断に至るまでのご自身のご経験についても、あわせてお話を伺いました。

お出かけ中の症状への対処、事前の準備がポイントに

お出かけを楽しむために、気を付けていること・工夫していることを教えてください。

当日に向けて気を付けていることは、体調を整えることです。お出かけ当日は、現れやすい症状に対して、できるだけ対処するように心がけています。自分の場合は、「音」や「光」の刺激によって発作を起こすことがあるので、その対策が欠かせません。例えば、音に対してはヘッドホンを装着する、光に対してはサングラスをかける・日傘をさすといったことをします。ヘルパーさんと一緒に、お出かけ前の事前確認もしています。例えば、救急車と遭遇した時は、サイレンの音で発作が起きやすいので、ヘルパーさんに特に注意してもらうといったことです。救急車の音など避けることが難しいケースもあると思いますので、その場合は、症状が起こった場合の対応を事前に決めておくことが大切だと思います。

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「現れやすい症状に対して、できるだけ対処するように心がけています」と、うららさん

その他、自分の場合は医療的ケアに必要な医療機器があり、荷物が多くなりがちです。そのため、必要なもの以外はなるべく荷物を減らすように気を付けています。

自分と同じように不安をお持ちの方へ、情報を届けたい

SNSでの発信を始めたきっかけはありますか?

「医療的ケアが必要で障がいを持つ場合でも、一人暮らしできることを伝えたい」と思ったことがきっかけでした。そのために、実際に一人暮らしをしている自身の生活の様子を発信し始めました。せっかくなので、楽しんでいる様子をお届けできたら、と考えています。

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SNS発信のきっかけは「医療的ケアが必要で障がいを持つ場合でも、一人暮らしできることを伝えたい」と思ったこと

SNSでの発信を始めて、さまざまな方々からコメントをいただけるようになり、うれしく思っています。「勇気や希望をもらった」「笑顔がすてきだね」といったコメントをいただき、私自身、多くの方々から元気をもらっています。また、SNSでの発信を通じて、仲間が増えた実感があります。全国に仲間がいるので、オンラインを中心に交流していますが、最近では少しずつ直接会う機会も増えてきてうれしいです。

その他、1人暮らしに関して当事者から相談していただく機会も増えました。そういったことからも、SNSでの発信を始めて良かったなと感じています。

東京ディズニーランド旅行の情報をnoteで発信しようと思われたのは、なぜですか?

私自身、東京ディズニーランド旅行を計画する際に、知りたいと思う情報になかなかたどりつけなかったからです。もちろん、東京ディズニーリゾートの公式ウェブサイトでは、車いす利用者向けの情報発信が行われています。ただ、「大型の電動車いすの場合は?」「医療的ケアが必要な大人の場合は?」など、自分が知りたい情報にピンポイントでたどりつくことはできませんでした。

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うららさんのnoteより

特に、自分の場合は「アトラクションも楽しみたい!」と考えていたので、情報収集が必須でした。医療的ケアが必要なお子さんの場合は、家族が抱っこすることでアトラクションに乗れる場合があります。しかし、自分の場合は体の大きさから抱っこしてもらい乗ることが難しいので、どのように対応するのが良いか?など、知りたいけどよくわからない状況でした。そのため、自分と同じように不安をお持ちの方へ情報を届けたいと考えたのです。

ヘルパーさんと事前シミュレーションなど、準備を重ねて楽しめた

ディズニーランド旅行の準備では、どのようなことが印象に残っていますか?

当日実際に行かないとわからないことが多くて、いくら準備しても不安はなくならなかったです。特に、アトラクションに関しては、問い合わせ窓口で聞くと、「当日、キャスト(スタッフのこと)に指示を仰いでください」という回答が多かったため不安でした。例えば、「人工呼吸器をアトラクションに乗せることできますか?」と聞くと「邪魔にならなければ大丈夫です」といった曖昧な回答しか得られませんでした。そこで、自分の場合は人工呼吸器を膝におこうと考えて準備していたのですが、当日、実際にアトラクションに乗る時、アトラクションのバーがぶつかるので難しいといったケースもありました。そのため、その場でキャストさんに調整してもらう、などの対応が必要でした(詳しい情報は、ぜひうららさんのnoteをご覧ください)。

ヘルパーさんと事前に話し合って、シミュレーションする準備も大切だったと思います。詳細は現地に行かないとわからないことが多いものの、公式が発信しているYouTubeや写真などの情報から、必要な対応を想定していくことは大切だと思いますね。

ヘルパーさんとは、事前にどのような準備をしていましたか?

例えば、自分の場合は立位ができないので、アトラクションに乗る際にはヘルパーさんに乗せてもらうことを前提に考えていました。座位が不安定なので、「アトラクションの背もたれの高さはどれぐらい?」といった確認をしたり、「アトラクション内のどこに呼吸器を置く?」といったことを一緒にシミュレーションしたりしていました。不安は多かったですが、事前にヘルパーさんと準備していたことで安心でき、当日はスムーズに楽しめたと思います。

自分の場合は、適応力があるヘルパーさんが一緒だったので、本当に心強かったです。現地で急な判断を求められた場合も、柔軟に対応していただけました。

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うららさんとヘルパーさん

当事者から「楽しむためのハードルが下がった」の声も

SNSでの発信を通じて、どういった声が届いていますか?

当事者からは、「勇気をもらった」「自分も行ってみたいと思えた」といった声が届いています。きっと、医療的ケアが必要な大人がディズニーランドを楽しむ姿はイメージしづらいかと思うんですね。でも、実際に私の発信を通じて「楽しむためのハードルが下がった」と言ってくださった方もいました。

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ディズニーランドを楽しむ、うららさん
医療従事者からは、どういった声がありましたか?

医療従事者の方々は、私がディズニーランドでアトラクションを楽しんでいる姿を見て、「え!本当に乗れたの?」と、びっくりしていました(笑)。元々、ディズニーランドに行く前に医療従事者に相談した際に、「アトラクションに乗るのは難しいかもしれないね」と言われていたんです。だけど、私は「実際にディズニーランドに行くからには、やっぱりアトラクションも乗って楽しみたい!」と思っていました。

当事者だけでなく、医療従事者も「ディズニーランドに行くことはできても、アトラクションには乗れないのではないか?」と思っている方がいらっしゃると思います。もちろん、無理のない範囲で楽しむことが大切だとは考えます。私の発信を通じて、実際に医療的ケアが必要な当事者がアトラクションに乗って楽しんでいる姿も知ってもらえたらうれしいですね。

今後、行ってみたいと考えている旅行先について教えてください。

たくさんあるので迷いますが…今、特に気になっているのはグランピングです!キャンプではなくグランピングだと、電源なども確保できる場合があるので、安心して医療機器を持ち込むことができます。車いすによる移動なので、急な坂はないか?段差は多くないか?など確認することが必要だと思います。バリアフリーに対応した場所もあるようなのですが、せっかくなので自分が「行きたい」と思った所に行くつもりです。そのために、少しずつ準備を進めていきたいと思います。

幼少期から現れていた症状、31歳でようやく診断へ

続いて、診断に至るまでのお話をお伺います。これまで、どのような症状が現れていましたか?

幼少の頃から現れていた症状は、何もない所でも転びやすいといったものです。また、中学生の頃には、原因不明の呼吸困難も生じていました。その後23歳になると、以前よりもはっきりと症状が現れるようになりました。具体的には、転びやすいことに加え、座った状態から自ら立ち上がれない、腕が重たく感じてあげることが難しいという症状です。また、心不全を発症し、しばらく呼吸が苦しい状況が続きました。さまざまな職種を経験していましたが、ギリギリまで働いていた介護の仕事も辞めることを決めました。

最初の頃はいくつかの整形外科を受診しレントゲンなどの検査を受けたのですが、「異常はない」とのことで、原因はわかりませんでした。明らかに症状は現れていましたが、「異常がないのなら、大丈夫なのかな」と私も考えるようになり…。しかし、いよいよ歩くことが難しくなってきた時、神経内科を受診するよう勧められて、また複数の病院を受診する日々が始まりました。

可能性のある病気としては、どのようなものがありましたか?

脊髄小脳変性症に含まれる痙性対麻痺、スティッフパーソン症候群などが候補としてあがっていました。しかし、なかなか確定診断には至らない日々を過ごしました。また、これらの病気に加えて、心因性疾患の1つ身体症状症も候補としてあがっていた時期があります。そこから、今の主治医と出会い、31歳の頃にアイザックス症候群と遺伝性驚愕病(hereditary hyperekplexia)の診断を受けました。

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診断に至るまで、さまざまな病気が候補としてあがっていた
未診断疾患イニシアチブ(IRUD)に参加された経験はありますか?

はい。2021年に参加し、現在、結果を待っている状況です。IRUDを知り、以前お世話になっていた先生に「参加したい」と伝えていました。ただ、心因性疾患の可能性が指摘されていたことや、通っていた病院が大学病院などの拠点病院でなかったことなど、さまざまな理由から、なかなか参加させてもらえずにいました。そこから、アイザックス症候群と遺伝性驚愕病と診断してくださった今の主治医の元へ通うようになったタイミングで参加させてもらったという経緯です。どちらの病気も症状から診断がついている状況なので、遺伝子などを含めその根本的な原因を突き止める、IRUDの結果を待っている状態です。

未診断の時期に心因性疾患の指摘も、自分で自分を責めた経験

未診断の時期は、どのような気持ちで過ごされましたか?

自分自身、症状が現れていることは感じているのに原因がわからないという状況だったので、現実とどう向き合ったらいいのかわからなかったです。いくつも病院を受診して検査を受けるものの、その度に原因がわからない状況が続いていたことも、精神的な負担につながっていました。原因がわからないと言われる割に、23歳頃からは特に症状の進行が早まっている実感があったので、不安が大きかったです。整形外科ではわからず神経内科を受診するようになった時点で、歩くことができなくなっており、そこからは、まるで坂道を下っていくように症状が進行していきました。

また、自分の病名を示すことできないことで、周りからの理解を得るのも難しい状況がありました。例えば、行政の福祉サービスを受けたり、障害者手帳を申請したりするのにも診断名を求められました。自分は、どのように支援を受ければいいのかさえ、わからない状況でした。これからの自身の生活に対して、不安を感じない日はなかったです。

その他、原因がわからないことで、心因性疾患の可能性を指摘される状況が続いたことも、精神的な負担につながっていきました。自分の場合、症状が強く現れるようになったのが社会人1~2年目の頃だったため、「働き始めたことによるストレスなど、精神的な影響が大きいのではないか?」と指摘されていました。

未診断の時期を経て診断を受けられた時は、どのようなお気持ちでしたか?

病名がついて、とにかくほっとしました。これまでは、病名がわからないことで、自分の症状がどのように進行していくかわからない不安があったからです。また、周りの人からの理解も得やすくなるだろうと思い、うれしかったです。周りの人に「私は、こういう病気です」と言えるだけで、全然違います。希少疾患なので病名が知られていないことが多いかもしれないですが、自分にとっては大きな変化でした。自分の病気がわかったことで、ようやく居場所を見つけられたような気持ちになったんです。

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「自分の病気がわかったことで、ようやく居場所を見つけられたような気持ちになった」と、うららさん

また、もどかしく感じていた家族との関係性も変わりました。心因性疾患の可能性を指摘され、心療内科を受診していた頃、家族は主治医から身体症状症への対応の1つとして「支援しすぎないように」とアドバイスを受けていたようです。そのことから家族は、私の病気について「努力すれば、治るのではないか?」と考えていたそうです。そのため、診断がつかない間は、少しずつ家族との関係性が変わっていきました。私自身は、歩けなくなったり、呼吸がうまくできなくなったり、症状の進行を痛感していたので…。心因性疾患の可能性を指摘されるたびに、「疑われる自分がいけないのではないか」と、自分で自分を責めた時もありました。しかし、病名がわかったことで心因性疾患ではないことがわかり、本人が頑張ることで症状が改善されるものではないと家族にも理解してもらえました。

病名がわかったことで、ご家族とは病気についてどのような話をされましたか?

家族の中に、遺伝性驚愕病が疑われる症状が現れている人がいたので、遺伝の可能性がある病気であることを伝えました。転びやすいなど、初期の頃の自分に現れていた症状が現れているようです。

現在は、どのような症状が現れていますか?また、必要な医療的ケアもあわせて教えてください。

全身の不全麻痺、慢性呼吸不全、排痰(はいたん)ができない、嚥下障害、軽症の構音障害(はっきりと話すことができない)が生じています。また、音や光の刺激によって発作が生じます。発作によって自分ではコントロールできない状態で全身が石のようにかたまり、ひどいと呼吸ができなくなる場合もあります。

必要な医療的ケアは、24時間対応のマスクタイプの人工呼吸器、痰吸引器や排痰を補助するカフアシストという機械を使っています。

皆さんの「やってみたい」のきっかけになったらうれしい

医療的ケアと向きあう当事者・ご家族へメッセージをお願いいたします。

医療的ケアを必要とする場合、日常生活において大変なことや不安なことは多いと思います。ちょっとしたお出かけや旅行を考える場合、それはなおさら多いのではないでしょうか。でも、実際にやろうとしてみると「意外と、できることはある」と気付くことも多いと思います。だから、少しずつで大丈夫なので、できることを前向きに探してもらえたらと思います。私も情報発信を続けていくので、皆さんの「やってみたい」のきっかけになってもらえたら、うれしいです。

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これからも、うららさんの情報発信は続く

うららさんのSNSでの発信を見て、思わず笑顔になったり、楽しい気持ちになったりした方もいらっしゃるのではないでしょうか?遺伝性疾患プラス編集部も、その1人です。お出かけや旅行に向けてさまざまな準備をしていること、また、その経験を同じように悩む当事者に届けたいという、うららさんの思いが伝わってくる取材でした。

医療的ケアや障がいと向き合う生活の中で、「お出かけや旅行は、ハードルが高い」と感じられている当事者もいらっしゃるかもしれません。そんな時は、うららさんのSNSをチェックしていただき、何かのきっかけにつながってもらえたらうれしいです。(遺伝性疾患プラス編集部)

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