血友病に関わるご家族・保因者が知っておくべき生活のヒント

遺伝性疾患プラス編集部

血液凝固因子の活性が全くない、もしくは十分な活性が得られないために非常に血が止まりにくくなる遺伝性疾患「血友病」。不足する血液凝固因子が第VIII(8)因子の場合は「血友病A」、第IX(9)因子の場合は「血友病B」と呼ばれます。血友病は、X連鎖劣性(潜性)遺伝という遺伝形式をとることから、患者さんのほとんどは男性で、女性は保因者となります。多くの保因者は、血液凝固因子が正常なため、日常生活で困ることは少ないですが、一部の保因者では因子活性が低下して鼻出血や過多月経が見られることがあります。

今回の記事では、血友病と向き合うご家族の心のケア、また、ご自身やお子さんが保因者の場合に注意すべきポイントについて、東京医科大学病院臨床検査医学科主任教授・診療科長の木内英先生に解説していただきました。

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東京医科大学病院臨床検査医学科主任教授・診療科長 木内英先生

ご家族の心のケア、日常生活の悩みとの向き合い方

ご家族は、日常生活に関わるお悩みとどのように向き合ったら良いでしょうか?

これは血友病に限らず言えることですが、同じ立場の方に相談することが選択肢の1つとしてあげられます。例えば、血友病の患者会・ご家族向けの会があります。医師や血友病でない友だちへは相談しづらいことも、同じ患者やご家族同士なら気軽に相談できるということもあると思います。血友病に関わる生活のお悩みや心配ごとなど、ご自身の気持ちを共有できる場を持ち、お気持ちを抱え込む前に吐き出せる場が持てると良いですね。

また、主治医の先生に対して、なかなかコミュニケーションを取りづらいと感じている方もいらっしゃると思います。限られた診療時間の中では、話せることも限られるでしょう。そんな時に、同じ血友病と向き合うご家族のつながりがあることで、役立つことがあるかもしれません。治療に関わることは医師に相談していただき、生活に関わるお悩みや心配ごとはご家族に相談するのも良いでしょう。

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「同じ境遇の方と知り合えるといいですね」と、木内先生(写真はイメージ)

「ご自身」「お子さん」が保因者である可能性に気付いた場合

お子さんの診断をきっかけに、ご自身が保因者である可能性に気づくケースもあると伺います。その場合、どのようなことに気をつけたら良いでしょうか?

お子さんが血友病と診断されても、母親が保因者であるとは限りません。保因者のうち、①父親が血友病の娘さん、②2人以上の血友病の息子さんを産んだお母さん、③1人の血友病の息子さんと母方親戚に血友病がいるお母さん、のいずれかを確定保因者と呼びます。一方、①1人の息子さん、②1人の母方家系での親戚、で血友病がいる場合を推定保因者(保因者の可能性があるが、保因者とは限らない)と呼びます。最終的に保因者かどうかを確定させるためには、遺伝子検査が必要となります。

私たちは遺伝子検査相談を全国から受けますが、検査にあたってはご本人から注意深くお話を伺っています。遺伝子検査を希望する理由は、「血友病の息子さんが生まれたので、お2人目を考えるにあたって遺伝子検査を希望した」「ご親戚の中に血友病の方がいて、ご自身が結婚・妊娠・出産を考えている」、などが多いです。後者ではご自分が保因者でないことを確かめたいという思いで希望する方もいますが、必ずしも望んだ結果が出るとは限りません。こうした方々は、ご本人だけでなくご主人や親戚も血友病に関する十分な知識がないまま、誤った先入観で不安を募らせているケースが多いので、現在の血友病患者の状況や各段に進歩した治療などをご説明することが大事だと考えています。一方で、遺伝子検査には大きなメリットがあります。保因者と判明すれば、安全な妊娠・出産にむけて母体の因子活性をモニターし必要な治療を施す、男児である場合は適切な分娩方法を選択することができます。また、出産後は速やかに診断して、赤ちゃんに重大な出血や合併症がないように適切な治療方針を相談することができます。検査希望の方には、十分な知識を持っていただき、遺伝子検査の目的をご理解いただけるよう、慎重に話を進めていくことを大切にしています。

お子さんが保因者の可能性がある場合、どのように情報を伝えたら良いですか?

お子さんの父親が血友病の場合は確定保因者となります。一方、兄弟の一人が血友病だったり、母方親戚に血友病がいたりする場合は、推定保因者となります。この場合、ご両親や親戚が心配してお子さんの遺伝子検査を希望されることがあります。しかし、遺伝子情報はご本人の重要な個人情報です。保因者であると診断された場合に、それが自分にとってどういう意味を持つのか、きちんと受け止めて自分自身で判断できることが非常に重要です。したがって、お子さんがご自身で遺伝子検査を受けるかを判断できる年齢であることが重要です。また先ほども申し上げた通り、お子さんの遺伝子検査を希望するご家族には、血友病や遺伝の知識がないまま「保因者でないことを確認したい」という希望も多いのですが、望んだ検査結果になるとは限りません。姉妹で結果が異なることも珍しくありません。お子さんの検査にあたっては、①お子さんが遺伝子検査を自分の意思で受けて、いかなる結果も受け止められる状態であること、②血友病に関する十分な知識があり、いかなる検査結果も家族みんなで受け止めること、が大事だと考えています。

以上を考えると、お子さんの遺伝子検査を検討する年齢は、ご本人が成人した後、もしくはパートナーができて、結婚・妊娠・出産を考えるようになった頃が良いと思われます。「将来、もし自分が子どもを望むようになったら…」と、検査を自分事として考えるようになると、さまざまな知識をしっかり消化できることが多いような印象を持っています。

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「お子さんご自身で、遺伝子検査の結果を受け止められるかどうかがポイントです」と、木内先生(写真はイメージ)

保因者の妊娠・出産、血液凝固因子活性の把握

保因者の女性における、生活の注意点を教えてください

保因者と診断されても、多くの方は血液凝固因子活性が正常のことが多いので、一般の方と同じように生活を送ることができ、日常生活で気をつけることはあまりありません。しかし一部の方は過多月経などの症状を呈することがあります。意外に女性は自分の月経が多いのか少ないのかわからず、過多月経に気が付かない人もいます。目安としては、①トータルの生理日数が8日以上、②出血量(経血量)の多い日が3日以上など、が挙げられます。過多月経の原因として圧倒的に多いのは子宮筋腫などの婦人科的疾患ですので、まず婦人科の先生に相談しましょう。そこで異常がなかったら血液凝固の異常を考慮します。その他、「鼻出血が多い」「歯科で治療を受けた時に、血が止まりにくかった」「あざが多い」などの症状もあるようなら、受診を考えましょう。

保因者と診断されたら、ご自身の血液凝固因子活性を検査しておくことも大事です。保因者の中には、因子活性が40%未満、いわゆる女性血友病と呼ばれる方がいます。こうした方は、普段の生活で特に支障がない場合であっても、大けがや手術時に血が止まりにくい状況になることがあります。万が一の時に備えて、普段から主治医の先生に相談しましょう。

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「大けがや手術など、万が一の時に備えて主治医の先生に相談しましょう」と、木内先生(写真はイメージ)

ちなみに、女性は妊娠するとほとんどの血液凝固因子活性が増加します。もともと因子活性が少し低い保因者でも、妊娠後期には正常レベルまで増加するので、多くの方は血液製剤の補充をしなくても無事に出産できます。ただし、もともとの血液凝固因子活性が極端に低い方は、妊娠しても十分なレベルまで上昇しないことがあります。妊娠する前に、普段の血液凝固因子の活性をチェックしておくと良いでしょう。


今回の記事では、血友病に関わるご家族・保因者が知っておくべき生活のヒントについて、木内先生に教えていただきました。ご家族・保因者、それぞれの立場で知っておくべきポイントがありましたね。特に、保因者の場合は、ご自身やお子さんが「確定保因者」か「推定保因者」かによって、気をつけるポイントが異なります。もし不安なことがあれば、速やかに主治医の先生に相談しましょう。(遺伝性疾患プラス編集部)

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木内 英先生

木内 英先生

東京医科大学病院臨床検査医学科主任教授・診療科長。慶應義塾大学医学部を卒業。専門は、血友病、出血性疾患、血栓性疾患、HIV感染症、日本小児科学会認定小児科専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医。