医療的ケア児の成長を楽しく記録「医ケアkids手帳」、ご家族の負担軽減に期待

遺伝性疾患プラス編集部

医療的ケア児と向き合うご家族は、日々、さまざまな情報管理を求められます。例えば、「診察時の医師のお話を、支援者とスムーズに情報共有できたらいいのに」「受給者証や申請書類の履歴など、一か所にまとめられないかな?」と感じたことはありませんか?一般社団法人スペサポは2024年12月、このようなご家族の情報管理の負担を減らし、お子さんの成長を楽しく記録できるアプリ「医ケアkids手帳」をリリースしました。

スペサポはこれまでに、ポータルサイト「医ケアkidsナビ」、ご家族・支援者向けコミュニティサイト「医ケアkidsルーム」をオープンするなど、さまざまな活動を行ってきました。今回の「医ケアkids手帳」は、医療的ケア児はもちろん、さまざまな病気・障がいがあるお子さんのご家族向けのアプリ。ご家族の情報管理の負担を軽減する工夫はもちろん、「できたよ記念日」など、お子さんの成長を楽しく記録できる機能も盛りだくさんです。代表理事の鈴木啓吾さんは、ご自身もまた医療的ケア児のご家族です。鈴木さんご自身の経験も踏まえてつくられた、「医ケアkids手帳」。今回は、同アプリの使い方について、詳しくお話を伺いました。

Kids 01
一般社団法人スペサポ ウェブサイトより

無料・匿名で成長記録、ご家族が楽しんで育児と向き合うための5機能

「医ケアkids手帳」は、どなた向けのサービスですか?

主に、医療的ケア児とそのご家族向けの「成長記録ツール」です。私たちスぺサポは、「医療的ケア児・ご家族の暮らしを豊かにする」という考えから活動を開始しました。そのため、これまでにリリースした「医ケアkidsナビ」や「医ケアkidsルーム」と同じように、「医ケアkids」という名前を用いて「医ケアkids手帳」というサービス名にしていますが、医療的ケアの有無に関わらず、難病やさまざまな障がいがあるお子さんのご家族にも便利に使っていただけると考えています。

私たちが医ケアkids手帳をつくった目的は2つあります。1つ目は、「お子さんの成長を記録していくことで、ご家族が楽しんで育児と向き合えるお手伝いをすること」、2つ目は「ご家族の情報管理の負担を軽減すること」です。医療従事者や支援者の方々からも、ご家族へアプリをご紹介いただけたらと考えていますし、実際に使っていただけたらうれしいですね。

「医ケアkids手帳」の利用方法や機能について教えてください。

まず、医ケアkids手帳は、これまでのサービスと同様に匿名登録が可能です。また、全ての機能を無料でお使いいただくことができます。主な機能は以下の5つです。

(1)身長体重曲線による成長状況の確認(グラフ化)

お子さんの身長や体重の成長状況をグラフ化して確認することができます。標準値との比較ではなく、お子さんならではの成長を体感できるように、「標準値on/off」の機能があります。

(2)できたよ記念日(子どもの成長を写真と共に記録)

お子さんの成長を、写真とともに記録できる機能です。例えば、「搾乳を飲めた」「首を少し動かせた」「手を開けるようになった」「支えてもらってお座りできた」「NICUの外へ出られた」「アラートなしで一晩過ごせた」といった成長を記録することができます。

Kids 02
一般社団法人スペサポ ウェブサイトより

(3)受給者証や補装具の申請書類などの書類一括管理

お子さんの医療費受給者証や福祉用具の申請書類などを、一括管理できる機能です。PDFや写真の形式で保管することができます。

(4)主治医のコメントメモやエックス線(レントゲン)写真の一括管理

通院時のメモを記録できる機能です。エックス線などの写真やPDFもあわせて記録できます。ご自身のメモとしてだけでなく、ご家族や支援者への情報共有時にも役立ちます。

(5)栄養増減の記録管理

メモ形式で栄養の増減を記録可能です。例えば、医療的ケア児の場合、成長に応じてミルクの量が変わったり、ミキサー食の量が変わったり、栄養剤の量が変わったり、といった変化が頻繁にあります。このような小さな変化も、記録として残すことができます。

Kids 03
一般社団法人スペサポ ウェブサイトより

お子さんの成長を感じられるツールで、ご家族の幸せな時間を増やしたい

「医ケアkids手帳」開発のきっかけを教えてください。

もし、お子さんの成長をもっと感じられるようなツールがあれば、ご家族の幸せな時間を増やせるのではないかと考えたからです。

私の娘は、医療的ケア児です。比較的小さな体で誕生し、生まれたときから脳の障がいを持ち、自発呼吸が難しい状況でした。そのため、日常的に人工呼吸器などの医療的ケアを必要とし、成長速度はとてもゆっくりです。娘の育児を通じて感じるのは、ゆっくり成長する子の場合、たとえ小さい成長であっても、家族にとってはすさまじくうれしいということです。それは、ときに涙するほど感動する出来事でもあります。ですから、この感動を記録できるツールをご家族向けにつくりたいと考えました。

このような背景から、ゆっくり成長するお子さんならではの成長に目を向けられるように工夫を取り入れています。例えば、主な機能(1)身長体重曲線による成長状況の確認で「標準値on/off」を設けていることや、主な機能(2)できたよ記念日も、その一つです。医療的ケア児など、病気や障がいがお子さんにとっては、日常の細やかな瞬間一つひとつが感動する出来事です。この感動を記録することで、ご家族の幸せな時間を増やすお手伝いができたらうれしいです。

鈴木さんが特に印象に残っている、娘さんの記念日エピソードを教えてください。

「目を少し閉じられるようになった記念日」です。娘は、自分で目を閉じたり開けたりという動作が得意ではありません。そのため、基本的には目が開いています。ですが、ある時、寝るときに自分で目を少し閉じられるようになってきていることに気づきました。ゆっくりではありますが、「娘は、確実に成長している」と感じられてうれしくなった瞬間でした。

「医ケアkidsナビ・ルーム」で得た情報を個別管理、必要な情報を一か所に

「医ケアkidsナビ」「医ケアkidsルーム」とは、どのように連携していますか?

簡単にご説明すると、「医ケアkidsナビ」は情報を得る場所、「医ケアkidsルーム」は双方向で情報交換できる場所、「医ケアkids手帳」は、ご自身が集めた情報を個別に管理する場所、というイメージです。ナビとルームで得た情報を手帳に収納していくことで、ご自身が必要とする情報を一か所に集約できる仕組みです。

Kids 04
一般社団法人スペサポ ウェブサイトより

「医ケアkidsナビ」は、ご家族が必要とされる基本的な情報を探すことができる場所です。さらに詳細な情報を知りたい場合は、「医ケアkidルーム」で相談できます。情報を必要としている人と情報を持っている人がつながって双方向に情報交換する場所なので、「医ケアkidsナビ」よりも個別性の高い情報を得ることができます。

そして、これらの情報を管理するツールとして「医ケアkids手帳」を使って頂ければ嬉しいです手帳の活用によって医療従事者や支援者とのコミュニケーションがより円滑になることも期待しています。その他にも、児童発達支援・放課後デイサービス・保育園・学校へ通いはじめるとき、ショートステイへ行くとき、お子さんに必要な医療的ケアや特徴を説明する際にも、医ケアkids手帳を活用しながらスムーズな情報共有が可能になります。

“かゆいところに手が届く”機能でご家族の負担を軽減

実際に使用されている方々からは、どのような感想が寄せられていますか?

2024年12月15日にリリースして、約60人の方に登録・利用していただいています(2024年12月現在)。利用者の声はこれから本格的に集めていく予定です。現時点では、特に主な機能(3)受給者証や補装具の申請書類などの書類一括管理は「便利!」という声が多い印象です。例えば、病院やショートステイの予約を会社に行っている時に対応する場合、お子さんの診察券や医療費受給者証の番号が手元にないと予約ができません。これらの情報をアプリにまとめておくことで、書類を持ち歩かなくてもよくなります。

また、補装具や日常生活用具にはさまざまな種類があり、例えば吸引器、バギー、上下肢装具などは定期的な申請が必要です。申請時期は、一つひとつ異なるため、都度申請対応が必要になります。申請の際には、「前回、〇〇を申請したのはいつだったかな?」といった確認が必要で、そのたびに書類を見返すことが珍しくありません。「医ケアkids手帳」には補装具や日常生活用具の耐用年数満了年月を記録できるので、新しく作ったり、購入可能になったりする時期の目安にすることができます。小さなことですが、「ご家族の負担を軽減する」「かゆいところに手が届く」ようにという思いでつくりました。

医療従事者や支援者とのコミュニケーションでは、どのように活用できますか?

まず、主な機能(4)主治医のコメントメモやエックス線写真の一括管理は、受診時のメモとしてお使いいただけます。医療的ケア児の多くは定期的に通院しており、お父さんとお母さんが一緒に行く場合もあれば親御さん一人で行く場合も少なくありません。先生からの大事な話は集中して聞きたいところですが、吸引などの医療的ケアが頻回なお子さんの場合、医療的ケアをしつつ先生の話を聞くことになってしまいます。このように、診察時に集中してお話を聞けない場合や、前回の診察内容を見直したい場合などに備えて、キーワード・わからなかった言葉などメモしておく使い方を想定しています。

また、在宅医療を受けているご家族の場合、通院時の診察に関する情報を訪問看護師や訪問介護士や訪問リハビリテーション職にも共有する必要がありますが、この手帳のメモや画像を見てもらうことでスムーズな情報共有が可能になります。

さらにご家族の負担を軽減させるために、将来的には、外部ツールとの連携など、検討していきたいと考えています。

蓄積した記録は、お子さんが大人になった後も活用

お子さんの成長に伴い、継続して記録を残すことはどういったメリットがあるでしょうか?

将来、お子さんたちが大人になり、小児科から診療科が変わるなど移行期医療の際にも活用できるのではないかと期待しています。診療科や病院が変わり、かかりつけ医が変更になったり、増えたり、といったことも考えられます。お子さんの記録を共有することで、そのような変化にも対応できる機会が増えたら良いなと思います。

その他にも、成長に伴い、新しくお世話になる学校や施設とのコミュニケーションも考えられます。そういった時に、取捨選択した必要な情報をぱっとお渡しできるようになると、ご家族側の負担も減るのではないかと考えます。

広く、さまざまな立場の方々に知ってほしい

今後、新しい活動のご予定はありますか?

今、4コマまんがを用いた医療的ケア児に関わる情報発信の企画を進めています。当事者ご家族の方に「わかる!」と共感頂けるような内容をユーモアも交えながらリアルに描く予定です。また、医療的ケア児をまだ知らない方には、知るきっかけとして楽しく使っていただきたいと考えています。

遺伝性疾患プラスの読者にメッセージをお願いいたします。

「医ケアkids手帳」は、お子さんの小さな成長を一人でも多くの方々に体感していただき、楽しんでいただけるようにという思いを込めてつくりました。医療的ケア児のご家族にはもちろん、病気や障がいがあるお子さんのご家族、小さい体で生まれたお子さんのご家族にも、使っていただきたい機能がたくさんあります。もし興味を持っていただけたら、ぜひ一度使ってみていただきたいです。また、医療従事者や支援者の方にも使っていただけたらうれしいです。広く、さまざまな立場の方々に知っていただければと考えています。


スペサポは、「医療的ケア児とご家族の暮らしをより良いものにする」をテーマに、毎年さまざまなツールを開発してきました。これまでは、主にご家族や支援者向けに「情報を届ける」活動が中心でしたが、今回はさらに、「情報を管理する」部分に焦点を当てた取り組みになります。当事者の鈴木さんたちが手掛けられているからこそ、まさに“かゆいところに手が届く”工夫が散りばめられています。

「ご家族の負担を解消したい」「お子さんの成長を感じて、幸せな時間を増やしてほしい」という鈴木さんたちの思いがつまった、医ケアkids手帳。無料で匿名登録が可能ですので、ぜひ一度手に取っていただければと思います。(遺伝性疾患プラス編集部)

関連リンク

鈴木啓吾さん

鈴木啓吾さん

一般社団法人スペサポ代表理事