生まれつき髪の毛の成長に異常が生じる、先天性乏毛症/縮毛症。髪の毛の生え方はまばらで、多くの場合、粗く縮れてパサパサした状態です。また、数センチ程度しか伸びない、もしくは途中で切れやすい髪の毛となります。
今回ご紹介するのは、当事者・ご家族を支援する「先天性縮毛症/乏毛症ネットワーク冠花(かんな)の会」です。代表のmeme(めめ)さんは、幼少の頃から髪の毛の症状と向き合い、中学3年生の頃には「びまん性脱毛症」として治療を受けていました。その後、ブログでご自身の症状について発信する中で先天性乏毛症を知り、ご自身もそうなのではないかと考えるようになりました。そこから同会を立ち上げられ、現在は、髪の毛に症状を持つすべての当事者のために活動するNPO法人Alopecia Style Project Japan(アルペシア スタイル プロジェクト ジャパン:ASPJ(エーエスピージェイ))の理事も務めています。その他、プライベートでは、二児の母として子育てと仕事の両立に奮闘中。ブログやInstagramの投稿を通じて、ご自身の症状について発信もされています。今回は、memeさんのご経験と同会の活動についてお話を伺いました。
団体名 | 先天性縮毛症/乏毛症ネットワーク 冠花(かんな)の会 |
対象疾患 | 先天性乏毛症/縮毛症 |
対象地域 | 全国 |
会員数 | mixi登録者人数297人(2023年10月現在) |
設立年 | 2016年 |
連絡先 | 公式ウェブサイトの「お問い合わせフォーム」から |
サイトURL | https://www.kannanokai.com/ |
SNS |
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主な活動内容 | 先天性乏毛症/縮毛症の当事者・ご家族を支援する患者団体。交流の場を設ける、情報発信を行うなどの活動を行う。また、治療薬研究の発展に向け、研究者の先生方と当事者・ご家族をつなぐ役割も担う。 |
病気で良かったと思えること・思えないこと、両方伝えたい
memeさんご自身は、これまでどのような症状と向き合ってこられましたか?
生まれつき髪の毛が縮れていて、3歳頃からは髪の毛が全体的に薄くなる症状が現れていたと聞いています。成長するにつれて外見に現れる症状に悩むようになり、中学3年生の頃にはクリニックを受診。その時は「びまん性脱毛症」と説明を受け、治療を受けていました。ただ、次第に、病院からは足が遠のいていきました。当時受けていた治療が保険適用ではなかったため、金額なども含めて継続することが難しかったからです。
私は、以前から自身の症状についてブログで発信をしています。そのことがきっかけで知り合った当事者の方から、「先天性乏毛症」を教えていただきました。自身の症状と重なる内容が多いと感じ、現在は「恐らく、私は先天性乏毛症だろう」と考えています。
ご自身の病気について、お子さんにはどのように説明されていますか?
子どもの年齢に合わせて、できるだけわかりやすく説明することを心がけています。「これは、お母さんの髪の毛の特徴なんだよ」と説明し、子どもには全て隠さずに伝えたいと考えています。
その他にも、「お母さんの髪型は、生まれつきなんだよ」「薄くなっている髪の毛は、恥ずかしいことじゃないんだよ」「おしゃれをしたいからウィッグをかぶるし、何もかぶらずに外に出ることもあるよ」と伝えています。特に、ウィッグをかぶっていない状態については、「お母さんにとっては化粧をしていない“すっぴん”みたいなものだよ。だから、誰にでも見せられるものじゃないし、勝手に言いふらされるのは嫌なんだよ」と、どのような気持ちでいるかもあわせて伝えています。
症状が外見に現れる場合、お子さんへの説明で悩まれるご家族もいらっしゃるかと思います。伝える際に気を付けているポイントはありますか?
私の場合は、病気によって「良かったと思えること・思えないこと」を両方伝えるようにしています。なぜなら、「良かったと思えなかったこと」だけを伝えると、「お母さんは病気でかわいそう」と子どもたちが受け取る可能性があるからです。私は、子どもたち含め周りの方々にそのように受け取って欲しいとは考えていないので、どちらも伝えることを心がけています。
「病気でかわいそう」にとらわれず、知って欲しい
当事者ご自身がモデルとなり、写真を通じて疾患啓発活動をしようと思われたきっかけについて教えてください。
視覚的に「かわいいな」「いいな」と感じてもらうことで、「病気でかわいそう」というイメージにとらわれず知って欲しいと考えているからです。先天性乏毛症/縮毛症を知ってもらうことはもちろん、「当事者は、決してかわいそうな存在ではない」と知って欲しいと考えています。
また、「冠花の会」という名前には、「髪をお花の冠に見立てることで、髪(の症状)は欠点ではない」といった思いを込めています。ですから、皆でこの名前を決めた時に「いつか、みんなで花の冠をつけて写真を撮れたらいいな」と考えていました。ただ、ウィッグをかぶっていない自分の姿を写真に残すことは、心理的なハードルが高いです。私自身も、今は日常的にウィッグをかぶっています。ブログで発信はしている一方で、勤めている会社に病気のことを伝えていません。
そんな時、NPO法人ASPJの方々とつながることができ、「一緒に写真を撮ろう」と誘っていただいたんです。それがきっかけとなり、会の方々にもご相談し、了承を得た方々と一緒に撮影していただきました。実際に撮影が始まると、皆さん、とても楽しそうだったんです。「写真での発信、どんどん広げていきたいね」と言ってくださる方もいました。また、「写真をSNSで発信したことをきっかけに、病気のことを周りに話せるようになった」と変化があった方も。写真をきっかけに、隠してきた病気のことを少しずつオープンにする方が増えてきていると感じます。
現在も、写真撮影会は定期的に行っています。コロナ禍により開催頻度が減っていましたが、最近また再開し始めていますので、ぜひ公式ウェブサイトなどでチェックしてみてください。
「病気でかわいそう」というイメージにとらわれず知って欲しい、と考えられるようになったきっかけはありますか?
私は、幼少の頃から自身の症状に対して、周りの人から「ハゲ」など心無い言葉をかけられてきました。そういった言葉と同じように、「病気だから仕方ないんだよ」という言葉に対しても複雑な思いを感じていました。なぜなら、「病気でかわいそう」と勝手に決めつけられることが嫌だったからです。「外見の症状によって周りの人と違うことがあることは、不幸なこと」と思いながら生きるのは嫌でした。こういった経験から、病気のことをプラスに発信していきたいと考えるようになったのだと思います。
全国で交流会開催、オンラインでは「男性の当事者」「親御さん」の会も
冠花の会の活動を始めたきっかけについて、教えてください。
当時、新薬の開発研究が動いていたことがきっかけです。ブログでの発信を通じて、すでにつながっていた当事者やご家族の方々から、「もし研究が本格的に始まるのであれば、当事者のコミュニティがあったほうが良いのではないか?」とお声がけいただきました。最初は13人ほどで集まった活動が、冠花の会の始まりです。
現地での交流会はどのように開催していますか?
コロナ禍前は年に1・2回、福岡、広島、徳島、名古屋、大阪、東京、東北地方などで開催していました。コロナ禍以降は、基本的にオンラインで開催しています。最近は、少しずつオンラインだけでなく現地での交流会の開催も戻ってきました。
交流会では、初めての方も安心して参加されている様子です。お悩みに対して、先輩の当事者・ご家族が「私たちも〇〇だったから、大丈夫ですよ」と、ご自身の経験も交えてアドバイスをしてくださるからです。参加してくださる皆さんのおかげで、安心して話せる場がつくられていると思います。本当に、会の皆さんには感謝していますね。
オンライン交流会はどのように開催していますか?
オンライン交流会では、例えば、「男性の当事者」「親御さん」限定の交流会など、さまざまなイベントを開催しています。現地での交流会は、お住まいの地域によっては開催が難しかった場合もありましたが、オンライン交流会だから可能になりました。
また、交流会に加えて、LINEグループでも「男性の当事者」「親御さん」「年代別」など、さまざまなグループをつくって交流しています。ですから、「現地での交流会は、緊張するかも…」と感じる方は、まずはオンラインの交流会やLINEでのコミュニケーションなど、ご自身にあった方法で参加していただけたらと思います。特に、男性の当事者の情報は少ないのが現状です。当事者の方はもちろん、男の子を持つ親御さんも、ぜひつながっていただけたらと思います。
「ウィッグをかぶり始める時期」「入園準備」など、LINEでの情報共有も活発
LINEとmixiのコミュニティページでは、どういったお話をしていますか?
現在は、LINEグループでのコミュニケーションが中心になっています。mixiのコミュニティページは、過去のお悩み相談の履歴などを確認するために、今も利用しています。
LINEグループの参加者は、当事者とご家族限定としています。LINEグループは地域別が中心で、関東のグループの場合は50人ほどが参加しています。その他、先程ご紹介したように、男性の当事者向けなど、地域とは別のグループも運営しています。
当事者・ご家族限定なので、皆さん安心してお悩みを相談したり、情報交換したりしていますよ。例えば、お子さんが当事者である親御さんで、つらい気持ちを抱えている方は多い印象です。その全てを解決することは難しいかもしれませんが、他の親御さんのお話を聞くことで「そう考えたら良いんだ!」と、思えるかもしれません。当事者・ご家族とつながることで、少しでも気持ちが楽になるきっかけになればうれしいですね。
例えば、どういった情報交換をしていますか?
美容院やウィッグに関するお話は、よく出ています。「どこの美容院で髪の毛を切っている?縮毛矯正をしている?」「いつからウィッグをかぶる?」といった内容です。
また、保育園・幼稚園などへの入園準備を進めている時期は、心配ごとが尽きません。ですから、先輩ご家族に「自分の時は、こんな風に対策していたよ」と共有していただくこともあります。また、先輩ご家族が「最初は不安だったけど、今は友だちに恵まれているから大丈夫だよ」とお話ししてくださることも。こんな風に、先輩ご家族のお話を聞いて安心されている方々は多くいらっしゃると思います。
活動に参加されている当事者・ご家族からは、どういった声が寄せられていますか?
当事者であるお子さんが、「〇〇ちゃんも頑張っているから、私も一緒に頑張る!」と言ってくれた時はうれしかったです。当事者の場合、孤独感を抱えていることが多いと感じます。冠花の会の活動に参加して、初めて先天性乏毛症/縮毛症の当事者と会った方も多いからです。ですから、「自分は1人じゃないんだ」と少しでも感じていただく機会が大切なのかなと考えます。
また、写真撮影会で親御さんが「『この髪の毛で良かった』って、娘が言ったんです」と喜んで教えてくださったことも、うれしかったです。写真撮影会などの冠花の会の活動は、先天性乏毛症/縮毛症だからこそ経験できる特別なものにしたいと考え、毎回開催しています。当事者・ご家族は、病気を理由につらい思いをした経験をお持ちだと思います。だからこそ、病気を理由に「良かった」と思える出来事を少しずつ増やしていけたらと考えています。
心無い言葉も、病気への偏見を根本から変えたい
活動を通じて感じている課題について、教えてください。
さまざまな課題を感じていますが、中でも、外見に症状が現れる病気に対する偏見があげられると思います。先天性乏毛症/縮毛症の場合は、幼少の頃から友だちに「ハゲ」など心無い言葉をかけられることもあります。就学前の当事者のご家族で、「学校で、子どもはいじめられないか?」と、不安に思われている方もいらっしゃいます。また、当事者のお子さんご自身も「自分の髪の毛は、どうして周りの子と違うんだろう?」と思い始めるタイミングで、保育園や幼稚園などに入園することになります。そのため、ご家族から先生方への伝え方などで悩まれるケースも多いと感じます。
こういった背景から、先天性乏毛症/縮毛症を社会に広く正しく知っていただけるように活動していきたいと考えています。そして、私たちと一緒に活動してくださる方が増えることで、きっと社会全体に広がっていく力になるのではないかと思います。病気への偏見を根本から変えていくために、ぜひ皆さんの力をお借りできるとうれしいですね。
サポートハンドブック・アニメーションなどによる疾患啓発活動も
NPO法人ASPJとは、どのように連携されていますか?
私自身がNPO法人ASPJの理事でもあるので、ヘアロス啓発イベントなどで一緒に活動しています。髪の毛に症状が現れる全ての病気と向き合う当事者が生きやすい世の中をつくるため、これからも連携して活動していきます。
最近では、NPO法人ASPJで『⽑髪疾患サポートハンドブック・アニメーション』を公開しました。教育関連の仕事をしている方や当事者のご家族向けのサポートハンドブックです。冠花の会の活動でもお世話になっている医師の先生方に、監修に入ってもらうなどして作成しました。
NPO法人ASPJ公式YouTubeより
今後、新たな活動に取り組むご予定はありますか?
社会へ先天性乏毛症/縮毛症を知ってもらうことに加え、当事者に「この髪でよかったと思える経験を増やして欲しい」と思っていただけるような活動を行っていきます。そのために、冠花の会やASPJとの活動で、今後、主体的に活動に参加してくださるボランティアの方を増やしていきたいと考えています。活動への参加を通じ、先天性乏毛症/縮毛症に価値を見出してくださる方が増えたらうれしいですね。私たちの活動が、当事者が幸せに生きるためのきっかけの1つになるとすてきだなと思っています。
1人で抱え込まず、当事者ご家族とつながってみて
最後に、遺伝性疾患プラスの読者にメッセージをお願いいたします。
当事者の方へお伝えしたいことは、そのままの姿の自分も自分で、ウィッグをかぶる自分も自分だということです。その日の気分によって使い分ける感覚で良いのではないか、と私は思います。一方で、きっと、さまざまな悩みをお持ちでしょう。1人で抱えきれなくなった時は、ぜひ同じ病気と向き合う仲間の力を借りるなどしてみてください。より良い人生を歩むための選択肢の1つとして、ぜひ冠花の会も知っていただけたらうれしいです。
次に、当事者のご家族の方に対しては、決してご自身を責め過ぎずに1人で抱え込まないで欲しいとお伝えしたいですね。先天性乏毛症/縮毛症は、病気の原因となる遺伝子が引き継がれる可能性があるので、そのことを理由にご自身を責めているご家族もいらっしゃると思います。そして、お子さんの症状をなかなか受け入れられず「つらい」と思っていらっしゃるお話も、よく伺います。そんな時は、できるだけ同じ当事者ご家族である仲間とつながり、気持ちを共有してみてください。そして、他のご家族のお話を聞いてみてください。当事者ご家族とつながる場の1つとして、ぜひ冠花の会も知っていただけたらと思います。
交流会やLINEグループでのコミュニケーションなど、当事者・ご家族限定だからこそ安心してお悩み相談できる場づくりが印象的でした。また、男性の当事者限定、20代限定といった、さまざまなグループを運営されていることも特徴の1つです。全国のネットワークがあるからこそ、よりご自身と同じような経験をされている当事者やご家族とつながりやすいのではないかと感じました。「直接会って話したい」「まずはLINEのメッセージだけでやり取りしたい」など、ご自身が参加しやすいスタイルを選んでいただければと思います。
そして、代表のmemeさんご自身もブログやInstagramを通じてさまざまな情報を発信されています。冠花の会の活動に興味を持ってくださった方は、あわせてチェックしてみてくださいね。(遺伝性疾患プラス編集部)