先天性乏毛症/縮毛症[常染色体劣性(潜性)遺伝]

遺伝性疾患プラス編集部

英名 Congenital hypotrichosis/woolly hair, autosomal recessive
別名 常染色体劣性縮毛症/乏毛症(Autosomal recessive woolly hair/hypotrichosis、ARWH)、限局性常染色体劣性遺伝性貧毛症(Autosomal recessive localized hypotrichosis)、常染色体劣性乏毛症(Autosomal recessive hypotrichosis、AH)、Hypotrichosis7、Hypotrichosis8、Hypotrichosis9
日本の患者数 1万人と推定
発症頻度 不明(国内では1万人に1人と推定)
子どもに遺伝するか 遺伝する[常染色体劣性(潜性)遺伝形式]
発症年齢 乳児期より
性別 男女とも
主な症状 毛髪が少ない、毛髪が縮れるなど
原因遺伝子 DSG4、LIPH、LPAR6など
治療 外用薬(ミノキシジル)が有効な場合がある
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どのような病気?

先天性乏毛症/縮毛症は、生まれつき毛髪の成長に異常がみられる遺伝性疾患です。この病気では、赤ちゃんや子どもの頃から頭の髪の毛がまばらにしか生えません。多くの場合毛髪の状態は粗く縮れてパサパサした状態になり、数センチ程度しか伸びない、もしくは途中で切れやすい毛となります。

眉毛、まつ毛などを含むその他の体毛についても、個人差はあるものの少ない場合があります。これらの症状は、ほとんどの場合生涯に渡って治癒することはありません。症状の経過は、成長とともに落ち着く場合もあれば症状が進行し完全な無毛となる場合もあります。まれに、頭皮が赤くなる、発疹、かゆみなどの皮膚の症状が現れることもあります。

世界におけるこの病気の発症頻度は不明です。日本ではこの病気の頻度は1万人に1人程度と推定されていますが、正確な発症頻度はわかっていません。

毛髪の成長異常の症状を示す疾患は、この病気以外にもいくつかの種類があり、大きく症候性(毛髪以外の病気の症状が併せて見られる)と非症候性(毛髪以外には症状が見られない)に分けられます。非症候性の乏毛症には、この解説記事で紹介している常染色体劣性(潜性)遺伝形式の先天性乏毛症/縮毛症以外に、常染色体優性(顕性)遺伝形式の先天性縮毛症/乏毛症、連珠毛、Marie-Unna型貧毛症、単純型乏毛症などが知られています。

何の遺伝子が原因となるの?

先天性乏毛症/縮毛症の原因となる遺伝子として、3番染色体の3q27.2と呼ばれる領域に存在するLIPH遺伝子、18番染色体の18q12.1領域に存在するDSG4遺伝子、13番染色体の13q14.2領域に存在するLPAR6遺伝子が報告されています。

日本ではこの中でもLIPH遺伝子を原因とする先天性乏毛症が多く報告され、創始者変異(そうししゃへんい)と呼ばれる、日本人集団の中で生まれ広がった変異も見つかっています。

LIPH、LPAR6、DSG4の3つの遺伝子はどれも、毛包と呼ばれる毛根を包む組織の細胞の成長や正常な機能に関連するタンパク質の設計図となります。毛包の細胞が増えると、毛は上の方に押し上げられ、皮膚を超えて伸びます。また、これらのタンパク質は、皮膚の表面や、皮脂腺と呼ばれる、皮膚と毛髪を保護する皮脂を作る器官にも存在します。

LIPH遺伝子は、リパーゼHと呼ばれる酵素タンパク質の設計図で、リパーゼHは、ホスファチジン酸と呼ばれる脂質を分解して、リゾホスファチジン酸(LPA)と呼ばれる物質を作り出します。LPAは、細胞の増殖や不要となった細胞の自己破壊(アポトーシス)など細胞の重要な機能に関わります。また、LPAR6遺伝子は、LPA受容体の一つで毛包に存在するLPA6タンパク質の設計図です。LPA6タンパク質は、LPAを受け取って細胞内を活性化し、毛包内の細胞の増殖と成熟を制御します。LPAは多くの受容体に結合できますが、毛包に存在するLPA受容体はLPA6だけです。

DSG4遺伝子は、デスモソームと呼ばれる、細胞同士を接着させ、細胞間のコミュニケーションに重要な接着構造を形成するデスモグレイン(DSG)4タンパク質の設計図です。DSG4タンパク質は、コルテックスと呼ばれる髪の毛の内側の部分や、毛包の特定の領域の細胞に存在しており、毛髪を強くするだけでなく、毛髪形成のための細胞同士の情報を伝達する役割を担っていると考えられています。DSG4遺伝子は先天性乏毛症/縮毛症だけでなく、連珠毛と呼ばれる別の疾患の原因遺伝子としても知られています。

これらの遺伝子に変異が生じることにより、異常なタンパク質が作り出され、毛包の正常な発達が妨げられ機能が失われます。毛包の異常により毛幹の構造や成長を変化させ、切れやすく規則性のない弱い毛髪が作られます。

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先天性乏毛症/縮毛症は、常染色体劣性(潜性)遺伝形式で遺伝します。この遺伝形式では、父母から受け継いだ両方の遺伝子に変異があることで発症します。その場合、両親はこの病気の保因者で、病気は発症していません。

Autosomal Recessive Inheritance

どのように診断されるの?

先天性乏毛症/縮毛症のはっきりした診断基準はまだありません。

診断は、毛髪の症状が幼児期までの早期に見られることや、他の病気ではないとはっきり鑑別されること、遺伝学的検査でこの病気の原因遺伝子に変異が見られることなどをもとに行われます。

どのような治療が行われるの?

この病気の根本的な治療法はまだありませんが、2020年、LIPH遺伝子変異を持つ先天性乏毛症・縮毛症に対し、AGA治療薬である「ミノキシジル」が有効であることがわかりました。臨床試験では1%ミノキシジルローション外用を使用した対象者8人全員で毛量の改善が認められ、毛髪の生える密度や毛髪の直径が増加しました。しかし、その効果は限定的であり、疾患のメカニズムに基づく治療法の開発が求められています。

どこで検査や治療が受けられるの?

日本で先天性乏毛症/縮毛症の診療を行っていることを公開している、主な施設は以下です。

※このほか、診療している医療機関がございましたら、お問合せフォームからご連絡頂けますと幸いです。

患者会について

先天性乏毛症/縮毛症の患者会で、ホームページを公開しているところは、以下です。

参考サイト

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