どのような病気?
GRIA2異常症は、全般的発達遅滞、知的障害、言語障害、出生時の筋緊張低下または亢進(筋肉の緊張が弱すぎたり強すぎたりする)、てんかん、運動障害、行動障害などのさまざまな神経症状が見られる遺伝性疾患です。(注:GRIA2の変異や機能喪失に関連する病気は、これまでに報告された患者さんの人数が少ないため、まだ不明な点が多く、研究が進むにつれて新たな知見が得られる可能性があります。疾患名や疾患の分類などは今後変更される可能性があります。)
この病気では、ほとんどの場合に全般的発達遅滞、知的障害が見られます。座ったり歩いたりという粗大運動の発達が遅れ、歩行能力がほとんど発達しなかった人も報告されています。また、発話や言語の発達が遅れ、理解できる単語を数語しか話せないか、全く言葉を話さないとされます。
比較的よく見られる症状として、出生時から見られる筋緊張低下もしくは筋緊張亢進、生後12か月までに見られるてんかんがあります。てんかん発作は、焦点性発作(大脳の一部に起こる発作)、全般発作、焦点から両側性の強直間代発作(けいれんを伴う)などが見られ、てんかん性スパズム症候群(点頭てんかん、ウエスト症候群とも呼ばれ、頭を下げて手や足を延ばしたり縮めたりを数十秒ごとに繰り返すような特徴的なてんかん発作のほか、発達の遅れなども見られる)、発達性てんかん性脳症(てんかん発作や脳波の異常などから発達遅滞や退行などが見られる)などが見られる場合もあります。てんかんの症状は、この病気の半数程度の子どもで見られ、抗てんかん薬が効かない(治療抵抗性)場合も多いとされます。
さらに、幼少期から自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症(ADHD)、反復行動、攻撃的、自傷行為、常同行動(同じ動きを繰り返す)といった神経行動障害や精神障害も認められ、協調運動障害(脳が手足などをうまく動かせない)、運動失調、舞踏運動(体が勝手に揺れてしまうような不随意運動)、ジストニアなどの運動障害も見られることがあります。
またその他に、摂食障害、乳児期の小頭症や頭部成長遅延、異常な眼球運動や斜視などの視覚的な障害、大脳または小脳の萎縮も少数の人で報告されています。
これらの症状は、すべての症状が同じように見られる訳ではなく、個人によってさまざまな組み合わせで現れます。早期の発達は正常であったものの、後になってから社会性や言語能力などの障害や、さまざまな退行が見られる場合もあります。
GRIA2異常症は非常にまれな疾患で、正確な発症頻度はわかっていませんが、新生児12万人あたり1人程度と推定されるという報告もあります。これまでに、欧州、北米、アジアで少なくとも33人の患者さんが文献などで報告されています。
何の遺伝子が原因となるの?
GRIA2異常症は、4番染色体の4q32.1と呼ばれる領域に存在するGRIA2遺伝子の変異が原因となります。
GRIA2遺伝子は、AMPA型グルタミン酸受容体サブユニット2(GRIA2、またはGluA2、GluR2などとも呼ばれる)タンパク質の設計図として働きます。グルタミン酸は、脳や脊髄などの中枢神経で神経伝達物質として働き、グルタミン酸受容体はそのグルタミン酸を受け取ることで電気的信号を次の神経細胞や筋肉などに伝えるタンパク質です。その中でもAMPA型グルタミン酸受容体は、中枢神経の神経細胞を活性化させる主要な受容体であり、さまざまな神経の働きに関与しています。
GRIA2遺伝子が設計図となるGRIA2タンパク質は、AMPA型グルタミン酸受容体の重要な一部として機能し、特にカルシウムイオンの流入を適切に制御する役割があります。これらの働きは、記憶の形成、学習、脳の発達に重要な「シナプス可塑性」という働きにも関与しています。
GRIA2遺伝子の変異により、受容体の機能が失われるとグルタミン酸に対して適切に応答できず、さまざまな神経障害の症状を引き起こす原因になると考えられます。しかし、この遺伝子の変異が、この病気で見られるそれぞれの症状とどのように関連しているのか詳細はまだ完全には解明されていません。
GRIA2異常症は、ほとんどの患者さんは新生変異による孤発例で、両親には遺伝子変異がなく、偶発的に生まれるとされます。遺伝する場合、この病気は常染色体優性(顕性)遺伝形式で遺伝します。
どのように診断されるの?
GRIA2異常症の診断基準はまだ確立されていません。
米国のワシントン大学を中心としたスタッフが運営している遺伝性疾患情報サイト「GeneReviews」によれば、この病気の診断について以下のように記載されています。
この病気を示唆するような所見としては、
発達遅滞および/または知的障害が見られ、以下の1)~4)の症状のいずれかが、乳児期または小児期に見られる。
1)筋緊張の異常(筋緊張低下または筋緊張亢進)や、筋緊張の異常と関連する乳児期の哺乳困難
2)早期発症のてんかん発作(治療抵抗性である場合が多い、局所性/全般性発作どちらも起こる可能性がある)
3)運動障害(歩行障害、運動失調、舞踏運動、ジストニアなど)
4)神経行動障害や精神障害(自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、反復行動、攻撃的、自傷行為、常同行動、不適切な笑いなど)
また、その他に以下のような症状が見られる場合もある。
小頭症、大脳性視覚障害(正常な瞳孔反応があり眼球性原因ではない両側の視覚障害)、骨格異常(脊柱側湾症、脊椎癒合、大腿骨前捻など)、甲状腺機能低下症、睡眠時無呼吸
上記のような示唆的な症状が見られ、遺伝学検査でGRIA2遺伝子に病原性の可能性が高い変異(バリアント)が見られることで、この病気であると診断されます。
どのような治療が行われるの?
GRIA2異常症の治療に関するガイドラインは確立されていません。
「GeneReviews」によれば、この病気を根本的に治療する方法はまだないため、症状に応じた対症療法が中心となります。
てんかん、行動上の問題、運動機能障害などについては、それぞれの症状ごとに標準的な治療が行われます。
発達遅滞・知的障害には、特別な学校教育や言語療法といった医療的ケアと社会的ケアの両方が必要になります。
どこで検査や治療が受けられるの?
患者会について
難病の患者さん・ご家族、支えるさまざまな立場の方々とのネットワークづくりを行っている団体は、以下です。
米国のGRIA2異常症を含むGRI関連疾患の患者支援団体で、ホームページを公開しているところは、以下です。