未診断の遺伝性血管性浮腫患者さんを一人でも減らすために、HAEJ

遺伝性疾患プラス編集部

全身のあらゆる部分が繰り返し腫れる症状を特徴とする、「遺伝性血管性浮腫(HAE)」。腫れる場所が「胃腸」であれば激しい腹痛や吐き気に襲われ、「のど」であれば息苦しくなるなどし、最悪の場合、窒息して命に関わることもあります。

HAE患者さんやそのご家族を支援する患者団体「NPO法人HAEJ」理事長の山本ベバリーアンさんも、HAE患者の1人です。幼少の頃から症状が現れていたものの、確定診断に至ったのは52歳の頃。激しい腹痛の症状から、子宮内膜症という誤った診断による治療を受けていた時期もあるなど、診断までの道のりは長く、厳しいものだったそうです。

「もし、もっと早く、正しく診断され治療を受けることができていたら…」と感じた経験から、「自分のような思いをする患者さんを一人でも無くしたい」と考え、当時、日本にはまだなかったHAE患者さんの支援団体を立ち上げることを決意しました。今回は、山本さんに、これまでのご経験や、HAEJの活動について詳しくお話を伺いました。

 

NPO法人HAEJ理事長 山本ベバリーアンさん
団体名遺伝性血管性浮腫患者会 NPO法人HAEJ
対象疾患遺伝性血管性浮腫(HAE)
対象地域全国                  
会員数約85人            
設立年2013年(2014年にNPO法人化)
連絡先公式ウェブサイトの「お問い合わせフォーム」から
サイトURLhttps://haej.org/
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主な活動内容

HAE患者さん同士の交流や情報交換などの機会を設け、患者さんやそのご家族が毎日を健康に楽しく暮らしていけるよう支援している。

海外の患者団体HAE Internationalとも連携している。

52歳でHAEの確定診断、「やっと正しい治療を受けられる」という喜び

診断がつくまでにHAEの症状は、どのように現れていましたか?

まず、15歳の頃、激しい腹痛に襲われたことが、恐らく最初の症状だったと記憶しています。そのときは「盲腸」と診断され、手術を受けました。

その後も、度重なる腹痛に悩まされ、50歳頃、激しい腹痛に襲われるようになりました。この頃になると、ひどいときには1日中嘔吐し続けることもあったほどです。身体の中に吐くものが残っていないのに吐き気が続くような感覚で、自分でも、以前より症状が悪化していることを感じていました。そこから、入院と検査を繰り返しても、原因が分からない日々が続き、2011年に子宮内膜症と診断されました。

激しい腹痛に悩まされていたという山本さん(写真はイメージ)

HAEでは、胃腸が腫れると、腹水が生じる場合があります。私も腹水が見られたことから、最初、医師は「がん」を疑いました。しかし、がんの検査を受けても悪性腫瘍が見つからず、他にもさまざまな検査を受けることに…。当たり前なのですが、結局何も見つからなかったので、最終的に「子宮内膜症だろう」となったのです。

子宮内膜症と誤って診断され、治療を受けていたのはどのくらいの期間でしたか?

6か月ぐらいだったと思います。しかし、子宮内膜症では無かったので、治療を受けても症状は改善されず、さらにつらい日々が続きました。そして、追い打ちをかけるように、さらに入院を繰り返すこととなります。その頃、仕事がとても忙しい状況だったため、入院することによる仕事の負担も、自身を苦しめていきました。こうして、激しい発作の頻度が徐々に増えていったのです。

結局私は、病院へ通うことをやめました。自分の中でも、子宮内膜症の治療を受け続けることに、何らかの抵抗を感じていたのだと思います。

その後、のどが腫れる喉頭(こうとう)浮腫になり、呼吸困難になったことで、緊急搬送されました。このとき、ほとんど話せない状態になるほど顔が腫れ、何も飲み込むことができないほどにのども腫れていたんです。挿管措置が取られ、集中治療室(ICU)で治療を受けるほど危険な状態でした。しかし、その際に診てくださった救急の先生が、たまたまHAEを知っていたことがきっかけとなり、ついにHAEの確定診断がついたのです。

HAEを診断した先生は、なぜHAEをご存知だったのでしょうか?

本当に偶然だったのですが、その頃、大阪の救急科の医師を中心に、HAEに関する注意喚起がなされていたため、ご存知だったのです。「このような症状の患者がきたらHAEを疑ってください」と具体的な内容が示されていました。それが、私が緊急入院する2週間ほどの前の出来事だったそうです。

「ステロイド系やヒスタミン系の薬が効かない」という私の言葉をきっかけに、先生が「もしかしたら…」と、HAEを疑いC1インヒビターの検査をしたことで、診断につながりました。本当にラッキーだったと思います。

やっとHAEと診断されたとき、どのようなお気持ちでしたか?

これまでのさまざまな症状が、全てHAEというひとつの病気で説明できることに大変感動したことを覚えています。また、HAEの診断によって「これで、やっと正しい治療を受けられる」という思いが大きかったですね。

それと同時に、HAEと診断されずに子宮内膜症の治療を受けていたことを思うと、悲しくなる気持ちがあったことも事実です。これは、正しい診断を受けられなかったことで、効果のない、さまざまな治療と検査を幾度となく受けてきたことや、それにより、自分のからだへの負担はもちろん、仕事への負担もあったことへの悲しい気持ちです。さらに、医療費の問題もあります。また、私をそばで支えてくれた家族の不安も大きかっただろうと思います。

活動を通じて、前向きに人生を歩めるようになった患者さんやご家族も

HAE患者さんを支援する活動を始めたきっかけについて、教えてください。

日本にも患者団体が必要だと強く感じたことから、2013年に立ち上げました。

私は、HAEという病気を知らなかったため、診断がついてから病気に関する情報収集を始めたんです。ただ、当時は、なかなか最新の情報を入手することができませんでした。そんなときに知ったのが、英国の患者団体である「HAE UK」です。そこから、HAEの患者団体は世界各国に存在し、密に情報をやり取りしていることを知ったのです。当時の日本には、そのような団体がなく、情報を入手することがとても困難な状態でした。また、その頃の日本は、海外と比べて治療状況が大きく遅れていました。例えば、その頃はまだ、日本では自己注射が承認されていない状況でした。

そのような状況を、海外の患者団体の方と話す中で知った私は、「日本でも、何か行動を起こさないといけない」と感じました。

また、自身の経験もひとつのきっかけだったと感じています。もし、早くに正しい診断を受け、治療を受けることができていたら、私は長くつらい思いをしなかったかもしれません。そのため、自分のような思いをする患者さんを一人でも無くしたいと考えるようになりました。

そこで立ち上げたのが、HAEJなのです。

交流会に参加された患者さんやご家族からは、どのような声が寄せられていますか?
HAEJのイベントの様子

同じHAEを抱える仲間として、思いを共有できる部分は大きいと思います。HAEJの活動に参加したことで、「人生が良い方向へ変わった」と言ってくださる患者さんもいらっしゃいます。例えば、あるHAE患者さんで、病気を理由に孤独を感じていた方がいました。その患者さんは、HAEJの活動を通じて同じHAE患者さんに出会い、「自分は一人ではない」と気づき、人生が明るくなったと感じられるようになったそうです。

ある患者さんのご家族の場合、HAEJの活動に関わるようなったことで、家族全員が前向きな気持ちになったそうです。患者さんはもちろんですし、このように家族全体に良い変化がもたらされるということは、とてもうれしいことだと感じています。

また、HAEJを通じて、多くの患者さんへ最新のHAEJ情報をお届けできるようになったことも患者さんにとってプラスになっていると思いますし、日本のHAE患者さんを取り巻く治療環境は、以前と比べて確実に改善されています。これからも、私たちはHAE患者さんの声を社会に届けていきます。

コロナ禍でも会える「ウォーキング・イベント」を企画、実現へ

今後、開催予定のイベントについて教えてください。

11月22日(日)に、京都でウォーキング・イベントの開催を予定しています。2020年は、新型コロナウイルスの影響で、対面での交流会の実施は難しい状況となりました。ただ、患者さんから「みんなに会いたい」という声を多く寄せられたこともあり、感染対策を徹底したうえで開催可能なイベントはないか、運営側でも何度も検討を重ねていました。

そこで、アイディアとして挙がったのが、ウォーキング・イベントです。外でのウォーキングであれば、距離を保ち、密を回避した状態でのコミュニケーションが可能です。また、11月の京都は、ちょうど紅葉の季節。半日程度、みんなで歩きながら紅葉を楽しむような内容を検討しています。

2019年5月に開催した京都でのウォーキング・イベント時の集合写真  

子ども向けにHAEを分かりやすく解説した絵本も

海外の患者団体「HAE International」とは、どのように連携されていますか?

私がHAE Internationalの理事を務めていることもあり、密に連携しています。理事会では、各国の治験情報を共有するなどしています。

また、最近では、子どもの患者さん向け絵本もつくりました。HAEを分かりやすく説明した絵本になっているので、子どもでも楽しく読んでいただけると思います。

日本では、日本語版を配布予定です。患者さんのお子さんを中心にお送りしていますので、絵本に興味のある方は、HAEJまでご連絡いただければと思います。

子ども向けHAE絵本

診断を受けられず、今も苦しむHAE患者さんのために

HAE患者さんやそのご家族、患者さんたちを支える方々へのメッセージをお願いします。

海外の調査によると、HAEの診断を受けることで患者さんやそのご家族の生活の質(QOL)が向上することがわかっています。そのため、HAEの疑いがある場合には、早く検査を受けて診断を受けてほしいと、私は願っています。診断を受け、適切な治療を受けることで、発作のコントロールができるようになりますし、喉頭浮腫により亡くなるリスクが低くなると考えられているからです。また、金銭的な側面からも、無駄な出費の減少が期待されます。必要のない検査や治療による経済的な負担が、少なくなりますからね。

一方で、HAEの診断によって、遺伝疾患に対する誤った偏見により苦しむのではないかと心配されている患者さんがいらっしゃることも事実です。診断を受けることで、結婚しづらくなったり、子どもを産みづらくなったり、職場で働きづらくなったりする可能性があります。このようなネガティブな偏見に苦しまれる患者さんは、決して少なくないでしょう。私は、このような患者さんへの偏見を少しでも減らせるように、今後も社会がHAEを正しく理解できよう、活動をしていきます。

最後に、私がHAEと診断された頃に比べると、HAEの認知度は向上しました。しかし、まだ診断を受けていない患者さんも多くいらっしゃいます。私自身、正しい診断を受けられずに、もがき苦しんだ患者の1人です。そして、私の家族も一緒に、長く苦しみました。今も診断を受けられずに苦しんでいる多くの患者さんが、早く診断を受けて正しい治療を受けられるように、これからも私たちは活動を続けます。

 


 

HAEの診断までに、さまざまな苦しい思いをされたという山本さん。そのようなご自身の経験が、HAE患者さんやご家族のために活動を続ける原動力になっているのだということが取材を通じて伝わってきました。

また、日本のHAE患者さんのことを思い、活動を続けるその姿に、きっと多くの患者さんやご家族も勇気づけられているのではないでしょうか。患者さん支援はもちろん、今も診断を受けられずに苦しんでいるHAE患者さんたちのことも思う山本さんの姿からは、患者さんを救いたいという強い意志が伝わってきました。

京都でのウォーキング・イベントなどをはじめ、これからも、万全な感染症対策を取り、イベントを企画されるのだそうです。最新情報は、公式ウェブサイトやSNSから確認してみてくださいね。(遺伝性疾患プラス編集部)

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