20歳で先天性アンチトロンビンⅢ欠乏症の診断、芸人ぎぼっくすさんの「やりたい」を諦めない生き方

遺伝性疾患プラス編集部

ぎぼっくすさん(男性/35歳/先天性アンチトロンビンⅢ欠乏症患者さん)

ぎぼっくすさん(男性/35歳/先天性アンチトロンビンⅢ欠乏症患者さん)

20歳の頃、激しい頭痛をきっかけに確定診断を受ける。

“Jリーグ大好き芸人”として活躍中。

沖縄タイムスでサッカーコラムの連載を持つなど、スポーツ関連でも多方面で活躍。

 

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遺伝性血栓症は、遺伝子の変化により、血液が過剰に固まらないようにする「血液凝固制御因子」が体内で欠乏し、血栓ができやすい体質となる遺伝性疾患。厚生労働省の定める指定難病小児慢性特定疾病の対象疾患です。アンチトロンビンは、主な血液凝固制御因子の一つであり、アンチトロンビンに関わる遺伝子に変化が見られる遺伝性血栓症を「先天性アンチトロンビン欠乏症」と言います。

今回お話を伺ったのは、20歳の頃に先天性アンチトロンビンⅢ欠乏症と確定診断を受けた、芸人のぎぼっくすさん。沖縄を拠点に、“Jリーグ大好き芸人”として活躍されています。ご自身の病気を知った時は、「これから一生、治療を受け続けなければいけないことにショックを受けた」と言う、ぎぼっくすさん。そこから、少しずつ気持ちの面で変化が現れていったそうです。今回は、確定診断後の生活の変化やお仕事に関わるお話、“ぎぼっくすさん流”病気を伝える時のポイントなどについて、伺いました。

嘔吐を伴う激しい頭痛、「先天性アンチトロンビンⅢ欠乏症」と診断

確定診断に至った経緯について、教えてください。

20歳の頃、激しい頭痛に見舞われたことがきっかけでした。最初は市販の鎮痛剤を飲んでいたのですが、なかなか良くならず、3日目には嘔吐。「これは、何かおかしい」と思い、受診したんです。市立病院でCT検査を受けた結果、「脳の静脈がつまりかけています」と説明を受けました。そのまま入院し、検査を受ける中で、先天性アンチトロンビンⅢ欠乏症だと確定診断を受けたという経緯です。

19歳の頃に複数回、蜂窩織炎(ほうかしきえん)と診断された時がありました。今思うと、先天性アンチトロンビンⅢ欠乏症に関わる症状だったのかもしれないと感じています。足首辺りに腫れや激しい痛みが生じて、当時は「細菌感染による蜂窩織炎ではないか」と説明を受けました。

ご自身の病気について知った時、どのようなお気持ちでしたか?

「脳の静脈がつまりかけている」という状況に、とても驚きました。先天性アンチトロンビンⅢ欠乏症に対しては、初めて聞く病気だったこともあり、ショックはあまりなかったと振り返ります。それよりも、「現時点では、これから一生治療を受け続けなければいけない」ことにショックを受けました。当時はまだ20歳だったこともあり、「まさか、自分が…」という思いだったのだと思います。そこから、血栓ができるのを防ぐ薬を服用しています。通院は、2か月に1回程度です。

診断当時、病気に関わる情報をインターネット検索しましたが、ほとんど見つけられませんでした。そのため、気になることは全て主治医の先生に確認しました。例えば、診断を受けた直後は、「病気の症状は、どんどん悪くなるものなのか?」と不安に思っていたんですね。でも、先生から「治療薬を飲み続けて症状の管理を行うことで、ほぼ今と同じように生活を送ることができます」と説明していただき、安心することができました。

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「主治医の先生の説明に、安心することができた」と、ぎぼっくすさん

治療開始後の生活の変化。薬の効果を体感する出来事も…!

薬による治療が始まり、最初はいかがでしたか?

最初は、純粋に「毎日薬を飲むのって、面倒だな…」と感じていました(笑)。でも、薬の効果を、身をもって体験する出来事があったので、それからは真面目に服用し続けています。

薬の治療が始まってすぐの頃、薬を飲み忘れて、その分を一気に服用した時があったんです(※編集部注:先生からも注意を受け、現在は行っていません)。服用時にたまたま、足にできた、ほくろ程度の小さなかさぶたがはがれたんですね。僕は、その時テレビを見ていたので、自分でも全然気づかなくて…。ようやく気づいた時には、家の床が血だらけになっており、自身の血も全然止まらない事態に陥っていました。血栓ができるのを防ぐ、つまり、血液をサラサラにするお薬を飲んでいるのだと身をもって体感する出来事でした。そういった経験もあり、現在は毎日欠かさず薬を決まった量で服用しています。

病気の診断後、生活で気を付けるようになったことはありますか?

薬に関わることで言うと、食生活では摂取を控える食材に注意しています。特に、大好きな納豆が食べられなくなったのは少し悲しいですが、他の食品で代用しています。また、出血の管理も必要になるので、例えば、歯科への通院の際には必ず病気や薬のことを伝えています。その他は、ほぼこれまで通りの生活を送っています。

ご家族とは、病気についてどのような話をしていますか?

自分の確定診断をきっかけに、家族も検査を受け、先天性アンチトロンビンⅢ欠乏症と確定診断を受けました。

また、僕自身には子どもがいないのですが、現在パートナーがおり、結婚しています。そのため、今後もし子どもが産まれたら、病気の原因となる遺伝子が受け継がれる可能性があるので、検査で確認したいと考えています。ただ、僕自身、病気の影響で大きな制限を受けている状況ではないので、大きな不安を感じているわけではありません。もし病気とわかった場合にも、医師に相談しながら、子どもが気をつけることを一緒に確認していきたいと考えています。

“体弱い芸人“のお笑いライブを主催、病気を伝える時に大切にしていること

お仕事柄、病気に関連して気を付けていることはありますか?

芸人の仕事では、人目に触れる機会が多いので、皮膚に現れている症状は隠すように心がけています。血流が悪くなることから、足の皮膚に一部、色素沈着が生じている部分があるためです。

また、タクシードライバーとしても働いており、運転の際には着圧ソックスを履いています。長時間座り続ける仕事なので、足のむくみを軽減できるように、主治医の先生からアドバイスいただきました。

その他、お仕事で病気に関わるエピソードがあれば、教えてください。

以前、“体弱い芸人“のお笑いライブを主催した経験があります。当時は、たまたま同じ事務所に、僕を含めてさまざまな病気を持つ芸人仲間にいたことがきっかけです。ペースメーカーを入れている人、腎臓病の治療を受けている人など、全員、別の病気と向き合っている当事者でした。病気が違っても、通院や病気の症状の話などをしていると、全然話が尽きなかったんですね。芸人仲間の話を聞く中で、「病気の話って、暗い話ばかりじゃないんだな」と気付き、ライブを開催することにしました。

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“体弱い芸人“のお笑いライブを主催したことも(写真はイメージ)

「病気は、つらいことや暗いことばかりじゃない」というテーマのお笑いライブは、珍しかったと思うんですね。たまたま、ある自治体の保健センターの方がお笑いライブを観賞しており、そのことが縁で、“体弱い芸人“を自治体のイベントに呼んでくださったんです。地域の学校の学級委員向けのリーダー研修会のイベントで、トークライブのゲストとして参加させていただきました。そのイベントには、ペースメーカーを入れているお子さんがいらっしゃったんですね。そこで、ペースメーカーを入れている芸人仲間は、障害者手帳による割引適用の話をしました。例えば、障害者手帳を持っている当事者は、映画館のチケットが割引になるんです。だから、「彼女とデートする時、映画のチケットは『俺がおごるよ!』って、かっこつけられるんだよ~」と、エピソードを紹介していました。病気の話って、つらいことが中心になることが多いと感じているのですが、こんな風に当事者のポジティブなエピソードを知ることも大切なのではないかと考える機会になりました。

ぎぼっくすさんは、ご自身の病気を伝える時、どのようなことに気を付けていますか?

僕の場合は、病気の話をする時にはなるべく明るく話すように心がけています。もちろん、病気の種類や現れる症状にもよると思いますし、病気のことを常に明るく伝えることは難しいかもしれません。ですので、あくまでも僕の場合の話として、聞いてください。例えば、先天性アンチトロンビンⅢ欠乏症は、希少疾患でもあるので患者数も少ないそうなんですね。ですから、「実は、数少ない“貴重な”病気を持っているんだよ!」といった入り方で、伝えます。そして、「病気の完治は難しいけど、治療を受けることで、安定した生活を送れるんだ」と、伝えます。また、相手にあわせて「病気で〇〇ができないから、つらい時もあるけど、その代わりに〇〇をやっているんだ!」と伝えることもありますね。こんな風に、こちらが明るく伝えることで、話を聞く相手も気を遣い過ぎずに聞いてくれる印象を受けています。

もし、病名や症状だけの情報を伝えたら、「大変なんだね…」と受け取られ、会話の雰囲気が暗くなりやすいのかな?と思うんです。確かに、病気と生きていくことで大変なことはたくさんあります。でも、僕は、そういった中でも、自分なりに工夫して、対応して、楽しく生活していることを知って欲しいなと考えています。

できないから諦めるのではなく、「できることはないか?」考えてみよう

病気と向き合う当事者が「好きなこと」を続けるために、どのようなことが大切だと思いますか?

僕自身は、「やらない選択はしない」という考え方を大切にしています。好きなことはもちろん、「やりたい!」と少しでも興味を持つことがあったら、まず、やってみることを心がけています。

例えば、僕は小学1年生でサッカーを始めてから、ずっと部活動などでサッカーに関わってきました。現在は、沖縄タイムスでサッカーコラムの連載を持ったり、イベントで子どもたちと一緒にサッカーをしたりなど、関わり方を変えながら、好きなサッカーを続けています。

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「『やらない選択はしない』という考え方を大切にしています」と、ぎぼっくすさん

また、最近では、ヘディスという新しいスポーツも始めました。卓球台をはさみ、専用ボールをヘディングのみで打ち合うスポーツです。ヘディングなど、競技内容の身体への負担を心配に思ったこともありましたが、自分の場合は大丈夫でした。ヘディスを知ったきっかけは、僕が小学生の頃から憧れていたサッカー選手が紹介されていたことです。現在は選手を引退され、サッカーチームの社長をやられている方です。僕は「まず、やってみよう!」と思い、ヘディスの大会に出始めたのですが、最初は全然勝てませんでした(笑)。そこから2年ほどチャレンジを続けて、現在は、九州チャンピオンです。スポーツに限らず、興味があることは、まずやってみることで自分の新しい可能性に気付くきっかけになるかもしれません。

中には、病気を理由に「諦めたほうが良いのでは?と考えることがある」という当事者のお話も伺います。そんな時は、どのように考えたら良いと思いますか?

そうですよね。そんな時は、ぜひ一度立ち止まって、「それでも、できることはないか?」と考えてみて欲しいですね。例えば、僕の場合は、先程も触れたように皮膚の症状が現れています。ですので、温泉など大浴場での入浴は控えているんですね。もちろん、皮膚の症状は感染するものではありません。事情を知らずに一緒に入浴する方が不安な気持ちにならないように、配慮してのことです。ただ、僕は温泉が大好きなので、「何か良い方法はないかな?」と考えて、別の手段を調べていたんです。その結果、今は、大浴場ではなく個室の温泉で、他の方の目に触れない形で楽しんでいます。これはあくまでも僕の場合の話ですが、こんな風に、「手段を変えてできることがないか?」と、考えてみたり、自分なりに調べてみたりすることを心がけています。できないから諦めるのではなく、「それでも、できることはないか?」と考えてみることも、1つの選択肢だと思いますね。

「それでも、できることはないか?」について、他にも印象的なエピソードを教えていただけますか?

コロナ禍に入ってすぐの頃、感染症対策によってできることが制限された時期がありました。僕に限らず、きっと皆さんそうでしたよね。まさに、「できないこと」ばかりと向き合った時でした。でも、「1人でも、できることはないか?」考え、YouTubeでひたすらヘディングをする動画の発信を始めたんです。最初は、「もし1年やり続けたら、何かのきっかけで仕事が増えないかな?」程度の軽い気持ちで始めました。1年間やり続けた結果、ヘディングの動画もきっかけになり、あるテレビ番組の「ローカル芸人」特集で声をかけていただいて出演することになったんです。さらに、コロナ禍前はパートナーがいなかった僕ですが、ヘディング動画のアシスタント募集をきっかけに、パートナーと出会うことに…!パートナーと結婚し、その縁もあって、新婚さんに関わるテレビ番組にも出演しました。

もちろん、行動が必ず結果につながるわけではありません。やり続ける中で、失敗することもたくさんあります。でも、僕はそういった上手くいかなかったことも含めて、生きる活力に変えていきたいですね。僕の場合は、「病気を持っているから、やらないほうがいいかな」と考えると、結局、何も動けなくなると考えています。その結果、気持ちもどんどん暗くなって、病気と関係ないことも悪い方向にいくかもしれない、と思うんです。だから、結果はどうあれ「やり続ける」姿勢を大切にしたいと考えています。コロナ禍に入ってすぐの頃は、「どうなるんだろう…」と思いましたが、数年経った今振り返ってみると、あの時「できないから」と諦めるのではなく、「できることはないか?」と考え、行動し続けて本当に良かったと感じています。

最後に、遺伝性疾患プラスの読者にメッセージをお願いいたします。

病気と向き合い生きることは、きっと、つらいことも多いと思います。でも、その中でもぜひご自身の好きなこと、やりたいことを見つけてみてください。そして、病気と向き合いながらも、それに向かってさまざまなチャレンジをしていけたら良いですよね。そうすることで、つらいことがあっても「楽しい」と思える人生になるのではないか、と僕は考えます。ぜひ、皆さんも一緒にチャレンジしていきましょう。

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「好きなこと、やりたいことに向かってさまざまなチャレンジをしていけたら良いですよね」と、ぎぼっくすさん


今回、ぎぼっくすさんが確定診断に至るまでの経緯や治療中の生活のお話に加え、病気を伝える時に気を付けていることなど、さまざまなお話をお伺いしました。特に印象的だったのは、「できないから諦めるのではなく、『それでも、できることはないか?』と考えてみることも、1つの選択肢」というお話です。病気の種類や現れる症状によっては、やはり難しいこともたくさんあると思います。でも、読者の皆さんが今後、もしそのような状況と向き合うことになった時には、ぜひ、ぎぼっくすさんのお話を思い出していただけたらうれしいです。(遺伝性疾患プラス編集部)

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