低ホスファターゼ症

遺伝性疾患プラス編集部

英名 Hypophosphatasia
別名 低フォスファターゼ症、遺伝性低ホスファタジア
日本の患者数 約100~200人
子どもに遺伝するか 遺伝する(ほとんどが常染色体劣性遺伝、一部は常染色体優性遺伝)
発症年齢 出生前から成人までさまざま
性別 男女とも
主な症状 骨や歯が弱くなる、など
原因遺伝子 ALPL遺伝子
治療 酵素補充療法、対症療法
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どのような病気?

低ホスファターゼ症は、「組織非特異的アルカリホスファターゼ(TNSALP)」という酵素が体内で正常にはたらかないことにより、骨や歯が弱くなるのが特徴的な、遺伝性疾患です。「組織非特異的」というのは、いろいろな組織に幅広く存在しているという意味ですが、TNSALPは、特に骨、歯、肝臓、腎臓、血液で活性がみられます。

「ホスファターゼ」とは、物質から「リン酸」を含む部分を取り出すはたらきをする酵素の総称です。TNSALPは、骨や歯が作られる過程で、「無機ピロリン酸」を分解して「リン酸」を取り出します。このリン酸とカルシウムが結合して骨や歯に沈着すると、強くて硬い骨や、硬いものを噛み砕ける歯など、正常な状態に発達します(これを石灰化といいます)。低ホスファターゼ症の人は、TNSALPがうまくはたらかない、または完全にはたらかなくなっているため、骨や歯を硬くする「石灰化」が正常に起こらず、病気を発症します。無機ピロリン酸が分解されずに蓄積することが、石灰化を妨げているとの研究報告もあります。

低ホスファターゼ症は、お母さんのおなかの中にいるうちから発症する人もいれば、成人になってから発症する人もおり、発症年齢はさまざまです。乳歯が通常より早く(5歳までに)抜け始める人も多く、この場合、抜けた乳歯には、歯根が残っているという特徴がみられます。治療をしなかった場合、生存が難しいほど重症の人から、ほとんど症状のない人まで、重症度もさまざまです。こうした発症時期や、重症度により、6つの病型に分類されています。

低ホスファターゼ症の6つの病型と特徴

 病型遺伝形式特徴
1周産期重症型常染色体劣性遺伝妊娠22週から出生後7日未満までの期間(周産期)に発症が確認される、最も重症な病型。出生時に手足が短い、頭囲が相対的に大きい、胸郭が狭くなり呼吸障害を起こす、などがみられる。X線検査をすると、全身の骨が低石灰化を起こしている、長管骨(手足の細長い形の骨)が変形している、などがみられる。
2周産期軽症型常染色体劣性遺伝または常染色体優性遺伝骨の変形などから胎児期に低ホスファターゼ症と診断された人のうち、骨の石灰化が良好におきており、経過が良好な病型。日本人では、ALPL遺伝子変異のうち「F310L」という変異との関連が指摘されている。
3乳児型多くは常染色体劣性遺伝生後6か月までに発症する。乳児期に死亡する場合もある経過が不良な病型。頭蓋骨の隙間が早くくっついてしまう「頭蓋骨縫合早期癒合症」、低石灰化、幼児くる病、高カルシウム尿症、哺乳不良、体重増加不良などがみられる。
4小児型常染色体劣性遺伝または常染色体優性遺伝小児期に発症し、重症度はさまざま。乳歯が早期(4歳くらいまで)に抜け落ちるのが特徴。低身長、骨格異常、骨痛、病的な骨折などがみられる。
5成人型常染色体劣性遺伝または常染色体優性遺伝成人期(おもに中年期)になってから発症。病的に骨折しやすい、骨や関節が痛む、永久歯が抜けやすい、などの特徴がある。
6歯限局型常染色体劣性遺伝または常染色体優性遺伝歯に限局して症状がみられる。乳歯が早期に抜け落ちる、歯の土台となる骨(歯槽骨)が喪失している、などがみられる。

その他、骨の石灰化が妨げられている結果カルシウムが血中に多く存在し、高カルシウム血症/尿症や、腎結石がみられる人や、TNSALPの、ビタミンB6を正しく使えるようにするためのはたらきが妨げられるために、脳がビタミンB6欠乏状態となり、けいれんを起こす人などもいます。

この病気の人が生まれる頻度は、15万人に1人程度とされ、重症で命を落とす人もいることから、患者さんの数は国内に100~200人程度と推定されてきました。しかし、有効な薬が開発され2015年に承認されたことにより、これまで命を落としていた人も救えるようになりました。そのため、患者さんの数は、少しずつ増えていると考えられています。低ホスファターゼ症は、小児慢性特定疾病、および、指定難病対象疾病です(指定難病172)。

何の遺伝子が原因となるの?

低ホスファターゼ症の人は、「ALPL遺伝子」に異常があることがわかっています。ALPL遺伝子は、「組織非特異的アルカリホスファターゼ(TNSALP)」の設計図となる遺伝子です。この遺伝子は、第1染色体の短腕の、1p36.12という位置に存在しており、男女差などは病気のなりやすさに影響しません。

低ホスファターゼ症の人では、ALPL遺伝子のどの部分が変異しているのかというと、これは人によってさまざまで、約300箇所も確認されています。これらの変異のほとんどは、TNSALPを構成するアミノ酸の1つを変化させるような変異です。その他、TNSALPの構造を大きく変化させるような変異もあります。変異により、TNSALPのはたらきがどの程度弱まるかが、重症度に関与していると考えられています。つまり、TNSALPが全くはたらかないような変異は重症になり、はたらきを弱める程度の変異は、軽症になると考えられています。しかし、これらの多くの変異と重症度の関連性は、まだ完全には解明されていません。

この病気は親から子へ遺伝しますが、遺伝のしかた(遺伝形式)は、「常染色体劣性遺伝」または「常染色体優性遺伝」です。それぞれの病型における遺伝形式は、前述の表のとおりです。

常染色体劣性遺伝の場合、たまたま両親ともに、1人あたり2つセットでもつALPL遺伝子の片方(1つ)が変異しているけれども無症状、という人で、その子どもが親から1つずつ変異した遺伝子を受け継ぎ、2つとも変異した状態になった場合に発症します。常染色体優性遺伝の場合は、2つもつALPL遺伝子の1つに変異があれば発症します。

常染色体劣性遺伝

 

常染色体優性遺伝

どのように診断されるの?

低ホスファターゼ症には、医師が低ホスファターゼ症と診断するための「診断基準」があります。したがって、病院へ行き、必要な問診や検査を受けた後、主治医の先生がそれらの結果を診断基準に照らし合わせ、結果的に低ホスファターゼ症かそうでないかの診断をすることになります。具体的には、X線検査で骨の石灰化障害がみられた、または乳歯が4歳未満で抜け落ちた、という症状(主症状)の片方あるいは両方がみられ、血液検査でアルカリホスファターゼ(ALP)の値が低かった場合(正常値は年齢によって異なる)には、低ホスファターゼ症の疑いとなり、ALPL遺伝子の遺伝子検査を受けて変異があれば確定診断となります。

その他、参考症状として、ビタミンB6依存性けいれん、手足の短縮や変形が挙げられ、参考検査所見として、尿中ホスフォエタノールアミンの上昇、血清ピロリン酸値の上昇、乳児における高カルシウム血症が挙げられます。また、参考所見として、家族歴や、両親の血清ALP値の低下も挙げられます。

重症度分類は、食事・栄養、呼吸のそれぞれの評価スケールに基づいてなされます。

どのような治療が行われるの?

以前は、根本的な治療法がなく、症状を緩和する「対症療法」しかありませんでした。対症療法では、呼吸が十分にできない人が人工呼吸器を使ったり、骨が痛い人は痛み止めを使ったりします。また、重症型でけいれんを起こす人には、ビタミンB6が投与されたり、乳児型でしばしばみられる高カルシウム血症には、低カルシウムミルクが使用されたりします。

2015年に、ALPを注射で体内に補充する「酵素補充療法」が日本でも承認され、根本的な治療法として使えるようになりました。特に、重症の患者さんでは、酵素補充療法が使用されます。酵素補充療法が行われるようになったことで、救われる命が増えることが期待されています。

また、ALPは、一般的に成長とともに必要性が減っていきます。そのため、軽症の人では自然に症状が改善する場合もあります。

日常生活では、症状がほとんどないという人も、骨折や歯周病などを起こしやすい可能性があるので、定期的に診察を受けて、骨の痛みや歯の健康などに注意します。

どこで検査や治療が受けられるの?

日本で低ホスファターゼ症の診断や治療を行っている、主な施設は以下です。

患者会について

低ホスファターゼ症の患者会で、ホームページを公開しているところは、以下です。

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参考サイト

参考文献:医学書院 医学大辞典 第2版