どのような病気?
人間の体には、結合組織と呼ばれる、体の形や位置を保つために細胞同士をお互いにつなぐ役割の組織があります。マルファン症候群は、大動脈、骨格、眼、肺、皮膚、硬膜などの全身の結合組織が脆弱になる遺伝性疾患で、指定難病対象疾病です(指定難病167)。症状は人によってさまざまですが、骨格の症状(高身長、不自然に長い手足、細く長い指、背骨が曲がる、胸の変形など)、目の症状(水晶体がずれる、強い近視など)、心臓血管の症状(大動脈瘤、大動脈解離など)が特徴的とされています。その他にも、自然気胸による呼吸困難を起こす場合があります。大動脈瘤は場所によっては心不全につながり、大動脈瘤破裂や大動脈解離が起きると、突然死を来すことがあります。また、大動脈解離によって腎不全などを起こしたり、心臓の弁膜がうまく機能しない障害のある人は、細菌性心内膜炎を起こしたりする場合があります。骨格の症状が強い場合には腰痛や関節脱臼をする人もおり、体型の悩みから、不安神経症になる人もいます。
マルファン症候群は、適切な治療を受けることで、高齢まで元気に過ごす人も少なくありません。早くに亡くなってしまう場合の原因は、循環器系に関係したものがほとんどです。特に、大動脈解離が起きてしまうと、その後の経過がよくないとわかっているため、適切な薬による治療や、必要な場合には”予防的”な手術を受ける場合もあります。また、日常生活では、いきんだり、重いものを持ち上げたりするなど、急に血圧が上がるような行動は避ける必要があります。運動も、中程度の有酸素運動にとどめるべきとされています。マルファン症候群の女性が妊娠した場合には、妊娠中や分娩直後により急速な大動脈拡張や大動脈解離が起こることがあるので、適切な専門医を受診する必要があります。妊娠前に、遺伝カウンセリングを受けるのがよいとされています。
マルファン症候群は、「マルファン症候群/ロイス・ディーツ症候群」として国の指定難病対象疾病(指定難病167)、および「マルファン(Marfan)症候群」として小児慢性特定疾病の対象疾患となっています。
何の遺伝子が原因となるの?
原因遺伝子として「FBN1遺伝子」が見つかっています。FBN1遺伝子は、細胞骨格という、細胞の形を保つ構造の構成成分である、フィブリリン1というタンパク質の設計図となる遺伝子です。7~9割の患者さんでFBN1遺伝子の変異がありますが、その他にも、TGFβというタンパク質が、結合組織の脆弱性に関わることが知られており、このタンパク質の働きに関連するTGFBR1、TGFBR2、SMAD3、TGFB2、TGFB3の各遺伝子の異常が、マルファン症候群に類似の症状を起こすことがわかってきています。そのため、これらの遺伝子異常もマルファン症候群とする考え方もある一方で、原因遺伝子がFBN1遺伝子である場合と症状が少し違うので、「ロイス・ディーツ症候群」という名前で呼び、区別して対応されることもあります。なお、原因遺伝子に変異があっても、症状が現れるまでに年月がかかる人もいれば、生まれてすぐに重い症状が現れる人もいます。その違いは、FBN1遺伝子の、どの部分にどのような変異があるのかと、関係していることがわかっています。
この病気は、常染色体優性(顕性)遺伝と呼ばれる形式で遺伝します。つまり、両親のどちらかがマルファン症候群だった場合、子どもがマルファン症候群になる確率は50%だといえます。ただし、全員が親からの遺伝でこの病気になっているわけではありません。実際にマルファン症候群の4人に3人(75%)は親からの遺伝ですが、4人に1人(25%)は両親ともにマルファン症候群ではなく、出生時に上記遺伝子が突然変異することでこの病気になっています。マルファン症候群の子どもが生まれた、同疾患でない両親が次の子どもを生む場合、その子どもがマルファン症候群になるリスクは、一般より高くなります。生殖細胞の中に、マルファン症候群の遺伝子変異をもつものが含まれている可能性があるからです(モザイクと呼ばれる状態です)。また、出生時の突然変異でマルファン症候群になった人も、その子どもには50%の確率で病気が遺伝します。また、この病気は隔世遺伝をすることはありません。
どのように診断されるの?
「マルファン症候群はどのような病気?」にあるような、主要な症状からマルファン症候群が疑われ、遺伝子検査で「何の遺伝子が原因となるの?」で挙げた原因遺伝子に変異が認められた場合、マルファン症候群と診断が確定します。遺伝子検査には、「cDNAのシークエンス分析」「変異スキャニング」などという方法が用いられます。
一方で、まだ原因遺伝子として見つかっていない遺伝子の変異でこの病気になっている人もいます。そのため、「どのような病気?」で挙げた「骨格の症状」「目の症状」「心臓血管の症状」の3つの特徴のうち、2つの特徴を満たす、もしくはマルファン症候群の家族歴があり3つの特徴のうち1つを満たした場合、マルファン症候群と診断されます。
どのような治療が行われるの?
今のところ、マルファン症候群を根本的に、つまり、遺伝子から治すような治療法は見つかっていません。そのため、定期的に病院を受診して検査を受け、症状に対する治療を受けます。例えば、大動脈瘤や大動脈解離に対して、血圧や心拍数を減らすための薬を飲む場合があります。また、大動脈瘤や大動脈解離、目の水晶体がずれる(水晶体亜脱臼)、重度の背骨の曲がり(側弯)や胸の変形(漏斗胸)などに対しては、手術が行われる場合があります。多岐に渡る症状を治療していくため、遺伝医学、循環器、眼科、整形外科、胸部外科など、専門家によるチーム医療が行われることになります。
研究中の治療法
まだ動物実験の段階ですが、TGFβというタンパク質の阻害剤が、マルファン症候群の症状を遅らせたり予防したりできるかどうかの研究が進められています。
どこで検査や治療が受けられるの?
日本でマルファン症候群の診療を行っていることを公開している、主な施設は以下です。
- 東北大学病院 顎口腔機能治療部
- 埼玉県立小児医療センター 遺伝科
- 東京大学医学部附属病院 マルファン症候群センター
- 東京大学医科学研究所附属病院 結合織病(マルファン)外来
- 東京医療センター 臨床遺伝センター
- 東京医科歯科大学病院 遺伝子診療科
- 国立成育医療研究センター 遺伝診療科
- 榊原記念病院 臨床遺伝科
- 信州大学医学部遺伝医学教室 遺伝子医療研究センター
- 浜松医科大学医学部附属病院 循環器内科
- 大阪母子医療センター 遺伝診療科
- 鳥取大学医学部附属病院
- 広島大学病院 遺伝子診療科
※このほか、診療している医療機関がございましたら、お問合せフォームからご連絡頂けますと幸いです。
患者会について
マルファン症候群の患者会で、ホームページを公開しているところは、以下です。
日本マルファン協会の取材記事は、以下です。
参考サイト
・参考文献:医学書院 医学大辞典 第2版