MODY(家族性若年糖尿病)の正しい診断・治療を広げる、モノジェニックの会

遺伝性疾患プラス編集部

遺伝子の変化により糖尿病を発症する、家族性若年糖尿病(Maturity onset diabetes of the young:以下MODY<モディ>)。MODY1、MODY3といった病型は、原因となる遺伝子によって決まっています。また、症状や重症度は、病型によってさまざまです。

今回ご紹介するモノジェニックの会は、MODYをはじめとした単一遺伝子の変化によって生じる糖尿病の当事者支援を行う団体です。モノジェニックの会の代表であり、糖尿病専門医の田中慧さん、ご自身もまたMODYの当事者です。10歳で2型糖尿病と説明を受けましたが、それから18年経ち、ご自身が研修医だった頃に遺伝学的検査によりMODY3の確定診断を受けました。その後、MODYは糖尿病専門医の中でもあまり知られておらず、多くの当事者が適切な診断・治療を受けられていない現状を目の当たりに。そういった現状を変えるため、立ち上げたのがモノジェニックの会です。今回は、田中さんと、同会の会員でMODY1の当事者である赤坂むつきさんに、同会の活動やお二人のご経験について、お話を伺いました。

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モノジェニックの会代表 田中慧さん
団体名 モノジェニックの会
対象疾患

単一遺伝子による糖尿病

  • MODY(家族性若年糖尿病)
  • ミトコンドリア糖尿病
  • A型インスリン抵抗症
  • Wolfram症候群 など
対象地域 全国
会員数

12名(2023年8月現在)

  • MODY1 1名
  • MODY3 6名
  • MODY5 2名
  • MODY(病型不明) 2名
  • インスリン異常症 1名
設立年 2021年
連絡先 公式ウェブサイトの「お問い合わせフォーム」から
サイトURL https://monogenic.hatenablog.com/
SNS 会員限定・LINEオープンチャット
主な活動内容

単一遺伝子による糖尿病(MODY、ミトコンドリア糖尿病、インスリン受容体異常症A型、Wolfram症候群など)の当事者・ご家族向けに活動中。交流の場などを設けている。

当事者・ご家族、医療従事者へ、糖尿病の遺伝子解析に関する情報提供を行っている(方法や費用、遺伝子解析の手法など)。

MODYの確定診断で「ようやく、自分の人生が始まった」(田中さん)

田中さんが活動を始めたきっかけについて、教えてください。

田中さん: MODYと診断を受けられずにいる当事者を一人でも多く確定診断につなげ、適切な治療を受けられる環境をつくりたいと考えたからです。

私が2型糖尿病と説明を受けたのは、10歳の時です。そこからMODY3の確定診断を受けるまで、さまざまな場面で「2型糖尿病は生活習慣病だ」と言われてきました。その度に、「自分の体型はやせ型で、生活習慣も周りの人と変わらないのに、何で…」と、モヤモヤしていました。また、自分と同じくらいの年齢で糖尿病を発症する方の多くは、1型糖尿病です。その中で、自分は2型糖尿病とされていたので、「居場所がない」と感じることが多くありました。

私は、モノジェニックの会の指導医として一緒に活動している岩﨑直子先生のおかげで遺伝学的検査を受けることができ、MODY3と確定診断を受けました。2型糖尿病と説明を受けてから、18年の月日が経った頃のことです。MODY3とわかったことで、それまでのモヤモヤした気持ちが晴れていきました。また、MODY3の場合は効果的な治療があるため、治療を切り替えたことで血糖値が良くなりました。これは「個別化医療」と呼ばれています。MODY3の確定診断によって、「ようやく、自分の人生が始まった」と感じたことを覚えています。

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左から岩﨑直子先生、田中慧さん

現在、私は糖尿病専門医として、MODYの診療も担当しています。当事者の皆さんのお話を伺っていると、自分と同じように「MODYとわかったことで、ようやく自分の人生が始まった」と実感している方が多くいらっしゃると感じます。「一人でも多くのMODY当事者が、正しい診断にたどり着けるようにしたい」と考え、岩﨑先生と立ちあげたのが、モノジェニックの会です。

2型糖尿病と説明を受けていた当時、印象的だった出来事はありますか?

田中さん: 2型糖尿病と説明を受けてすぐの頃、同じような年齢の糖尿病患者が集まる患者会に参加したことがありました。10歳前後のお子さんということで、参加者のほとんどが1型糖尿病の当事者です。私のように10歳で2型糖尿病という子どもは、他にいませんでした。

私が活動に参加した理由は、「自分と同じ悩みを抱える人に会える!」と思ったからです。実際に参加してみると、参加者の子どもたちは心無い言葉を私にかけてきました。たとえば、「若いのに、2型糖尿病なんだね。そんなに生活習慣が悪かったの?」といった言葉です。私の居場所は、そこにありませんでした。

これは、決してお子さんたちに悪気があったわけではなく、社会の中で「2型糖尿病は生活習慣病だ」という認識があるからだと思います。ただ、このように心無い言葉を受け続けたことは、私の中でトラウマのようにずっと残っています。

「2型糖尿病は生活習慣病だ」という社会的認識についてどう思われますか?

田中さん: この認識は、医療従事者の中にも少なからずあると感じています。なぜなら、私自身、2型糖尿病からMODYへ診断名が変わったことで、医療従事者からの反応が変わったと感じているからです。

私は、研修医の頃にMODYとわかりました。2型糖尿病だと思っていた頃は、病気であることをどこか責めるような反応をしていた医療従事者の方もいらっしゃいました。そこからMODYとわかった途端、「遺伝性なら仕方ないよね」といった反応に変化した印象を受けています。医療従事者に関わらず、このように糖尿病の病型によって受け取り方が変わるという状況は、変えていきたいです。

LINEでの交流、11月14日世界糖尿病デー・勉強会開催も

現在の活動内容について、教えてください。

田中さん: MODYを中心に単一遺伝子による糖尿病の啓発活動や、当事者同士の交流の場をつくる活動を行っています。また、今は設立してすぐの段階なので、ウェブサイトのコンテンツを充実させることもしています。糖尿病関係のイベントで登壇した際に活動を紹介したり、医療関係者の方々のご協力を得たりして、現在は会員12人とともに活動しています。私たちの活動を知る方が増え、少しずつ会員が増えていってくれたらうれしいですね。

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ジェニックの会 公式ウェブサイトより

 

その他、LINEオープンチャットを用いて普段から会員同士でコミュニケーションを取っています。LINEだと気軽に参加しやすいこともあり、会話が盛り上がっている様子です。

LINEオープンチャットでは、どのようなお話をされていますか?

田中さん: 私や指導医の岩﨑先生も含めて、これからどのように活動していくかなどを話しています。MODYの疾患啓発をしていきたい、など、日々皆さんと作戦会議をしている状況です。

また、MODYの当事者“あるある”トークで、よく盛り上がっている様子です。たとえば、「○○科の先生にMODYって言っても、伝わらなかった…」など、皆さんの経験がシェアされています。自分と同じように、子どもの頃に2型糖尿病と説明を受けていた方もいらっしゃるので、「1型糖尿病のお子さんが多い中で、寂しい思いをした」というお話などもあります。同じ病気を持つ者同士だから話すことができ、共感しあえる場だと思います。

2023年、勉強会開催のご予定はありますか?

田中さん: 11月14日の世界糖尿病デーに合わせて、勉強会を開催する予定です。私や岩﨑先生が、MODYについて解説する時間などを検討中です。また、会員より、ご自身の経験などを話していただく場も設けたいと考えています。その他、当事者やご家族の交流会も予定しています。

当日は、モノジェニックの会の会員に限らず、MODYに関わる方は参加できるように検討中です。詳細は公式ウェブサイトで発信しますので、ぜひチェックしてみてください。

1型糖尿病→MODY1の確定診断、家族歴も明らかに(赤坂さん)

赤坂さんがMODYの診断を受けられた経緯について、教えてください。

赤坂さん: 私は、1型糖尿病と診断を受けて12年が経った頃、25歳の時にMODYと診断変更を受けました。きっかけは、仕事の都合で転院した際に「1型糖尿病の診断から10年以上経つのに、投与しているインスリン量が少ない」と指摘を受けたことです。内因性インスリンを測定するC-ペプチド(CPR)という検査を受けたところ、「1型糖尿病ではないのでは?MODYの可能性がある」と、担当の医師から説明を受けました。検査入院でインスリンからスルホニル尿素(SU)薬の治療に切り替えて効果があったことから、「MODYだろう」と、説明を受けたという経緯です。当時は、遺伝学的検査を受けませんでした。

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赤坂むつきさん
そこから、どのように確定診断に至ったのでしょうか?

赤坂さん: 看護師資格を持つ先輩に、MODYのことを話す機会があったんです。その時「自分の体のことなのに、『MODYだろう』という診断のままでいいの?」と言われました。その方は、たまたま田中さんや岩﨑先生が勤務されている東京女子医科大学病院で働いていた方で、MODYのこともご存知だったんです。「必要があれば、岩﨑先生に連絡するよ」と言っていただいたことをきっかけに、遺伝学的検査を受け、MODY1と確定診断を受けました。

実は、糖尿病を発症して数年経った頃、当時の主治医が遺伝学的検査を検討してくれたことがあったんです。しかし、当時は海外に検体を出す必要があるなどの理由から、検査費用が数十万円かかると説明を受けました。当時は、金額のこともあり検査を受けずにいた、という事情がありました。

また、自分が確定診断を受けたことで、家族にも良い影響があったと感じています。たとえば、私の祖父はずっと2型糖尿病だと考えられていたのですが、MODYだとわかりました。祖父の他にも、親族の中にMODYの当事者が何人かいることがわかり、良かったと感じています。

田中さん、赤坂さんが発症した当時は高額な費用がかかったという遺伝学的検査ですが、現在はどのような状況ですか?

田中さん: 現在(2023年8月)、日本糖尿病学会の研究班の費用負担により、検査を受けることができる場合もあります。MODYを含めた単一遺伝子の変化による糖尿病が疑われる方向けの検査です。この費用負担はいつまで継続するか未定なので、「MODYではないか?」と考えられている方や、「1型糖尿病や2型糖尿病と説明を受けているけど、変だと思うことがある」という方がいたら、ぜひ主治医の先生から学会へお問い合わせいただき、ご自身が参加の状況に当てはまるかをご確認いただきたいと思います。もしくは、そこも含めてモノジェニックの会に直接ご相談いただければと思います。まずはお気軽にお問い合わせフォームからご相談ください。

活動に参加し、MODYに対する理解度が上がった

赤坂さんがモノジェニックの会の活動に参加されるようになったきっかけについて、教えてください。

赤坂さん: 遺伝学的検査を受けるきっかけをくれた先輩に、モノジェニックの会を教えてもらったことがきっかけです。私は、MODYと診断されるまでは、1型糖尿病の患者会に参加していた時期がありました。ですので、1型糖尿病の患者さんとはつながりがあったのですが、「MODYの患者さんにも会ってみたい」と思うようになり、参加するようになりました。

実際に活動に参加してみて、いかがでしたか?

赤坂さん: 実際に、MODYの患者さんがどのように生活をしているのかなど、具体的な情報を知ることができました。インターネットで検索してみても、見つけられるMODYの情報は限られています。活動に参加する前は、教科書に載っているような情報しか知ることができませんでした。しかし、活動に参加するようになって、MODYに対する理解度が上がったように感じています。田中さんや岩﨑先生がいてくださるので、MODYの最新情報を得やすいですし、自身の疾患について学べる場があることは本当に心強いです。

あと、モノジェニックの会の会員は、前向きな方が多い印象です。課題である疾患の認知度の低さに対して、「皆で、疾患啓発活動をやっていこう!」という雰囲気があり、私も前向きな気持ちで参加しています。

MODYのことで悩んだ時、同じ病気を持つ人へ気軽に相談できる場所ができたことは、大きな変化でした。まるで、“お守り”を持ったような感覚です。そういった意味でも、皆さんとのつながりが、安心感につながっているように感じます。

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「皆さんとのつながりが、安心感につながっているように感じます」と、赤坂さん(写真はイメージ)
活動への参加で、印象的に残っているエピソードはありますか?

赤坂さん: さまざまな病型の中でもMODY Xの当事者とつながることができたことです。MODYは、原因遺伝子よって、MODY1やMODY3という病型が決まります。MODY Xは、まだ原因遺伝子が特定できていない場合のことだそうです。田中さんに教えていただき、自分も初めて知りました。こんな風に、他の病型の方ともつながり、お話を聞けるのは新鮮ですね。

1・2型糖尿病とされ適切な治療を受けられていないMODY患者が多い可能性、疾患認知度に課題

田中さん、活動を通じて感じている課題について教えてください。

田中さん: 一番は、疾患認知度の低さです。特に、MODYは医療従事者にもほとんど知られていない現状があります。MODYは、単一遺伝子が原因で生活習慣に関係なく、若くして発症する糖尿病です。全糖尿病患者の1%から3%を占め、日本にも1万数千人は存在すると推定されていますが、多くの人は1型糖尿病と診断され、治療を受けています。中には「1型でも2型でもない糖尿病」と説明を受けているケースもあります。MODYの確定診断のためには、遺伝学的検査が必要です。しかし、そのことも医療従事者に認知されていないことが多いために、実際に遺伝学的検査へたどり着く方はごくわずかです。

MODYの病型の多くは、効果的な治療が存在します。そのため、正しく診断を受けることで、インスリンによる治療を離脱できたり、血糖コントロールが改善できたりすることが期待されます。

MODYの当事者は、診断を受けるまでにどのくらいの時間がかかっているのでしょうか?

田中さん: ここ3年間、我々の施設で解析を受けた患者さんは、糖尿病の診断から遺伝子解析にたどり着くまで平均で10年の期間を要していました。最長で36年という患者さんもいます。大体10代のときに発症されて、30代で診断を受けるというケースが多いようです。短い方で1・2年のケースもありますが、担当の医師がたまたまMODYを知っているなど、まれなケースだと思います。

正しい診断を受けずにいるMODYの当事者が、いまだ多くいらっしゃる可能性があるということなのでしょうか?

田中さん: そうですね。正しい診断を受けていないことは、つまり、適切な治療を受けられていないということでもあります。たとえば、MODYの患者は幼少期に糖尿病を発症し、やせ型の体型の場合が多いです。そのため、1型糖尿病とされ、インスリン注射の治療を受けているケースが多いです。しかし、たとえばMODY3やMODY1の方はスルホニル尿素(SU)薬やGLP-1受容体作動薬という薬がインスリンよりも効果的ですし、MODY2の方は糖尿病薬そのものが不要であることがわかっています。インスリン治療を続けることで、低血糖(血糖値が低くなる副作用)のリスクがあったり、不要な医療費につながったりなどします。ですから、正しく診断を受けることで、適切な治療を受けることが大切なのです。

今後、新たな活動に取り組むご予定はありますか?

田中さん: モノジェニックの会公式ウェブサイトのコンテンツを、さらに充実させる予定です。英国では公的なMODY情報サイト「Diabetes Genes」によって、単一遺伝子による糖尿病に関する啓発や情報提供、遺伝学的検査を行っている機関への紹介フォームを提供しています。これらの活動により、10年でMODYの診断数が4倍に増加したという実績があります。そのため、このサイトを参考に日本語版のコンテンツづくりを行っていく予定です。「自分はMODYかも?遺伝学的検査の情報が知りたい」と思っている方向けに情報を充実させるため、準備を進めています。

今の目標は、単一遺伝子による糖尿病の遺伝学的検査を保険適用とすることです。MODYの確定診断による個別化医療の提供により、血糖コントロールの改善や医療費の抑制につながるという報告があり、遺伝学的検査を行う利点は多いと考えます。今後、行政へ働きかけを行うことも視野に入れて、一緒に活動してくれる会員さんを増やしていきたいですね。今では糖尿病治療で当たり前となったインスリン注射も、1980年代に患者団体の日本糖尿病協会の働きかけもあり、使用できるようになったという歴史があります。ですから、私たちにできることがきっとあるはずだと考えています。また、並行してNPO法人の設立準備も進めています。

これからも活動の輪を広げていきたい

田中さん、遺伝性疾患プラスの読者にメッセージをお願いいたします。

田中さん: 遺伝性疾患は少数派の存在である場合が多いため、なかなか理解されないことも多くあります。もしかすると、医療従事者からも、心無い言葉をかけられた経験をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。

遺伝性疾患プラスで、いろいろな遺伝性疾患と向き合う方、支援活動を行っている方の記事を拝見しました。疾患は違ったとしても、皆さん同じような悩みを抱えて向き合っていらっしゃるのだなと実感しています。私たちの活動は始まったばかりですが、先輩方の活動を参考に、これからも活動の輪を広げていきたいと思っています。

最後に、糖尿病には主に1型糖尿病と2型糖尿病があることが知られていますが、「MODYという遺伝性の糖尿病もある」と知っていただけるとうれしいです。


今回の取材を通じて、MODYと正しく診断されず、適切でない治療を受け続けている方が多くいらっしゃる現状を知りました。今後、一人でも多くのMODY当事者が確定診断にたどり着き、適切な治療を受けられるようになることが期待されます。

また、1型糖尿病や2型糖尿病と説明を受けているものの、違和感を覚えている方々が集まる「はざまの会」という活動もあるとのこと。今回、お話を伺った赤坂さんが参加される予定だそうです。糖尿病の当事者の中でも、“はざま”に悩んでいる方々がいらっしゃる状況を改めて教えていただきました。

1型糖尿病や2型糖尿病と診断を受けられている方も含め、もしご相談したいことがあれば、ぜひモノジェニックの会へご連絡いただければと思います。(遺伝性疾患プラス編集部)

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