どのような病気?
プラダー・ウィリ症候群は、先天性の病気のひとつで、指定難病対象疾病です(指定難病193)。症状はさまざまで、年齢にしたがって変わっていきます。生まれてすぐのころには、筋緊張低下(力が弱い)、色素低下(色白)、外性器の低形成、呼吸や哺乳の障害がみられます。3歳を過ぎたころから食欲が抑制できなくなり、過食傾向が始まります。このころから、肥満と低身長が目立つようになります。運動発達や言語発達が遅れ、中度の知的障害がみられるため、適切な支援が必要です。小さなころは人懐こいものの、大きくなると、かんしゃく発作、頑固な性格、他人を自分の思い通りにしようとする行動、強迫的性格が、独特な行動特徴として、ほとんどの患者さんに共通してみられます。こうした行動の多くは、自閉症を連想させるもので、患者さんの生活の質(QOL)低下につながっています。また、多くの患者さんで、二次性徴の発来不全のため不妊症となります。その他、小さな手足、特徴的な顔つき(額の横幅が狭い、目の輪郭がアーモンド形、鼻柱が狭い、上唇が薄い、口が下向き)、斜視、背骨の曲がり(側弯)、睡眠障害などがみられます。肥満の患者さんでは、糖尿病がしばしば発症し、その割合は10歳以上の30%程度です。
生後~2歳 | 2歳~6歳 | 6歳~12歳 | 13歳~成人 |
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・筋緊張低下を伴う新生児期の哺乳不良 | ・哺乳不良の既往を伴う筋緊張低下 ・全般的な発達遅滞 | ・哺乳不良を伴う筋緊張低下の既往(筋緊張低下はしばしば残存する) ・全般的な発達遅滞 ・制限されていなければ、中枢性肥満を伴う過食症 | ・認知障害、通常軽度の知的障害 ・制限されていなければ、中枢性肥満を伴う過食症 ・視床下部性の性腺機能低下および/または典型的な問題行動 |
症状はさまざまですが、間脳の異常によって、こうした症状が現れると考えられています。間脳には、食欲中枢、呼吸中枢、体温中枢、情緒の中枢、性の中枢など、プラダー・ウィリ症候群で現れる症状に関連する中枢が集まっているためです。
乳幼児期のウイルス感染症や、成人で肥満や糖尿病に伴う合併症(腎不全や心不全など)にならなければ、この病気でない人とほとんど変わらない寿命だろうと考えられています。国内に、55歳以上で存命の患者さんが複数人います。
何の遺伝子が原因となるの?
人間の細胞には46本の染色体がありますが、そのうちの44本は、常染色体と呼ばれるもので、1番から22番のセットを父親と母親から1セットずつ受け取ったものです。残りの2本は性染色体と呼ばれ、XYだと男性、XXだと女性になります。常染色体に存在している遺伝子は、通常、どちらの親由来のものも同等に働きますが、一部、父親由来のものしか働かない遺伝子や、母親由来のものしか働かない遺伝子もあります。こうした遺伝子を「インプリンティング遺伝子」と言います。
プラダー・ウィリ症候群は、常染色体15番の、「15q11-13」と呼ばれる領域に複数存在する、父親由来でしか働かない遺伝子(父性発現遺伝子)が作用しなくなることで発症します。患者さん全体の約75%は、15q11-13領域の欠失(ちぎれてなくなっている)で、約20%は、1対の常染色体15番が、何らかの異常で2本とも母親に由来しており、そのために父性発現遺伝子が働けない状況(母性片親性ダイソミーと呼ばれます)だとわかっています。残りの患者さんたちは、15q11-13領域の父性発現遺伝子が「メチル化」という化学的な修飾を受けて働けない状態や、まれな遺伝子変異などが原因で発症していると知られています。
まれな遺伝子変異で、親から子へ遺伝する場合があり得ますが、15q11-13領域の欠失や母性片親性ダイソミーは、親から子へ遺伝するものではありません。したがって、兄弟が同じ病気になるリスクは1%未満です。
どのように診断されるの?
どのような治療が行われるの?
今のところ、プラダー・ウィリ症候群を根本的に、つまり、遺伝子から治すような治療法は見つかっていません。そのため、この病気の人に出やすい症状に対する治療が行われています。この病気は、症状が多岐に渡るため、小児科医、内分泌科医、遺伝科医、精神科医、臨床心理士、栄養士、教職員、理学療法士など、さまざまな分野の専門家の協力体制のもとで、治療を行っていくことが重要とされています。
代表的な治療法
<食事療法>
早期からの適切な栄養管理が、最も重要とされています。そのため、3歳を過ぎた頃から、第三者が生涯にわたり摂取カロリーの制限をします。制限カロリーは、身長1cm当たり10kcalが目安です(例えば身長150cmであれば1,500kcal)。患者さんは、基礎代謝率が低く、摂取カロリーが多くなくても肥満になりやすい傾向があるため、肥満に対して偏見を持たないようにすることが不可欠です。また、決められた摂取カロリーの中で、家族とともに楽しく有意義に食生活を実現することが、長続きのために重要です。
<運動療法>
運動も、肥満に対し大きな効果があります。患者さんは、筋緊張低下があるため運動が得意ではない傾向がありますが、水泳で運動療法が成功している例は比較的多いとされています。運動は、強要するのではなく、例えば家族も一緒に付き合うような形で行うことも、長続きのために大切です。
<成長ホルモン補充療法>
約半数の患者さんが、低身長の基準を満たし、成長ホルモンによる治療の対象となります。この治療は、プラダ―・ウィリ症候群の患者さんに対して広く世界的に行われており、身長促進(標準身長になります)、体組成改善(脂肪が減ります)、筋力向上などの効果が得られます。ただし、成長ホルモンは気道を狭くする可能性があるとされているため、治療を開始して4か月くらいは呼吸症状に注意をします。また、側弯症のなりやすさや悪化に関連している可能性もあることから、治療前から継続的に、側弯症の検査を行います。
<性ホルモン補充療法>
二次性徴発来不全に対して試みられている治療です。この治療により、骨密度改善や、精神的効果も得られます。
<インスリン治療>
糖尿病を発症した場合に、飲み薬ではなくインスリン注射で治療する場合が多いです。
<向精神薬>
精神症状に対して、向精神薬が使われる場合があります。比較的広く使用されている薬は、SSRI(選択的セロトニン再吸収阻害剤)という種類の薬で、一部の患者さんで効果が認められています。
薬を使うわけではありませんが、適切な教育計画も重要です。乳幼児と幼年期には、言語の遅れや発音がうまくできない構音障害に対して言語治療を行います。また、学童期には、集団または個別での、特殊教育が必要です。課題にしっかり取り組むことができるように、個別指導も必要とされています。また、グループで、社会的な能力を学ぶ訓練を行います。
どこで検査や治療が受けられるの?
日本でプラダー・ウィリ症候群の診療を行っていることを公開している、主な施設は以下です。
- 東北大学病院
- 獨協医科大学埼玉医療センター小児科
- 東京医科歯科大学顎口腔変形疾患外来
- 東京医科大学病院
- 慶應義塾大学医学部小児科
- 国立成育医療研究センター遺伝診療科
- 神奈川県立こども医療センター
- 浜松医科大学医学部附属病院
- 大阪母子医療センター遺伝診療科
※このほか、診療している医療機関がございましたら、お問合せフォームからご連絡頂けますと幸いです。
患者会について
プラダー・ウィリ症候群の患者会で、ホームページを公開しているところは、以下です。
また、プラダー・ウィリ症候群患者さんや家族にかかわる福祉、療育、教育、心理、医療、関連する公的機関などの専門家ネットワークは、以下です。
関東PWSケアギバーズネットワークの取材記事は、以下です。
参考サイト
- 難病情報センター
- GRJ プラダー・ウィリ症候群
- 小児慢性特定疾病情報センター プラダー・ウィリ(Prader-Willi)症候群
- 日本小児内分泌学会 プラダーウイリ症候群コンセンサスガイドライン(2022.12.23改訂)
・参考文献:医学書院 医学大辞典 第2版