プラダー・ウィリ症候群患者さんや家族を支援する専門家チーム、関東PWSケアギバーズネットワーク

遺伝性疾患プラス編集部

福祉、療育、教育、心理、医療など、プラダー・ウィリ症候群(PWS)に関わるさまざまな専門家が患者さんやご家族の支援を目的につながる、関東PWSケアギバーズネットワーク。患者さんへの支援はもちろん、支援者側へのサポート活動や、プラダー・ウィリ症候群の理解促進のための情報発信など、その活動は多岐にわたります。

関東PWSケアギバーズネットワーク運営委員長の山田泰頒さんは、福祉の現場でプラダー・ウィリ症候群のご利用者さんなど、さまざまご利用者さんたちと長年向き合ってきました。そんな山田さんが関東PWSケアギバーズネットワークの立ち上げを決意するきっかけとなった、あるご利用者さんとの出会いとは…?その後の立ち上げまでの道のりや、現在の活動についてなど、詳しくお話を伺いました。

※今回の記事では、福祉の現場でのお話が中心となるため、患者さんを一部「ご利用者さん」と呼んでいます。

関東PWSケアギバーズネットワーク運営委員長 山田泰頒さん

 

団体名関東PWSケアギバーズネットワーク
対象疾患プラダー・ウィリ症候群
対象地域東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県等の関東エリア                  
会員数患者さん・ご家族の会員は無し ※患者さんを支援する専門家の方々を会員としている。
設立年2011年
連絡先公式ウェブサイトの「お問い合わせフォーム」から
サイトURLhttps://pwscarenet.wixsite.com/pws-care-net
SNSTwitter
主な活動内容プラダー・ウィリ症候群(PWS)に関わる福祉、療育、教育、心理、医療、関連する公的機関などの専門家による、患者さんやご家族の支援。その他、患者さんを支援する方々のサポートや、PWSの理解促進のための活動など。

 

はじまりは、ご利用者さんの「90歳まで生きたい」という言葉から

活動を始めたきっかけについて、教えてください。

きっかけは、プラダー・ウィリ症候群のご利用者さんとの出会いでした。このご利用者さんとは、今から24年前、私が福祉の仕事を始めた頃に出会いました。「大好きなおじいさんと同じように、90歳まで生きたい」と話してくださったことから、自分もそのお手伝いをしたいと思うようになったんです。

「90歳まで生きてもらうために、まずは病気について知ろう」と考えた私は、プラダー・ウィリ症候群の情報を集めることから始めました。しかし、当時はプラダー・ウィリ症候群に関する情報を集めることが困難で、そのためには英語の資料を読まなくてはならないほどでした。また、当時の統計資料によると、プラダー・ウィリ症候群患者さんの年代別の分布では50代以降「0」に近い数字が出ており、ご利用者さんの願いを叶えることがいかに難しいかを知りました。

(イメージ)

それでも諦めきれなかった私は、職場の理事長に「プラダー・ウィリ症候群に関する情報を得るための活動をしたい」と相談しました。すると、ありがたいことに活動を許可していただけることになりました。そこから、プラダー・ウィリ症候群患者さんの親が活動している「竹の子の会 プラダー・ウィリー症候群(PWS)児・者 親の会」に参加し、情報を集めることになったんです。その後、プラダー・ウィリ症候群のご利用者さんがいる大阪の福祉施設との交流が始まり、さらに情報を得ていきました。

そして、2004年に、まずは関西エリアで「PWS支援者ネットワーク」が立ち上がりました。私は大阪に足を運びPWS支援者ネットワークに参加したり、「NPO法人日本プラダー・ウィリー症候群協会」の理事として活動に関わるようになったりするなど、引き続きさまざまな情報を集めていきました。

ご利用者さんを支援する専門家ネットワークが必要だと考えられたのは、なぜですか?

2010年6月、国際的なプラダー・ウィリ症候群の支援組織である「International Prader-Willi Syndrome Organisation」(IPWSO)の国際会議に、運営委員・発表者として参加しました。その際に、プラダー・ウィリ症候群のご利用者さんを支援するためには、「全国的/国際的な、さまざまな立場の専門家によるネットワークが必要だ」と、強く感じたためです。

そこから4か月後の10月に、関東では初の、プラダー・ウィリ症候群の支援者を対象とした講演会を開催しました。この講演会には、定員を超える多くの参加申し込みがあり、講演会後には、「継続的に開催してほしい」という声が参加者から多く寄せられました。活動の必要性を再確認した私は、2011年6月に、発起人となって「関東PWSケアギバーズネットワーク」を立ち上げ、支援者を対象とした講演会など、情報共有の場をつくる活動を本格的に始めたのです。

活動を続けていくなかで、「90歳まで生きたい」とおっしゃったご利用者さんの存在は大きかったのでしょうか?

そうですね。「90歳まで生きたい」とおっしゃったご利用者さんの存在は、活動を続けるうえで大きな原動力でした。それに、私自身、このご利用者さんには本当に多くのことを教えていただきました。

例えば、プラダー・ウィリ症候群のご利用者さんの表面的な行動や言動にとらわれず、内側に秘めた思いに気付くことの大切さも、このご利用者さんから教えていただきました。当時、このご利用者さんはクリーニングのお仕事を担当されていたのですが、ある日、なかなか仕事場に入ることができない、ということがありました。その行動だけを見てしまうと、「仕事をしたくないから、仕事場に入れないのかな?」と思ってしまうこともあると思います。しかし、このご利用者さんの場合は、よくよく話を聞いてみると「本当は仕事をしたい。でも、中に入れない」という状況に陥っていたのです。この出来事から、支援者側が、ご利用者さんの思いをくみ取ることが大切なのだと学びました。

このように、ご利用者さんがやりたいことと逆のことを言ってしまう要因のひとつには、「自己肯定感の低さ」が関係しているのではないかと私は考えました。そこで、このご利用者さんに、「運動を頑張った」ことをみんなの前で発表してもらう機会を設けるなど、自己肯定感アップにつながるような活動を取り入れました。すると、このご利用者さんは徐々に自信をつけ、良い変化が現れてきたのです。実際に健康診断の結果も良好なくらい運動を頑張るようになっただけではなく、自分から声をかけて友だちをつくるなど、活発に行動できるようにもなりました。こうした変化を見ることができて、私自身とてもうれしく感じました。

しかし、このご利用者さんは「90歳まで生きる」という願いを叶えることができませんでした。「ご利用者さんに90歳まで生きてもらうんだ!」という強い思いで活動を続けてきた私にとって、ご利用者さんの死は、自分の身体が半分ちぎられてしまったようなとても辛い経験となりました。今は、このご利用者さんに教えてもらった多くのことを支援者の方々に広めていきたいという思いで、活動を続けています。

おでかけ相談テーブルや講演会などの活動を通じて、PWSへの理解を広める

「どこに居住していても、プラダー・ウィリ症候群(PWS)当事者・家族等が受ける諸々のサービス内容に、大きな差異が生じることの無いようなシステムを構築すること」という活動理念を掲げられているのは、なぜですか?

プラダー・ウィリ症候群に関する基礎的な情報が、まだまだ支援者に届いていないと感じているためです。プラダー・ウィリ症候群による知的障害は重大な問題につながることがありますが、具体的な対応策が医療・教育・福祉などの現場に届いていない現状があります。そのため、支援者は悩みながら試行錯誤を繰り返しています。私たちは以下のような活動を通じて、支援者が情報交換できるネットワークをつくり、正しい情報を支援者に届けていきたいと考えています。

  • 事例検討会や研修会の実施
  • 支援者の育成、交流に関する諸情報の交換
  • 組織連携やネットワーク作りに関する情報交換
  • PWSの理解促進のための活動
  • PWS関連の他の自助・支援団体との連携

 

また、現在は関東での活動が多くなっていますが、将来的にはネットワークの活動を全国に広めていくことも視野に入れています。

支援者に情報を届けるために、さまざまな活動をされているのですね。活動内容について、詳しく教えてください。

まず、支援者でなくても、どなたでも参加できるシンポジウムや講演会を年1回、支援者を対象とした講演会等を年1回開催し、プラダー・ウィリ症候群に関わる最新情報をお届けしています。

その他、随時、プラダー・ウィリ症候群に関連する全ての関係者を対象に、「おでかけ相談テーブル」という活動を行い、正しい情報をお届けしています。この活動は、私などの運営委員が、プラダー・ウィリ症候群のご利用者さんがいる支援施設、特別支援学校といった教育現場などへ出張相談に伺い、支援者の悩みを解決することが目的です。ご相談内容よっては、プラダー・ウィリ症候群の基礎的な知識や具体的な支援について講演を行うこともあります。おでかけ相談テーブルの費用は、基本的に交通費分のみの負担で、他は無料で行っています。

支援者向けの講演会の様子

現在は、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点で、おでかけ相談テーブルの活動は中止しています。その他、感染予防対策を講じた講演会を9月に実施する方向で準備を進めています。おでかけ相談テーブルの活動再開や、講演会などに関する最新情報は、関東PWSケアギバーズネットワークの公式ウェブサイト、公式Twitterなどからご確認ください。

支援者からはどのような相談が多く寄せられますか?

最も多いのは、「プラダー・ウィリ症候群に関する基礎的な知識を教えて欲しい」というご相談です。また、具体的な支援技術に関する質問も多くあります。

今年度は活動10年目となる節目の年ということもあり、現在、これまでの活動をまとめた活動報告集を出版する準備を進めています。活動報告集を通じても、多くの方々に、基礎的な知識や具体的な支援技術などの情報をお届けできたらうれしいですね。

また、新型コロナウイルスの流行により政府から「新しい生活様式」が求められていることから、今後は公式ウェブサイトやTwitter、ブログなどを通じて、積極的に情報をお届けできたらと考えています。

プラダー・ウィリ症候群に関わる他の支援団体とは、どのように連携を取られていますか?

先に関西エリアで活動を開始した「PWS支援者ネットワーク」とは、支援者向けの情報共有を行うなどして、連携しています。また、患者さんやご家族を支援する団体として、私も理事として参加している「NPO法人日本プラダー・ウィリー症候群協会」や、「竹の子の会 プラダー・ウィリー症候群(PWS)児・者 親の会」にも講演会の際に後援いただくなどしています。

今後は、関東や関西といった地域ごとの活動に留まらず、日本のさまざまな地域で支援者のネットワークの輪を広げていくことが、プラダー・ウィリ症候群患者さんの支援を考えるうえで大切なことだと感じています。

「人間らしさ」の強いPWS患者さん、見えない思いに気付くために

2019年11月、ハバナで開催されたIPWSO国際会議で発表する山田さん
プラダー・ウィリ症候群患者さんたちを支える方々へのメッセージをお願いします。

私はこれまで、プラダー・ウィリ症候群のご利用者さんたちの素敵な部分を多く見てきました。プラダー・ウィリ症候群のご利用者さんは、まじめで頑張り屋の方が多く、そして、進んで子どものお世話をする、周りの人に気を遣う、といった優しい心も持っています。それから、人だけでなく、さまざまな生き物を愛している部分も素晴らしいと感じています。こんな風に、プラダー・ウィリ症候群のご利用者さんは、とても「人間らしさ」が強く現れている人なのだと私は思っています。

日々、プラダー・ウィリ症候群のご利用者さんと向き合われている支援者の方々には、ぜひ、ご利用者さんの表面的な言葉や行動にとらわれることなく、このような素敵な部分に目を向け、内に秘めた思いに気付いていただけたらうれしいですね。

「人間らしさ」が強く現れているプラダー・ウィリ症候群のご利用者さんを支援することは、他のご利用者さんを支援する際にも参考となる多くのことを学ぶ機会につながる、と私は考えています。そのため、多くの支援者の方々にプラダー・ウィリ症候群について知っていただきたいと思います。

 


 

「90歳まで生きたい」というご利用者さんの言葉をきっかけに始まった山田さんの活動は、関東PWSケアギバーズネットワークを立ち上げ、今も、多くの支援者をつなぐ輪として広がっています。お話を伺う中で、「これからも支援者のネットワークを広げる活動を続けていく」という山田さんの強い思いが伝わってきました。

また、今回の取材では「新型コロナウイルスの影響で、いま大変な状況にある方も多くいらっしゃいます」と、患者さんやご家族、支援者の方々を気にかけるなど、山田さんの優しさも伝わってきました。関東PWSケアギバーズネットワークでは、現在も公式ウェブサイトのお問い合わせ窓口で、受付・対応を続けているそうで、「大変な時だからこそ、積極的にご利用いただきたい」と、おっしゃっていました。(遺伝性疾患プラス編集部)

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