希少疾患MLCの研究を前進させるために、MLC患者の会

遺伝性疾患プラス編集部

乳幼児期から、大頭症、運動発達の遅れといった症状が見られる脳の疾患「皮質下嚢胞をもつ大頭型白質脳症(以下、MLC)」。MLCは、大脳白質が障害を受ける進行性の疾患「進行性白質脳症」に含まれ、進行性白質脳症は含まれる全ての疾患を合わせても、日本の患者数が100人未満とされるほどの希少疾患です。

今回お話を伺ったMLC患者の会の廣石綾子さんは、2021年3月にお子さんがMLCの診断を受けました。診断を受けた直後はショックのあまり、気持ちが追いつかなかったと言う廣石さん。また、MLCについて調べるほど悲しくなる情報に行き当たり、最初の頃は、泣きながらMLCに関する論文を読んでいたそうです。

そこから、2021年9月に患者会を立ち上げることになった経緯とは?また、これからの活動に向けて抱く想いとは?いろいろなご経験やお考えについて、伺いました。

Mlc Pro
MLC患者の会 廣石綾子さん
団体名 皮質下嚢胞をもつ大頭型白質脳症(MLC)患者の会
対象疾患 皮質下嚢胞をもつ大頭型白質脳症(MLC)
対象地域 全国
会員数 4家族
設立年 2021年9月
連絡先 公式ウェブサイトの「お問い合わせフォーム」から
サイトURL

https://mlcjapan.com/

SNS

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主な活動内容

MLCの患者さん・ご家族への支援を目的に活動中。主に、論文調査や学会への参加、MLCに関わる勉強会を開催している。

今も病気を受け止めきれず…だからこそ、活動を決意

お子さんがMLCと診断された経緯について、教えて頂けますか?

2020年11月、頭囲が大きいことからMRI検査を受けました。その結果、白質の異常信号が認められ、2021年1月に専門医のMRI画像診断より「MLCの疑いがあります」と説明を受けました。そして、遺伝子検査の結果から、3月にMLC1と確定診断を受けました。息子が2歳の時です。

診断を受けるまでMLCのことは知らなかったので、まず、「何だろう、この病気は」という気持ちでした。また、医師から「10代で車いすが必要になる可能性が高い、と言われている病気です」と説明を受け、信じられませんでした。全く予想していなかった展開に、すぐには状況を受け止めきれなかったと記憶しています。

正直、今も病気のことを全ては受け止めきれていません。というのも、まだてんかん発作が起こっているわけではないですし、保育園へも通っている状況だからです。ただ、運動機能の発達が遅いといった症状は現れています。

確定診断を受けた後、病気の情報はどのように探されましたか?

希少な病気のために、インターネットで検索してもほとんど情報を見つけられず…。幸いにも、主人が論文などから情報を得るのが得意なタイプなので、論文から直接情報を得ることが多かったですね。

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希少な病気のために、インターネットでの検索ではほとんど情報を見つけられなかった(写真はイメージ)

息子が診断を受けたのが、ちょうど私が仕事を退職するタイミングと重なっていたため、当時は生活の変化などから少し精神的に不安定なこともありました。そのため、診断されて間もない頃は、泣きながらMLCに関する論文を読んでいたことを覚えています。今は転職し、少し前向きにMLCについての情報を調べられるのですが、当時はショック過ぎて、気持ちが追いついていなかったと思います。

MLCについて調べれば調べるほど、悲しくなる情報にばかり行きあたってしまい、ショックを受ける日々でした。重篤な症例を知るたびに、「息子は、これからどうなってしまうの?」と考え、泣いていました。

こんな風に、診断を受けた直後は、状況を受け止めきれず、精神的に追いつめられていました。今も受け止めきれてはいませんが、「だからこそ患者会の活動を始められたのだ」とも思います。

受け止めきれない思いが、患者会の活動へつながっていったのですね。

MLCは進行性の病気なので、私が諦めることは、息子の病気が進行していくのを受け入れることになる気がして…だから、「頑張るしかない」と決意し、活動を始めました。

活動は、私たちのために動いてくれる方々に支えられており、本当に、周りの方々には感謝の気持ちでいっぱいです。また、他の患者会のお父さんやお母さんたちが「頑張ってね」と励ましてくださるので、頑張ることができていると思います。

他にも、患者会立ち上げの原動力となったことはありますか?

将来的に治療法確立の可能性があることを知ったことも、活動を始めた理由のひとつです。先ほど、泣きながら論文を読んでいた時期があるとお話ししましたが、その際にスペインやイタリアでは治療を見据えた研究が行われていることを知りました。

一方、海外で治療法が確立された場合でも、同じように日本で承認されることは簡単ではないことや、日本でMLCに関する研究を行っている研究グループがほとんど無いことも知りました。だから、患者会として声を上げることで、それらの課題に対し、働きかけていきたいと考えています。

MLCについて幅広く発信。国内はもちろん、海外の家族会とも交流を

患者会の目的に挙げられている「啓蒙活動(国内・海外への情報発信)」について、どのような活動を行っていますか?

SNSを通じて患者の日常に関わる情報発信を行ったり、MLC関連分野を研究されている先生方とコミュニケーションをとったりしています。他の患者会との交流の場でMLC患者の存在を発信することも欠かせません。

また、今春、テレビ番組へ出演予定です。今はちょうど密着取材を受けているところで、疾患啓発につながるような内容を発信できたらと考えています。この出演をきっかけに、さまざまなご意見を頂くことになると思います。そこには、良いご意見だけでなく、厳しいご意見も含まれるでしょう。ですが、とにかくMLCについて、社会に広く知って欲しいという思いがあったため、出演を決意しました。今後も、さまざまなメディアを通じて、MLCに関わる発信を行っていきます。

「患者会家族同士の交流、情報交換」については、いかがですか?

現在、会員が4家族ということもあり、簡単な情報交換をしています。希望があれば、今後、交流会なども開催したいですね。ただ、今は「皆さんの負担にならない活動を最優先で」と考え、簡単な交流にとどめています。

今後は、まだつながっていない国内の患者さん・ご家族ともつながっていきたいです。将来、MLCに関わる治験が開始される時のためにも、まずは、患者さん・ご家族とのつながりを広げていきたいと考えています。会員が増えてきたら、患者さん個人の臨床データをまとめるような取り組みも行っていく予定です。

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まだつながっていない国内の患者さん・ご家族ともつながっていきたい(写真はイメージ)

その他、海外のMLC家族会とも交流があります。日本での活動を海外に報告したり、海外のMLCの情報を教えて頂いたりしています。きっかけは、Twitterでトルコ人の方の投稿を見つけ、連絡したことからでした。MLCと診断を受けたお子さんのお母さんです。この方とはトルコ語でのやり取りになるので、翻訳機能を使いながら、何とかコミュニケーションを取っています。互いの子どもの状況の話から、日常生活に関わる話まで、さまざまな情報交換をしながら交流をしています。先日は、MLC家族会のアメリカのお母さんにお願いされて、お子さんの誕生日にバースデーカードをお送りしました。

国内だけでなく、海外の患者さんご家族とも連携されているんですね。

そうですね。MLC研究を進めるためには、日本だけでなく世界の患者さん・ご家族とつながることも大切だと感じているからです。ヨーロッパでは日本よりMLC治療に関わる研究が進んでいるという話も聞くので、海外から得られた情報も含め、今後も、いち早く最新情報を国内の患者さん・ご家族へお届けできるようにしていきたいですね。

もちろん、海外との交流は基本的に外国語で行うことになるため、苦労もあります。例えば、世界のMLC患者会がつながるFacebookグループは、主に英語でのコミュニケーションになります。今後、英会話も必要になるのでは…と、少しそわそわしています(笑)。

専門家を交えた勉強会も。正しく、MLCの知識を広めたい

海外の最新情報のお話もありましたが、最新のMLC研究情報も発信されているんですよね。

はい。最新研究に関する論文や記事を、随時、公式ウェブサイトで公開しています。患者さん・ご家族はもちろん、研究者の方々にもお届けできればと考えています。

その他にも、勉強会を開催し、専門家の先生に最新の研究に関わる論文解説などを行って頂いています。今後も、専門家と患者を交えた勉強会を実施し、会員さんがMLCに関する正しい知識を身につけるとともに、専門家同士の情報共有の場も提供していきたいです。

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今後も、専門家と患者を交えた勉強会を続ける(写真はイメージ)

2021年9月の立ち上げから、本当にさまざまな活動を行われているんですね。

「自分たちができることは、全部やろう」という意気込みで、活動してきました。MLCは希少疾患なので、患者さんの人数が少ないんです。でも、少ないからこそ、患者さん・ご家族同士が密に連携することができるかもしれないと思っています。

今は立ち上げたばかりで手探り状態の活動ですが、これからも、できることは何でも行っていきたいです。

いつか治療法が確立される日が来ることを信じて

日々患者さんと向き合うご家族は、時に、ストレスを抱え過ぎてしまうこともあると伺います。そういったことに対して日頃から気を付けていることはありますか?

まず、私自身が、息子と他のお子さんとをできるだけ比べないように気を付けています。保育園などで、病気をお持ちでないお子さんと息子を比べると発達の遅れなどが目立つこともあるからです。とにかく、「息子のペースで生きてほしい」と願っていますね。

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家族でストレスを抱え過ぎないために「比べない」(写真はイメージ)

また、きょうだいがいる場合には、分け隔てなくエネルギーを注ぎたいですね。うちにも、息子の上に娘がいます。MLCのことなどもあり、息子のことが気になってしまいがちですが、娘にも同じようにエネルギーを注ぐことを大切にしています。

遺伝性疾患プラスの読者へメッセージをお願いします。

息子がMLCと診断されるまで、私は、こんなに多くの難病があることを知りませんでした。そのため、息子がMLCと診断された時は、とても信じられない気持ちでしたし、人生のどん底にいるような感覚でした。

ただ、病気の有無に関わらず、突然命を落とす方もいるでしょうし、生きているのをつらく感じている方もいるでしょう。一方で、障がいや病気を持ちながら、前向きに人生を歩む方々もたくさんいらっしゃいます。今思うのは、そういったことを知らず、自分の力を出し切ることなく生きてきた私の「姿勢」を、息子が正してくれたのかもしれないということです。

息子はこの先、私が歩んできた人生とは違った人生を歩むことになるかもしれませんし、大変なことを経験するかもしれません。それでも、息子や、そして娘が、これからも幸せな人生を歩めるように、母として多くのことを学び続け、人としても精進していきたいです。

最後に、私たちの活動の大きな目的は、MLC治療の研究を進めることです。いつか治療法が確立される日が来ることを信じて、これからも活動していきます。そして、さまざまな病気とともに生きる方々がいらっしゃることを受け止め、自分に何ができるかを考えていきます。


お子さんが、MLCの診断を受けたことについて「まだ受け止めきれていない」と話してくださった廣石さん。さまざまな葛藤がある中で「頑張るしかない」と決意し、MLC患者の会の活動へつながっていきました。

MLC治療の研究前進のため、MLCを含めた希少疾患、難病を幅広く知って頂くために、これからもMLC患者の会の活動は続きます。まだ始まったばかりの活動ですが、今後の展開に、期待が寄せられます。(遺伝性疾患プラス編集部)

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