認定NPO法人レット症候群支援機構は、レット症候群患者さんやそのご家族支援の活動とともに、レット症候群の根治療法確立へ向けた研究支援などを行う団体です。
理事の谷岡哲次さんのお子さん(女の子)は、2歳の頃にレット症候群と診断されました。症状が現れ、病気の情報を調べる中で「レット症候群なのでは?」と思い始めたそうですが、実際に診断が確定するまでの道のりは険しく、ご夫婦で精神的につらい日々を過ごされた時期もあったのだそうです。ときには、「やれることは何でもやりたい」という思いから怪しい治療法に手を出したこともあったほど。それでも、あきらめずに行動し続け、確定診断に至りました。
病気がわかったものの、次に谷岡さんの前に立ちはだかったのは「レット症候群には、治療法がない」という現実。少しずつ、できないことが増えていくお子さんの姿を、ただ見ているのではなく、「治療法確立のために、自分ができることをする」と決意して、2011年に立ち上げたのがレット症候群支援機構でした。2019年10月には、自治医科大学と共に「遺伝子治療プロジェクト」を立ち上げ、現在、団体の支援のもとで自治医科大学の遺伝子治療研究チームによるレット症候群遺伝子治療の研究が進められています。
団体の立ち上げから約10年、谷岡さんがこれまでの活動を通じて感じてきた思いや、これからの活動について、詳しくお話を伺いました。
団体名 | 認定NPO法人レット症候群支援機構 |
対象疾患 | レット症候群 |
対象地域 | 全国 |
会員数 | 82名 |
設立年 | 2011年 |
連絡先 | 「メール」support@npo-rett.jp 「電話・FAX」072-380-6767 |
サイトURL | https://www.npo-rett.jp |
SNS | |
主な活動内容 | レット症候群の患者さん・ご家族が、差別や偏見のない生活を送ることができる環境づくりを目指して、支援活動を行う。 一般の方に向けた疾患啓発活動や、根治療法の確立へ向けた活動など、幅広く活動。 |
「治療法がない」現実。治療法確立のために研究支援を
レット症候群だと疑い始めてから確定診断を受けるまで、さまざまなことがあったと伺いました。診断を受けたときは、どのようなお気持ちでしたか?
レット症候群と診断がついたときは、「ショック」な気持ちよりも「スッキリした」という気持ちが大きかったです。娘の症状をインターネットで調べるうちに、「レット症候群なのではないか?」と考えるようになっていたので驚きはなかったですね。ただ、確定診断に至るまでは長かったです。
当時、大阪の大きな病院に通っており、そこの先生にレット症候群ではないかと尋ねてみたことがあったんです。ただ、そのときは娘が1歳になっていなかったこともあり、「まだ、診断するには早い」となりました。「このくらいの年齢のお子さんでは、手を口に入れる動作はあるので」ということでしたね。
一方で、娘は日に日に、歯ぎしりや手を口に入れる動作が多くなっており、なんとかできていたハイハイの距離も少しずつ短くなっていました。そのため、レット症候群を専門とする九州の医師を訪ねようと決意したんです。そして実際に娘を診ていただき、「レット症候群でしょう」と言われました。
そこで、九州での話を大阪の先生に伝えたところ、「遺伝子検査をやってみましょう」という話になりました。娘が1歳半の頃でしたね。ただ、そこから半年ほど待って返ってきた検査結果は、「異常なし」でした。後で聞いた話ですが、遺伝子検査にもいろいろな方法があり、レット症候群の場合はピンポイントに絞って細かく検査してもらわないと、見過ごされてしまう可能性があるのだそうです。娘は、そのような理由から、このとき見過ごされてしまったと聞きました。
検査結果を聞いてもふに落ちなかった私は、レット症候群の遺伝子検査を多く行っている先生が北海道にいると聞きつけ、今度はそこへ検査を依頼したんです。すると、1か月もかからずに「レット症候群の遺伝子に異常あり」と返ってきました。やっと確定診断を受けた頃、娘は2歳になっていました。
診断を受けるまでは、どのような日々を過ごされていたのでしょうか?
毎日、必死でしたね。娘のできないことがどんどん増えていく中で、妻も精神的に弱っていた時期でもあったので。妻は一時、食事ものどを通らないほどに弱っていました。
だから、私は「少しでも、前向きにならないといけない」と思い、必死に情報を探し、できることは何でもやりました。リハビリ、漢方、はり治療など、しまいにはお祓いに行くなど、わらにもすがる思いでした。診断が確定するまでは、それだけ、何かをしていないと心が崩れてしまいそうな…そんな日々を過ごしていました。
そのため、診断を受けたときとは複雑ではありましたがスッキリしましたし、「治療法がない」と医師にはっきり言われたことで、現実を見ることができました。それまでは、「何か治療法があるかもしれない…」と、どこかで信じていた自分もいたんです。でも、娘の病気がレット症候群だと確定したことで、「治療法がない現実を変えるために自分には何ができるのか?」を考えるようになりました。
「レット症候群支援機構」の立ち上げは、どのようにして決意されたのですか?
九州の先生に「レット症候群でしょう」と言われたその帰り道、新幹線の中でNPO法人を立ち上げることを決意しました。治療法がないのなら、治療法を確立するために研究を支援する団体を立ち上げようと考えたのです。自分は直接研究を進めることはできませんが、何もせずにただ見守るだけ、ということはしたくなかったんですね。
「今やらずに立ち上げを先に延ばしたら、ずっとやらないだろうな」と思ったので、九州から帰ってきた次の日には、お世話になっている行政書士の方に相談しました。こうして立ち上げたのが、「レット症候群支援機構」なのです。
「研究助成プロジェクト報告会」開催予定、交流会や勉強会も
公式サイトで運営されている「レット患者さんの交流広場」は、どのようなサービスですか?
患者さんやご家族のみを対象としているサービスで、会員以外の方でもご利用できます。交流広場の中では、日常生活での患者さんのケアや地域の福祉サービスなどについての情報交換が、患者さんやご家族同士で行われています。
レット症候群は、身近に患者さんやご家族などがいらっしゃらない方が多いと思いますので、ぜひこの交流広場を通じて、つながっていただければうれしいですね。
現在、イベントの開催予定はありますか?
2月21日(日)13:00より、「研究助成プロジェクト オンライン報告会」の開催を予定しています。レット症候群と、MECP2重複症候群(原因遺伝子が同じで別の遺伝性疾患)患者さんのご家族関係者であれば、どなたでも参加可能です。
この会は、自治医科大学と共に、2019年10月に立ち上げた「遺伝子治療プロジェクト」の研究報告が中心となります。レット症候群支援機構では、この研究の支援金として200万円を出しています。2020年は、新型コロナウイルスの影響を受けて、思うように研究が進みませんでしたが、現状について改めて皆さんにお伝えできればと考えています。今の遺伝子治療の状況を確認できる場となりますので、興味を持ってくださった方は、ぜひ申し込みフォームから、お申し込みいただければと思います。
その他、これまでに、研究に関わる生物の基礎知識や、小児から成人への移行期の治療の問題などをテーマに勉強会を開催してきました。2021年の開催は未定ですが、また、患者さんやご家族同士の交流会も含めて、オンラインでの開催を検討しています。詳細については、公式ウェブサイトやSNSを通じて発信予定です。
活動を通じて、患者さんやご家族からはどのような声が寄せられていますか?
「勇気をもらえた」「自分にできることを探します!」といった前向きな声が寄せられています。
とくに印象に残っているのは、団体立ち上げの際のニュースを見てくださったお子さんたちからの贈り物でした。ある日突然、段ボール箱が届いたんですね。箱を開けてみると、折り紙で作られた100個近くのトトロと、「子どもにもできることがある」というメッセージが入っていたんです。子どもでも、一生懸命に折り紙の作品を通じて応援できることを表現してくれたんだと思い、胸がいっぱいになりました。同時に、大人の自分がもっと本気になれば、きっといろいろなことができるだろうと、勇気をもらいましたね。
活動を通じて大変なことも多くありますが、さまざまな形で応援いただくことで、「前に進むしかないんだ」と改めて自分を奮い立たせることができます。本当に、感謝しています。
レット症候群の「完治」を目指して、これからも動き続ける
今後、新たな活動に取り組むご予定はありますか?
現在、レット症候群の症状の一部を緩和させる効果が期待される治療薬について、2022年を目途に医師主導治験を開始する計画があります。まずは、そのお手伝いをする予定です。
また、患者会などの団体に所属していない患者さんも含め、全国の患者さんの情報を集約させるプロジェクトも検討中です。どの団体にも所属していない方にも、治験などの最新情報をお届けできる仕組みをつくっていきたいですね。
レット症候群の治療法を確立するためには、研究を進めるチームだけでなく、私たち患者・家族の情報も大切になると思います。互いに協力しあえる“オールジャパン”のチームを、本格的につくっていきたいと考えています。
レット症候群患者さんやそのご家族、その他、患者さんたちを支える方々へのメッセージをお願いします。
この言葉を、お伝えしたいです。
- Care today!(今日は精一杯のケア(療育や介護)を!)
- Cure tomorrow!(明日(未来)はキュア(完治)を目指しましょう!)
今、レット症候群に対しては根治療法がなく、ケアが中心ですが、将来はキュアを目指していきたいです。そのために、今、遺伝子治療の研究を多くの研究者たちが進めてくださっています。
私たちの代での治療確立が難しかったとしても、レット症候群の完治を目指す動きを止めてはいけないと思います。
私たち自身が何か少しでも動くことで、未来は少しずつ変わっていくと信じて、これからも活動を続けていきます。
ときには、くじけそうになりながらも、患者さんやご家族からの声に勇気をもらい「動かされてきた」という谷岡さん。
普段は営業マンとして多忙にお仕事をこなしながら、レット症候群支援機構の活動も並行して行ってきたこの10年は、必ずしも良いことばかりというわけではなかったと思います。それでも、「動いたことで、前に進んだことも多かった」と、常に前を向いて進んでいる谷岡さんに、励まされてきた患者さんやご家族も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
お子さんを含め、全てのレット症候群患者さんやご家族の想いを背負い、これからも谷岡さんは歩み続けていきます。(遺伝性疾患プラス編集部)