どのような病気?
Schaaf-Yang(シャーフ・ヤング)症候群は、知的障害を含む精神運動発達遅滞、自閉症、関節の拘縮(こうしゅく)などを特徴とする遺伝性疾患です。この病気は2013年に発見され、確立されたばかりの病気で、別の遺伝性疾患であるプラダー・ウィリ症候群と症状や原因遺伝子領域が似ていますが、厳密には症状や原因が異なる別の病気です。
この病気では、生まれてすぐの頃から、上記の症状に加えて筋緊張低下(筋肉の張りが弱くなる症状)や哺乳障害(摂食困難)などが見られます。また、生まれつき呼吸困難を抱える子どもも多く、人工呼吸器や気管切開が必要になる場合があります。プラダー・ウィリ症候群と比較して発達遅滞や知的障害はより重度なことが多く、また、関節の拘縮はSchaaf-Yang症候群で特徴的な症状です。関節拘縮は、遠位側優位と呼ばれる拘縮で体幹から離れた関節に現れやすいため、指の関節などで見られることが多いですが、膝や肘にも起こります。また、プラダー・ウィリ症候群でよく見られる食欲が抑制できなくなるような症状は、この病気では小児期にはそれほど頻度が高く見られませんが、成人では過食と肥満の特徴を持つ人が多くなるとされます。また、生まれつき呼吸困難を抱える子どもも多く、半数程度で人工呼吸器、2割程度において気管切開が必要になることがあります。
Schaaf-Yang症候群で見られる症状 |
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高頻度に見られる症状 前頭隆起、低い位置の耳、尖ったあご、屈曲拘縮、精神・運動発達遅滞、筋緊張低下、乳児期の筋緊張低下、幼児期の摂食困難、屈曲拘縮、自閉症の行動、内斜視、近視、斜視 |
良く見られる症状 衝動性、頑固さ、操作的行動、皮膚をつまむ/自傷行動、睡眠時無呼吸、呼吸困難、小さな手(その他の手の異常として先細り指、斜指症、屈指症、短指症、親指の内転なども見られる)、慢性便秘、体温調節障害、短い足、(胎児期の)胎動低下、胃食道逆流症、脊柱側弯症、低身長、多食症/肥満(小児期後期/思春期に発症)、てんかん発作、性腺機能低下症(男性) |
しばしば見られる症状 脊柱後湾症、性腺機能低下症(女性) |
Schaaf-Yang症候群の正しい発症頻度はまだわかっていませんが、世界ではこれまでに250人以上の患者さんが報告されており、この病気の発症頻度には、性別や民族などの影響はないとされています。名古屋市立大学大学院医学研究科新生児・小児医学分野のwebサイトに開設されている「Schaaf-Yang症候群について」のページによれば、この病気において国内報告例はまだ少ないと伝えられています。同大の研究グループが行っている全国疫学調査および疾患啓発の取り組みにおいて、2021年に25人の調査結果が報告されています。
何の遺伝子が原因となるの?
Schaaf-Yang症候群は、15番染色体上の15q11.2と呼ばれる領域に存在するMAGEL2遺伝子の変化が原因で引き起こされます。MAGEL2遺伝子は、プラダー・ウィリ症候群の原因となる15q11.2-q13領域の中に位置するインプリンティング遺伝子であり、通常は両親から引き継いだ2つの遺伝子のうち父親由来の遺伝子だけが働くことが決められています。
MAGEL2遺伝子が設計図となるMAGEL2タンパク質は、特に脳に多く存在し、ユビキチンリガーゼの1種であるTRIM27と呼ばれるタンパク質に結合してその活性を調節する役割があります。ユビキチンリガーゼは、一般に不要になり壊されるべきタンパク質にユビキチンと呼ばれる目印をつける酵素です。MAGEL2タンパク質とTRIM27を含むタンパク質の複合体は、レトロマーというタンパク質複合体と一緒に、細胞外から取り込まれたタンパク質を選別しリサイクルするための仕組みに関連していると考えられています。このMAGEL2遺伝子の変異により、これらの仕組みが失われることで、脳や神経の発達に影響を与え、この病気の症状を引き起こすと考えられます。しかし、その詳細については、まだわかっていないことが多く研究が進められています。
Schaaf-Yang症候群の半数以上は、孤発例で両親からの遺伝とは関係なく発症します。この病気は、常染色体優性(顕性)遺伝形式で遺伝し、両親がMAGEL2遺伝子の変異を有する場合、子どもが病気の原因遺伝子を引き継ぐ確率は50%です。しかし、MAGEL2遺伝子は父親由来の遺伝子だけが働くように決められているインプリンティング遺伝子であるため、父親から引き継いだ場合のみ発症します。母親からこの遺伝子を引き継いだ子どもは、保因者となり発症はしません。
どのように診断されるの?
Schaaf-Yang症候群の診断について、難治性疾患政策研究事業の研究班が2020年に作成した国内における診断基準によれば、精神運動発達遅滞の症状があり、1)新生児期の筋緊張低下、2)乳児期の哺乳不良(しばしば経管栄養を必要とする)、3)遠位側優位の関節拘縮の3つの症状のうちのどれかが1つ以上見られ、かつ遺伝学的検査によりMAGEL2遺伝子に変異が認められた場合に診断確定となります。
また、「Schaaf-Yang症候群について」のページでは、診断基準に当てはまらない場合にも、発達の遅れを認めかつ以前にPrader-Willi 症候群を疑われたが、遺伝学的検査で診断がつかなかった場合や、発達の遅れと新生児期に遠位側優位の関節拘縮を認めたが、成長とともに拘縮が改善している場合にも遺伝子検査が推奨されると伝えています。
どのような治療が行われるの?
Schaaf-Yang症候群では、まだ根本的な治療法は確立されておらず、低身長に対する成長ホルモン補充療法や、骨格異常に対する整形外科的治療など、それぞれの症状に対する対症療法が主な治療となります。また、栄養状態や発達の状態、眼科的な検診などについての定期的な検診が行われます。
どこで検査や治療が受けられるの?
患者会について
難病の患者さん・ご家族、支えるさまざまな立場の方々とのネットワークづくりを行っている団体は、以下です。
参考サイト
- Genetic and Rare Diseases Information Center
- Online Mendelian Inheritance in Man(R) (OMIM(R))
- GeneReviews
- 名古屋市立大学大学院医学研究科新生児・小児医学分野、Schaaf-Yang症候群
- Tacer KF, et al., Cellular and disease functions of the Prader-Willi Syndrome gene MAGEL2., Biochem J.