Schaaf-Yang症候群/未診断疾患の当事者へ居場所づくり、SYS患者家族会

遺伝性疾患プラス編集部

知的障害を含む精神運動発達遅滞、自閉症、関節の拘縮(こうしゅく)など、さまざまな症状が現れる「Schaaf-Yang(シャーフ・ヤング)症候群」。2013年に発見された、確立されたばかりの病気です。プラダー・ウィリ症候群という遺伝性疾患と症状や原因遺伝子領域が一部共通していますが、厳密には症状や原因が異なる別の病気です。

今回ご紹介するのは、Schaaf-Yang症候群SYS患者家族会です。この家族会は、お子さんがSchaaf-Yang症候群と診断を受けた園田澪さんが、2022年に立ち上げました。Schaaf-Yang症候群の当事者・ご家族向けの支援に加えて、診断がつかずにいる未診断疾患の当事者向けにも活動しています。その背景には、未診断疾患イニシアチブ(IRUD)へ参加されるなど、ご自身もまたなかなか診断がつかない時期を過ごされたことが関わっていると言います。今回は、SYS患者家族会の活動と園田さんのご経験についてお話を伺いました。

Sys Pro
SYS患者家族会 園田さん
団体名 Schaaf-Yang症候群 SYS患者家族会
対象疾患 Schaaf-Yang症候群、未診断疾患
対象地域 全国
会員数 7家族
設立年 2022年
連絡先 「メール」sys.japan.org@gmail.com
サイトURL ※近日公開予定
SNS

Instagram

Facebook
主な活動内容 3つの願い「患者家族がつながり心をかるくたのしく過ごせますように」「未診断疾患のかたの道しるべとなりますように」「治療法の確立につながりますように」をかかげ、活動中。当事者やご家族の交流の場を設ける、未診断疾患の当事者向けに情報発信するなどして活動している。

病名がわからない日々…IRUDへの参加を経て確定診断へ

お子さんがSchaaf-Yang症候群と診断を受けられた経緯について、教えてください。

息子が生まれたのは、2019年です。その頃から呼吸器疾患や筋疾患の疑いがあり、さまざまな検査を受けていました。Schaaf-Yang症候群の確定診断につながるきっかけとなったのは、IRUDへの参加です。息子が1歳の誕生日を迎えた頃にIRUDへ登録し、その約1年後に「Schaaf-Yang症候群の強い疑いあり」という結果が出ました。そして、その後の検査により、2021年の2歳の頃に確定診断がつきました。

病名がわからなかった時期は、どのような気持ちで過ごされましたか?

常に、病名がわからないことへモヤモヤする気持ちがあったと振り返ります。病名がわからない約2年という月日は、自分にとってはとても長く感じられました。また、目の前のことに精一杯の毎日でした。息子は経管栄養、経鼻酸素といったさまざまな医療的ケアの必要があるので、最初はそれらの内容を覚えることに必死だったと思います。情報を調べる余裕ができたのは、退院して在宅での生活が始まってからです。関連ありそうな症状を、ひたすらインターネットで検索していました。息子の未来が何も見えない中、目の前の子育てと向き合わなければならない現実があって…。当時は、「一体、何をどうしたらいいんだろう」という気持ちで、情報を探していました。

そんな中で、当事者やご家族が発信しているブログやSNSには、何度も勇気をもらいました。前を向いて毎日頑張っているご家族の存在が、心の支えになっていたのだと思います。そして、この時の経験は、今のInstagramでの発信にもつながっています。言葉と画像を用いたわかりやすい発信を心がけ、当事者ご家族の方が前を向くきっかけになれたらと思い発信しています。

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SYS患者家族会公式Instagramより
確定診断がつくまでの間、どのような疾患を疑われていましたか?

神経筋疾患を疑われていて、その中でも「先天性ミオパチーの疑い」と説明を受けていました。確定診断のためには筋生検による検査も行うとのことで、「検査による体への負担を考えて、時期を考えましょう」というお話でした。その他にも、ライソゾーム病のムコ多糖症、脊髄性筋萎縮症(SMA)ソトス症候群、染色体異常の疾患なども可能性としてあがっていたと記憶しています。そのため、こういった他の疾患に関わる検査も受けました。しかし、なかなか病名がわからなかったためIRUDへ参加することとなりました。

確定診断がつくまでの間、他の疾患の患者家族会に参加されたことはありますか?

ありません。診断がついていない立場で、参加する勇気がなかったからです。本当は「診断がつかなかった期間、どんな風に過ごしていましたか?」など、聞いてみたいことはあったのですが…。最後まで連絡できず、ウェブサイトやSNSを見ているだけでした。

SNSでの交流はいかがですか?

プロフィールに「〇〇疑い」または「遺伝子検査中」と書いてある人とは、メッセージのやり取りをしていました。診断がついている当事者・ご家族のアカウントでは、プロフィールに病名がしっかりと書いてありますよね。ただ、私のSNSアカウントでは、まだ診断がついていなかった当時「先天性ミオパチーの疑い」としか書けなくて…。少し、歯がゆい思いをしていました。そのため、病名が確定している方とはなかなかお話しできなかったですね。この頃から、「私も、同じ病気の当事者ご家族とつながりたい」という気持ちがあったのだと思います。

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当時は「〇〇疑い」としか発信できず、歯がゆい思いも
確定診断がついた時、どのようなお気持ちでしたか?

一番は、「ほっとした」という気持ちです。「難病」「治療法がない」という事実に対する不安な気持ち以上に、病名がわかったことに対する安堵の気持ちが大きかったです。夫も、同じような気持ちだったそうです。

そして、病名がわかってほっとしたのも束の間、今度は「情報の少なさ」という壁にぶつかりました。Schaaf-Yang症候群に関わる情報は、海外の情報も翻訳機能を使いながら、読みました。ただ当時は、一番知りたかった日本の患者さんの情報が公開されていなかったんです。ですから、主治医の先生に「同じ疾患の人とつながる方法はありますか?」と聞いたところ、「患者会はないようです」と説明を受けました。このことが、患者会の立ち上げを決意することにつながりました。

当事者・家族や先生との交流の場、つながる安心感を

活動を始めた理由について、教えてください。

大きく2つあります。1つ目は、同じ疾患の人とつながりたいと思ったからです。まずは、InstagramといったSNSでの発信からスタートしました。

2つ目は、現在、SYS患者家族会の顧問としてお世話になっている先生との出会いです。IRUDの結果が出た後、息子の確定診断のための検査でお世話になったのが先生でした。「先生にお会いする時に、Schaaf-Yang症候群について詳しくお話を聞きたい。せっかくだから、患者会を立ち上げよう」と、決意。すぐに、患者会用の名刺をつくるなどして、先生のもとに伺いました。こういった経緯もあり、2022年5月にSYS患者家族会を設立しました。

現在の活動内容について、教えてください。

現在は、当事者・家族の交流の場を設けること、SNSで情報発信することが中心です。会員の皆さんとは、オンライン交流会やLINEを通じてコミュニケーションをとっています。オンラインでの交流会は月に1回くらいの頻度で開催しており、顧問の先生が参加されることもあります。Schaaf-Yang症候群について学んだり、皆さんが生活の中でのお困りになっていることを共有したりしています。

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オンライン交流会の様子

LINEでは、家族会専用のグループで話しています。話の内容はさまざまで、お子さんが好きなおもちゃの話や、Schaaf-Yang症候群のお子さん“あるある”エピソードの話など、楽しくお話しています。

コロナ禍なのであくまでも予定ですが、今後は、オンライン交流会やLINEだけでなく対面で皆さんとお会いする機会も設けたいと考えています。また、現在はお母さん方の参加が中心なので、お父さん向けの交流会なども企画したいです。

「活動をしてきて良かった」と感じるのは、どんなことですか?

一番は、Schaaf-Yang症候群の当事者・ご家族の皆さんとのつながりができたことです。ご家族の皆さんと日頃からLINEで楽しく会話したり、何かあった時にも「こういう時、皆さんはどうしていますか?」と気軽に相談できたりする環境に本当に感謝しています。皆さんとのつながりが、安心感につながっていると感じます。

また、顧問の先生をはじめとする研究班の先生方とつながることができたことも良かったことの一つです。いつか、研究がSchaaf-Yang症候群の治療法開発につながることを祈りつつ、私たちも研究に協力できるように体制を整えていけたらと思います。

未診断疾患の当事者も、気軽に立ち寄れる場所として

SYS患者家族会では、当事者ご家族だけでなく「未診断疾患」の当事者も対象に活動されていますよね。それは、なぜですか?

「未診断疾患の当事者が気軽に立ち寄れる場所をつくりたい」と考えているからです。それは、私たち家族が未診断疾患と向き合う時期を経験したからです。当時、診断がついていないというだけで「どこにも居場所がないみたい」と感じていました。同じ病気の人たちが集まる患者会に参加する勇気はなかったですし、SNSでも「〇〇の疑い」としか発信できず歯がゆい思いをしました。だから、今当時の自分と同じような経験をしている方々向けにも場所もつくりたいと思っています。

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「未診断疾患の当事者が気軽に立ち寄れる場所をつくりたい」と、園田さん

また、未診断疾患の当事者の中には、Schaaf-Yang症候群の方がいらっしゃるかもしれません。ですから、少しでもSchaaf-Yang症候群という病気があることを知ってもらえたらうれしいですね。Schaaf-Yang症候群は、医師の間でもまだまだ疾患認知度に課題があると聞いています。気になる症状がある当事者ご家族が、私たちの活動に参加したことをきっかけに、主治医の先生に質問してみていただけるようになったらと考えています。もし、Schaaf-Yang症候群でない病気だったとしても、「病気や障がいの有無に関わらず、楽しく過ごしている人たちがいるんだ」と知ってもらうことで、「自分も大丈夫かもしれない」と思ってもらえるかもしれません。だから、これからも未診断疾患の当事者向けにも活動しています。

確立されたばかりの病気「Schaaf-Yang症候群」、疾患啓発を

今後、新たな活動に取り組むご予定はありますか?

医療従事者向けの疾患啓発活動も、始めたいと考えています。例えば、家族会として学会に参加し、ブースの出展などを通じて先生方に知っていただく機会を広めたいです。

Schaaf-Yang症候群は確立されたばかりのということもあり、今も診断がつかずにいる当事者がいる可能性があります。Schaaf-Yang症候群と診断がつかず成人を迎えた当事者もいると考えられていますが、日本では確認できていないと聞いています。ですので、そういった方々が少しでも確定診断につながるように、私たちは疾患啓発の活動を続けていきます。

最後に、遺伝性疾患プラスの読者にメッセージをお願いいたします。

Schaaf-Yang症候群のことを、少しでも知っていただけたらうれしいです。この記事をきっかけに「こういう病気があるんだな」と名前を知っていただいたり、家族会のSNSや今後公開予定のウェブサイトを通じて「どのような病気か?」も知っていただいたりしたらうれしいです。

また、これからも、Schaaf-Yang症候群の当事者・ご家族はもちろん、未診断疾患の当事者ともつながりたいです。なかなか診断がつかずに悩んでらっしゃる方も、安心してご連絡ください。皆さんで気軽に話せる一つの居場所として、私たちを知ってもらえたらうれしいです。


SYS患者家族会の会員の皆さんは全国各地にお住まいのため、オンラインやLINEでのコミュニケーションが中心です。コロナ禍の影響もあり、まだ直接会うことができていないそうですが、お話からつながりの強さが伝わってきました。

また、お子さんが生まれてから約2年、なかなか診断がつかない時期を経てSchaaf-Yang症候群とわかった園田さん。未診断の時期に感じた「どこにも居場所がないみたい」という思いから、SYS患者家族会では未診断疾患の当事者向けにも活動しています。もし、同じような思いを抱えている未診断疾患の当事者・ご家族がいらっしゃったら、ぜひSYS患者家族会のことを知っていただけたらと思います。

2022年に設立されたばかりのSYS患者家族会。これから、より多くの方々に活動が広まっていくことを祈っています。(遺伝性疾患プラス編集部)

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