ディズニー・ピクサーを目標に、SMAをもつ22歳・3Dアーティストが目指すネクストステージ

遺伝性疾患プラス編集部

杉本大地さん(男性/22歳/脊髄性筋萎縮症(SMA)II型患者さん)

杉本大地さん(男性/22歳/脊髄性筋萎縮症(SMA)II型患者さん)

2歳3か月の頃にSMAの診断を受け、物心ついたときから車いすでの生活を送る。小学生の頃から、アニメーション製作に興味を持ち、高校生から本格的に3DCGを独学で学ぶ。大学では英文科を専攻し、在学中にフリーランスとして3Dアーティストの活動を開始した。現在、国内外問わず活動中。将来、ディズニー・ピクサーの作品に関わることが目標。

 

公式ウェブサイト:https://daichiandbon.com

Twitter:https://twitter.com/daichiandbon

Instagram:https://www.instagram.com/daichiandbon

今回お話を伺う遺伝性疾患患者さんは、脊髄性筋萎縮症(SMA)をもつ杉本大地さんです。SMAは、体幹や手足の筋力低下、筋委縮を特徴とする、進行性の遺伝性疾患。杉本さんは、2歳3か月の頃にSMAの診断を受け、物心ついたときから、車いすでの生活が当たり前だったと言います。周りの友だちと自分との違いに戸惑ったこともあったという杉本さんですが、徐々に、SMAであることも自身のアイデンティティとして考えられるようになったそうです。

そんな杉本さんが小学生の頃から興味を持ったのが、アニメーション製作。CGも独学で学んだというその熱量は、「趣味」から「仕事」へと大きく変化していきました。そして、いつしか「ディズニー・ピクサーの作品に関わりたい」という大きな目標も生まれたのだとか。ご自身の英語力を生かし、国内だけでなく海外のお客さんに向けても仕事をしている杉本さん。これまで歩んできた人生や、これからの目標について、詳しくお話を伺いました。

「SMAであることも含めて、ぼく」と実感した幼少期

ご自身の病気については、いつ頃、どのように受け入れられましたか?

受け入れるというより、病気であることに対して最初から「当たり前」と感じていました。物心ついた頃には、もう車いすに乗って生活していたことも、その理由の1つだと思います。小・中学校は地元の公立学校に通っていたため、「ぼくは、周りの友だちとちょっと違う」という認識はありましたが、とくに大きく悩んだことはなかったですね。

「物心ついた頃には、もう車いすに乗って生活していた」という杉本さん(写真はイメージ)

それは、自分の親の影響もあるかもしれません。小さい頃、家族との会話のなかで「もし、ぼくがみんなと同じように歩けたらどうだったかな?」と聞いたとき、お母さんに「それは、もう大地じゃないでしょ」って言われたんですね。このやり取りは今でも印象的に覚えていて、このときに「SMAであることも含めて、ぼくなんだ」と、実感しました。

それに、SMAがどのような病気なのか、親からはくわしく聞いたことがありません。きっと、ぼくが自ら知るのを待ってくれたんだと思います。病気のことは、自分で調べたり、患者支援団体の活動に参加したりするなどして、情報を得てきました。

多様性を描くディズニー・ピクサー、「好き」から「目標」へ

3Dアーティストを目指したきっかけは何ですか?

仕事にしようと決意したのは、大学での授業がきっかけです。授業を通じてピクサーをより深く知るようになり、「極めたら面白そう!」と感じたのが、大きなスイッチでした。大学では英文学科を専攻していたのですが、芸能や映画も授業で学べたんです。その中の1つがピクサーを英語の資料などを用いて学ぶ授業で、初期の『トイ・ストーリー』などを中心に学びました。

実はもともとぼくは、小学生の頃から、家にあるカメラやパソコンで簡単な映像作品をつくっていました。例えば、ホチキスが生き物のように動く動画です。これは、ホチキスをコマ撮りしたものをつなげて映像化した作品でした。当時は、そういった映像の原理に興味があったんです。コマを連続で並べると、まるで本当にホチキスが動いているように見えるというのが面白かったですね。こんな風に、最初は趣味として始めて、気付いたら仕事になっていました (笑) 。

趣味が仕事になったって素晴らしいですね!CGについては、どのように学ばれたのですか?

高校生の頃に、独学で学びました。CGを学ぶための環境を整備してくれた親には、とても感謝しています。高校生の頃に、自分専用のノートパソコンを買い与えてもらって、そこから学びがどんどん加速し、自然と3DのCG(コンピューター・グラフィックス)を学び始めました。

CGを学び始めたきっかけは、「新宿の空にUFOを浮かばせたい!」と思ったことでした。映像の原理には引き続き興味があったので、「こんな表現はできるかな?」など、常に色々考えていたんです。ある日、新宿へ出かけたとき、「この新宿の景色を切りとって、UFOを動かしたい。怪獣もいたら面白いな」と思い、「これは、3Dじゃないとできないな」と。それがきっかけで、今につながっていますね。

インターネットで調べながら、独学でCGの勉強に没頭しました。つらいというより、楽しくて仕方なかったです。また、作品ができると家族も「すごいね!」と言ってくれて、うれしかったですね。「大地がやりたいことを、自由にやったらいいよ」と言って、いつも応援してくれる家族には本当に感謝しています。

杉本さんが手掛けたキャラクター「Dot the Deer」
ディズニー・ピクサーがお好きだと伺いました。とくにお好きな作品と、その理由について教えてください。

『モンスターズ・ユニバーシティ』は作品の世界観が大好きで、とくに影響受けていると思います。この作品は、『モンスターズ・インク』のキャラクターたちの学生時代を描いたもので、さまざまな特性を持つモンスターたちが学生生活を通じて成長していく姿が描かれています。モンスターたちの外見は、それぞれ色も違えば体型も全然違うんですが、みんなそれぞれの個性を生かして活躍しています。そういった多様性を描いている部分に、惹かれているのかもしれません。

その他にも、小さい頃から『ファインディング・ニモ』が大好きです。5歳の頃によく見ていて、その時の将来の夢が「ニモになること!」だったくらい、好きな作品です(笑)。ニモは、生まれつき右ヒレが小さく、ハンディキャップを抱えているキャラクターだったので、幼心に自分と重なるものを感じていたのかもしれません。

3Dアーティストとしての目標を教えてください。

ディズニーかピクサーでアニメーション製作に関わることです。ぼくが、ディズニー・ピクサー作品から多くの夢や希望をもらったように、今度はぼくが作品を製作する立場になって、多くの人々に届けていきたいと考えています。

そのためにも、まずは自主制作の短編アニメーションを作るなどして、実績を積み重ねていきたいですね。作品を通じて、ぼくの経験や思いもお伝えできれば嬉しいです。

キャラクター「Rupert Caramali」くんは、理想が詰まった友だち

現在は、主にどのようなお仕事を手掛けられていますか?

一般のお客様向けに、映像作品やSNSアイコン等に使うイラストの作成、企業様向けにプロモーションアート、アプリ開発にあたってのCG制作のお手伝い、などをしています。国内のお客様はもちろん、海外のお客様向けにも仕事をしています。

杉本さんが手掛けたキャラクター「Pirates’ Skull」
これまでに手掛けたキャラクターの中で思い入れの強いキャラクターと、その理由について教えてください。

「カワウソ忍者」というキャラクターは、とくに思い入れが強いです。大きな仕事のきっかけになってくれたので、気に入っていますね。カワウソ忍者は、2019年に手掛けたアプリ内で登場するアバターのひとつです。そのアプリは、カメラの前で歌を歌うと、アバターが自分と同じ表情で歌ってくれるというアプリなんです。ぼくは、カワウソ忍者の他にも8体のアバターを手掛けました。とくに、カワウソ忍者はアプリ開発者側に気に入ってもらったのでうれしかったですね。

キャラクターを生み出す仕事は、本当に面白いです。ぼくは、本能的にキャラクターをつくりたくなってしまうみたいで…何かアイディアを思いつくと、キャラクター化してしまう癖があるんです(笑)。きっと、『モンスターズ・ユニバーシティ』で描かれているような、バリエーション豊かなキャラクターたちが生きる世界観が好きなのだと思います。これも、「多様性を表現したい」という思いにつながっているのかもしれませんね。これからも、さまざまなキャラクターを手掛けていけたらうれしく思います。

それから、ぼくのSNSのプロフィール画像で使用しているキャラクターも気に入っています。多くの方々からも、「好き」と言っていただく機会が多いですね。

SNSのプロフィール画像で使用されているキャラクターは、どのようなキャラクターなのですか?

イカをモチーフにした「Rupert Caramali(ルパート カラマリ)」くん、というキャラクターです。彼は、ぼくの理想を反映したキャラクターで、大事な友だちでもあります。3年くらいの付き合いになりますね。Rupert Caramaliくんは、ある日突然、ぼくの頭の中にイメージが現れてきたんです。最初に、ピンク色の顔が頭の中でパッと浮かんできて、そこからつくり上げました。

Rupert Caramali(ルパート カラマリ)くん

ぼくは映画鑑賞が好きなので、きっとさまざまな作品からインスピレーションを受けているんだと思います。つくるキャラクターのデザインが変わるときは、そのときのぼくの気持ちも反映されていますね。例えば、Rupert Caramaliくんは、2019年の夏に少しデザインを更新しました。その頃、ちょうど映画の『ジョーカー』をみて、登場人物の衣装にとても惹かれていたんですね。だから、「こういう衣装のキャラクターをつくりたいな…よし、Rupert Caramaliくんに着てもらおう!」と思って(笑)。キャラクターはそのままですが、コスチュームや背景を変えてデザインを一新しました。

遺伝性疾患という特性があるからこそ味わえる、特別な人生がある

最後に、同じ遺伝性疾患患者さんにメッセージをお願いいたします。

ぼくたちは、遺伝性疾患であることを理由に大変な思いをする機会が多いのかもしれません。でも、その大変さ以上に、遺伝性疾患という特性をもっているからこそ味わえる、特別な人生があると信じています。いま振り返ってみると、SMAという特性をもっていたから出会えた人がいて、経験できたことがあると感じています。SMAという特性を含めて、いまのぼくはあるんだと、考えられるようになりました。

ぼくのSMAは進行性の疾患なので、「今は当たり前にできていることが、いつか、できなくなる日がくるのではないか…?」という不安があるのは事実です。将来への漠然とした不安について考えはじめると、自分の周りの人たちが羨ましくなってしまうことや、ネガティブな気持ちにとらわれてしまうこともあります。

でも、今のぼくはそれ以上に、3Dアーティストとしての経験を積み、スキルを上げていくことや、社会の変化、テクノロジーの進化にワクワクしていて、毎日を楽しく生きています。一度きりの特別な人生を、みなさんと一緒に楽しんで生きていけたら、うれしいですね。

最後に、これは願いになりますが…遺伝性疾患に直接関わりない人たちにも、もっと遺伝性疾患のことを知ってもらえたらと思います。SMAはもちろん、遺伝性疾患全体についても、まだまだ理解されていない部分が多くあると感じています。例えば、ぼくは普段、電動車いすに乗っているのですが、それだけで周りから「障がい者」というレッテルをはられ、まるで「自分とは違う種類の人間」という風に見られているように感じることがあるんです。

そんな人たちにも、遺伝性疾患やSMAのことを正しく知ってもらい、「あなたと同じ、一人の人間なんですよ」ということが、当たり前に伝わる社会になったらいいなと…。それは、もちろん簡単なことではないです。だけど、ぼくの作品を通じて、そういったことも多くの方々に伝えることできたら、とてもうれしく思います。

 


 

3Dアーティストのお話について、目を輝かせながら話してくださった杉本さん。CGも独学で勉強したというお話には、本当に驚かされましたが、「楽しくて仕方なかった」と話す姿は、とても輝いて見えました。

また、さまざまな作品を通じて、キャラクターづくりのインスピレーションを得ているというお話も印象的でした。ある日突然、頭の中にパッとイメージが現れたことで生み出されたRupert Caramaliくんのように、今後も杉本さんがつくり出すキャラクターや作品が楽しみで仕方ありません。

そして、最後に、社会への願いも話してくれた杉本さん。なかなか、遺伝性疾患への理解が十分とは言えない世の中ですが、杉本さんの作品をきっかけに、一人でも多くの人が遺伝性疾患やSMAのことを知ってくれたら、うれしく思います。(遺伝性疾患プラス)

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