トリーチャー・コリンズ症候群

遺伝性疾患プラス編集部

英名 Treacher Collins syndrome
別名 下顎顔面骨形成不全症、トレチャーコリンズ症候群
発症頻度 5万人に1人と推定
日本の患者数 不明
子どもに遺伝するか 遺伝する[常染色体優性(顕性)遺伝形式]または[常染色体劣性(潜性)遺伝形式]
発症年齢 新生児期より
性別 男女とも
主な症状 上下の顎や頬骨の低形成、外側が下がった目、骨密度低下など
原因遺伝子 TCOF1、POLR1C、POLR1D、POLR1Bなど
治療 個別の症状に応じた対症療法
もっと見る

どのような病気?

トリーチャー・コリンズ症候群は主に頭部の骨や組織の発達障害によってさまざまな症状がみられる遺伝性疾患です。上あごと下あごの形成の異常が、左右両側で同じように見られること(両側対称性の上下顎の形成異常)を特徴とし、頬骨の低形成(十分に形成されないこと)、小さな下顎、下方に傾斜した眼瞼裂(がんけんれつ、外側が下がった目)、難聴などがみられますが、四肢の異常はなく、知能は正常です。

その他の特徴として、左右両側で見られる頬骨、眼窩下縁(がんかかえん、目の下の部分)や下あごの低形成、不正咬合(嚙み合わせ不正)、開口制限などが挙げられます。上気道(鼻やのど)の狭窄と開口制限によって、呼吸および栄養摂取が障害されることがあります。目の症状としては、眼瞼裂斜下(外側が下がった目)、下眼瞼(下まぶた)の一部に欠損がみられる下眼瞼コロボーマ、下眼瞼の外側の睫毛欠如などがあります。また、耳の症状として、両側性の伝音難聴(外耳から中耳までの音を伝える経路の障害による難聴)、小耳症または無耳症などの外耳異常がみられます。

トリーチャー・コリンズ症候群で見られる症状

高頻度にみられる症状

顔の形態異常、骨密度低下、眼瞼裂斜下、上顎低形成、頬骨低形成、頬部の平坦化、小顎症、顔中央部の平坦化、不正咬合、下顎後退、短い顔、骨格形成異常

良くみられる症状

歯の異常、中耳の異常、睫毛の欠損、伝音難聴、眼瞼欠損、前頭隆起、虹彩欠損、低い前額毛髪線、低い位置の生え際、小耳症、内耳道狭窄、斜視、歯牙欠如、視覚障害、広い鼻梁

しばしばみられる症状

歯のエナメル異常、毛髪異常、心血管奇形、歯の形態異常、副腎の異常、脊柱の異常、眼瞼痙攣、短頭症、鰓瘻(頸部周辺の穴)、白内障、後鼻孔閉鎖症(鼻腔の終点部の閉鎖)、口蓋裂、口唇裂、停留精巣、発語障害、脳瘤(一部が欠損した頭蓋骨から脳組織や体液に外部に出る状態)、顔面裂、発育不良、発達遅延、舌根沈下、高口蓋(鼻腔と口腔との境界である口蓋が高い位置にある状態)、両眼隔離、陰茎低形成、胸腺低形成、小眼球症、多発性内軟骨腫、小口症、動脈管開存症、耳介部のイボ、直腸腟瘻、呼吸障害、陰嚢低形成、甲状腺低形成、気管食道瘻、大きい口

トリーチャー・コリンズ症候群の有病率は5万人に1人とされています。日本の患者数は不明です。

何の遺伝子が原因となるの?

トリーチャー・コリンズ症候群にはTCOF1遺伝子、POLR1C遺伝子、POLR1D遺伝子、POLR1B遺伝子の変異が関与すると考えられています。中でもTCOF1遺伝子の変異が全体の81~93%を占め、POLR1CおよびPOLR1D遺伝子の変異は2%程度です。また、これらのいずれにも変異がみられないケースもあります。TCOF1遺伝子を設計図として産生されるタンパク質は、顔の骨および組織が形成される初期段階で働いています。また、リボソームRNA(rRNA)という物質の産生にも関与しています。rRNAは、タンパク質を合成する過程で必須となる物質であり、細胞の機能と生存に不可欠です。POLR1C、POLR1D、POLR1B遺伝子も、rRNAの合成に関わる酵素(RNAポリメラーゼIといいます)の産生に関与しています。トリーチャー・コリンズ症候群では、これらの遺伝子の変異によってrRNAの産生が低下することが顔の骨や組織の発達に影響する可能性があると考えられていますが、現時点では、その仕組みの詳細まで完全には解明されていません。

トリーチャー・コリンズ症候群はその原因がTCOF1、POLR1D、POLR1B遺伝子の変異による場合には常染色体優性(顕性)遺伝形式で遺伝します。両親のどちらかがトリーチャー・コリンズ症候群だった場合、子どもは50%の確率で発症します。一方、患者さんの60%は家族にトリーチャー・コリンズ症候群の家族歴はなく、新生変異による発症であるとされています。

Autosomal Dominant Inheritance

また、トリーチャー・コリンズ症候群の原因がPOLR1C遺伝子の変異である場合には常染色体劣性(潜性)遺伝形式で遺伝します。この場合、両親がともに遺伝子の片方に変異を持つ(保因者)場合、子どもは4分の1の確率で発症します。また、2分の1の確率で保因者となり、4分の1の確率でこの遺伝子の変異を持たずに生まれます。

Autosomal Recessive Inheritance

どのように診断されるの?

国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所のトリーチャー・コリンズ症候群の診断基準では、下記の大症状のうち2つ以上+遺伝学的検査で当該する遺伝子の変異が確認された場合、トリーチャー・コリンズ症候群と確定診断し、大症状のうち3つ以上+小症状をみとめた場合、トリーチャー・コリンズ症候群の可能性が高いと判定します。

大症状:1.頬部低形成、2.眼瞼裂斜下、3.小顎症、4.小耳症・外耳奇形

小症状:下眼瞼のコロボーマ

遺伝学的検査:TCOF1、POLR1D、POLR1C遺伝子等の原因遺伝子に変異を認める

どのような治療が行われるの?

トリーチャー・コリンズ症候群は国内では確立された治療方針は作成されていません。米国のGeneReviewsという遺伝性疾患に関するサイトでは以下が示されています。

トリーチャー・コリンズ症候群の治療は患者さんの症状に応じた対症療法が行われます。また、形成外科、耳鼻科、歯科、小児科などの多科の連携が求められます。気道に問題がある場合には外科手術によって、呼吸機能の改善、鼻孔の再建、下顎骨の伸長などが行われます。妊娠中にトリーチャー・コリンズ症候群と診断された場合には出生時からの小児科医による呼吸管理が考慮されます。また、栄養摂取に問題がある場合には適切なカロリーを摂取するために必要に応じて、胃にチューブを設置する胃ろうを設置する場合もあります。気道障害と哺乳障害の治療は生後2歳までに実施することが良いとされています。3歳から12歳では言語療法を含む教育システムが考慮されます。難聴に対しては骨導型補聴器、言語療法、教育的介入などがあります。正常な発達を助けるために、聴覚障害の管理は早期に行うことが良いとされています。頭蓋顔面部の手術としては、口蓋裂の修正、頬骨と眼窩の再建、上下顎の再建、外耳再建、などがあり、再建は度々実施されることがあります。その他、歯並びの矯正も実施されます。口蓋裂の修復は1~2歳、頬骨と眼窩の再建は5~7歳まで、下顎矯正術は16歳までの実施が良いとされています。適切な管理を行っていれば、トリーチャー・コリンズの患者さんの寿命は一般集団と変わりません。

どこで検査や治療が受けられるの?

日本でトリーチャー・コリンズ症候群の診療を行っていることを公開している、主な施設は以下です。

※このほか、診療している医療機関がございましたら、お問合せフォームからご連絡頂けますと幸いです。

患者会について

難病の患者さん・ご家族、支えるさまざまな立場の方々とのネットワークづくりを行っている団体は、以下です。

参考サイト

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス

このページ内の画像は、クリエイティブ・コモンズ 表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際 ライセンスの下に提供されています。
こちらのページから遺伝に関する説明図を一括でダウンロードすることも可能です。