【南】の専門医・知念安紹先生が語る「地域における医療の特色と課題」

遺伝性疾患プラス編集部

「東西南北の専門医が徹底討論!「お住いの地域における受診のお困りごと」」Topに戻る

5yclec

日本の南に位置する沖縄県を拠点に、遺伝性疾患をご専門として長年携わっておられる、琉球大学 大学院医学研究科 育成医学(小児科)講座 診療教授の知念安紹先生に、地域における医療の特色や課題について、ご講演頂きました。


琉球大学 大学院医学研究科 育成医学(小児科)講座 診療教授の知念です。私の方では、南と言っても九州全体について語ることはできませんが、東京都や大阪府のような大都市とは異なり島々から成る沖縄県での、遺伝性疾患に関する医療の状況について説明したいと思います。

 難病医療従事者研修会 20240724 1

知念先生ご提供。

まずは、沖縄県の特色をまとめてみました。沖縄には、親戚や血縁者の助け合いを意味する「ゆいまーる」という概念があり、これが大きな特徴の一つです。一方で、離婚率が高く、出生率も高いということが特徴として挙げられます。また、お酒に強い人が多いという特徴もあります。また、平均世帯収入が少ないという厳しい状況もあります。こうした中で、沖縄県でも世代交代が進み、世話好きなおじい・おばあの世代が高齢化して、徐々にいらっしゃらなくなってきています。こうした流れの中で、私は小児科医として診療してきたわけですが、ここ10年ほどで大きな変化を感じています。こうした血縁者や地域社会を支えていこうというゆいまーる精神のある方々が徐々に減少していったように感じます。ただし、地域差があり、沖縄県の北部地域にはまだこのようなゆいまーるの精神を持つ人が比較的多いように見受けられます。

それから、「なんくるないさ」という考え方がありますが、これは「診断されなくても何とかなる」という考え方がある一方で、「診断が難しいから遠慮している」という見方など、さまざまな解釈があります。遺伝性疾患の診断がつくことで、後ろ指を指されてしまうのではないかと心配なので診断されなくてもよい、といったような後ろ向きな意味でのなんくるないさもあります。しかし、最近の若い世代はより前向きに取り組んでいこうとする印象があります。

また、希少疾患については、我々が積極的に啓発活動を行う必要がありますが、その認識はまだ十分とは言えない状況です。医療側の課題としては、専門医が少ないことが挙げられます。沖縄県には琉球大学に医学部があり、卒業後、多くの場合、研修医として大きな都市の方へ行きます。その方たちが習得した技術や知識を持って沖縄県に戻ってきていただけると非常にうれしいのですが、実際にはそのようなケースは多くはありません。また、各医療分野で偏りがあり、昨今では外科医の不足が問題となっています。例えば、乳腺外科の若手医師が不足するなど、地域の問題があります。また、離島の医療体制にも課題があり、例えば八重山諸島や宮古島では医師の確保が困難です。この問題に対しては、他府県の大学に医師の派遣を依頼したり、琉球大学や県内の医師を離島に派遣したりするなど、さまざまな方法で医師の確保に努めています。

 難病医療従事者研修会 20240724 2
知念先生ご提供。

沖縄県の出生率は全国的に見て高いとお話ししましたが、20年前くらいから、年間1万7,000人から1万6,000人台の出生数を維持していました。しかし2015年頃から減少傾向となり1万3,000人台に落ち込み、さらに減少が続いている状況です。宮古島の先生の話によると、出生数の減少は深刻な問題となっており、小学校をはじめとする学校運営にも影響が出ているとのことでした。それから、先ほど平均世帯収入は低いとお話ししましたが、約400万円というデータがあります。私の印象ではもう少し低いように思えていますが、いずれにせよ、かなり厳しい状況にあると言えます。

 難病医療従事者研修会 20240724 3
知念先生ご提供。

昨年、沖縄県内で難病医療従事者研修会を開催しました。そこで、遺伝性疾患に関して、さまざまな立場の方々からいろいろな質問やご意見が出ました。遺伝子検査が急速に普及してきていますが、特に遺伝カウンセリングを含めた全体の流れについて理解を深めたいという要望がありました。これは私たちの説明が不十分だったことを示唆しています。また、難病患者さんのお子さんとの接し方など、基本的な事項について確認したいという要望もありました。さらに、相談窓口に関しては、私たちも対応していますが、より気軽に相談できる窓口を希望する声が多いようでした。このことから、希少難病に詳しい医師の知識と対応能力をさらに向上させる必要があるという印象を受けました。医療従事者の連携については、地域単位でまとまりやすい傾向がありますが、効果的な連携体制の構築にはまだ課題があると感じています。今後は、このような難病医療従事者研修会を通じて、連携体制の構築や知識の普及を進めていきたいと考えています。

沖縄県の代表的な難病支援団体として認定NPO法人アンビシャスがあります。約20~30年にわたり活動を続けている団体で、先ほどの難病医療従事者研修会に参加しており、これからも支援団体とも協力して取り組んでいく必要があります。

 難病医療従事者研修会 20240724 4
知念先生ご提供。

難病疾患の中で未診断のものについては、IRUD(未診断疾患イニシアチブ)という取り組みがあり、沖縄県の琉球大学もこれに参加しています。

 難病医療従事者研修会 20240724 5
知念先生ご提供。

この取り組みの中で、琉球大学はさまざまな高度協力病院・協力病院と連携を取り、月1回、診断委員会をウェブで開催しています。

 難病医療従事者研修会 20240724 6
知念先生ご提供。

IRUDで解析が行われた沖縄県の132例において、約6割が診断されました。診断された症例のうち、常染色体顕性(優性)遺伝形式の新生変異(両親は原因となる遺伝子変異が見つからず、お子さんに原因となる遺伝子変異が見つかること)が77%と、大多数を占めていました。これらの症例には非常にまれな疾患が含まれており、世界的にも数年前にようやく診断方法が確立されたような疾患もあります。これらの症例をどのように理解し、フォローアップしていくかは非常に難しい課題だと考えています。また、潜性遺伝形式を取る疾患も一部含まれていることがわかっています。これらの疾患については、代謝疾患や神経疾患も含めて、丁寧にフォローアップする必要があり、社会として多くの方々との協力や支援が必要と考えています。

簡単な概要でしたが、私から以上です。ありがとうございました。

【南】の専門医:知念安紹先生

琉球大学 大学院医学研究科 育成医学(小児科)講座 診療教授。博士(医学)。琉球大学医学部を卒業後、同大医学部附属病院助手、講師、同大大学院医学研究科育成医学講座准教授等を経て、2022年より現職。日本小児科学会専門医・指導医、日本人類遺伝学会臨床専門医・指導医。