マルファン症候群の専門医に聞いた!生活のギモンや病気のこと

遺伝性疾患プラス編集部

今回の専門家インタビューは、マルファン症候群の特集です。マルファン症候群の方々から寄せられた質問や疑問について、マルファン症候群のご専門医として長年診療に携わってこられた、東京大学医科学研究所客員教授の森崎隆幸先生にお伺いしてきました。病気の症状や治療についてのことから、結婚やお仕事のこと、さらには、遺伝性疾患全般に関わることまで、幅広い内容の質問にお答えいただきました。

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東京大学医科学研究所客員教授 森崎隆幸先生

マルファン症候群の症状や治療について

まず、マルファン症候群とはどのような病気なのか教えてください

マルファン症候群は、心臓、血管、骨、関節、眼などにいろいろな症状が現れる遺伝性の病気として知られています。19世紀の終わりにマルファンという医師がこの病気を報告したことから名づけられました。心臓、血管、骨、関節、眼は、直接つながりがないようにも思われがちですが、ひとつの変化がこれらの部分にいろいろな症状をもたらします。

起こり得るいろいろな症状は、全ての患者さんに当てはまるというわけではなく、個人差があります。自覚出来ないくらい軽い症状の人もいれば、心臓や血管に重い症状を持つ人もいます。関節に変化がある人もいますし、目の変化で近視になる人もいます。背が高く、指が長いという体つきの特徴もあります。

マルファン症候群は、遺伝する病気の中では比較的頻度が高いということが知られています。人種や地域によらず、日本でも国外でも、ほぼ同じぐらい頻度で、おおよそ5,000人に1人ぐらいと考えられています。症状が1人ひとり違う上に、この病気と診断されていない人もまだまだいることから、あくまでも”おおよそ”なのですが。病気そのものは、医師であれば知らない人はいないほど有名ですが、症状があまり現れず普通に生活をしている人も多いので、医師であれば必ずしもすぐにわかるという病気でもないのです。

また、マルファン症候群は、スポーツ界ではよく知られた病気です。背が高く指が長いという特徴があることから、以前はこの病気と知らないまま、プロのバスケットボール選手やバレーボール選手となり、試合中に突然、大動脈が裂けて命を落とすような方もいました。体つきなどに症状が現れていても、普段の生活で具合が悪くなるようなことがないため、わかりづらいということから、スポーツ界では注意すべき病気として有名です。

遺伝性の病気ということは、身内に同じ病気の人が必ずいると考えてよいのでしょうか?

実は、そういうわけでもないのです。マルファン症候群は、FBN1という遺伝子の変化で起こる病気で、両親のどちらかがマルファン症候群であると、変化のあるFBN1遺伝子、また、個人差はあるものの病気の体質は、その遺伝形式から50%の確率で子供に受け継がれます。ですので、遺伝する、身内にいる病気であるといえます。

ところが、よく調べてみると、「身内にマルファン症候群らしい人はこれまでに誰もいない」という人が4人に1人くらいいます。どういうことかというと、ご両親の遺伝情報というのは、2つずつあって、それの片方ずつが組み合わさって、お子さんの設計図としての遺伝子セットとなります。その過程で、ご両親から受け継ぐ遺伝子のいろいろなところに、わずかですが必ずいくつかの変化が入るのです。これは、みなさんも私も、全ての人で起こります。この変化が、たまたま病気に関係のあるところに起こると、ご両親にはそういった特徴(体質)がなくても、病気の体質を持つお子さんが生まれるということになります。これは、マルファン症候群に限らず、遺伝性の病気で起こることです。

こうした仕組みによって、その家系で初めてマルファン症候群として生まれたお子さんが、パートナーと一緒にお子さんを持つようになると、同じ遺伝子に別の変化が起こらなければ50%の確率でマルファン症候群の体質が次のお子さんに受け継がれます。つまり、マルファン症候群は両親から受け継がれることが多いけれど、両親には全くなくても起こる可能性があり、かつ、その先の世代に受け継がれる可能性がある病気なのです。

一方で、この病気は身内にいないと言った人でも、よく話を聞くと、ご家族の中に心臓の手術をした人や、大動脈解離で亡くなった人がいるとわかる場合もあります。ですから、マルファン症候群は、見逃されることのある病気で、気付かずに放っておくと命に関わることもあるので、きちんと診断されて治療を受けるのはとても重要なことだと考えています。

見逃されやすい病気ということですが、診断がつくまで長くかかる人もいるのでしょうか?

今は小さいうちからいろいろ健診があるので、背がとても高い、一見わかりにくいけれど背骨が曲がっている、手や足の指がとても長いといった体つきの特徴が早いうちから見られる人の場合には、健診をきっかけにいろいろな検査を受けて、早めにマルファン症候群と診断されることもあります。

例えば、まだ小学校に入る前なのに小学校2、3年生ぐらいの背の高さがあるとか、極端に痩せていて指がずいぶん長いとか、そうした特徴がみられたり、あるいは、早い時期に、肺に穴が開く「気胸(ききょう)」が起こり、それに加えて、背丈などの骨組みの変化があったりすると、医師であれば知らない人はいない病気なので、「ちょっと何か心配なことがあるかもしれないね」ということで、診断につながっていきます。

ただ、早いうちにはっきりとした症状がないと、診断されないまま学校を卒業し、社会に出て、その後20代、30代で、心臓の検査で見つかったり、あるいは心臓や血管に、命に関わるような変化が起こり、初めて診断される人もいます。実際私のところでも、子どもの頃でなく、20代、30代で「ちょっと調べてみてはどうでしょうか」と紹介されてきて、診断をした人も少なくありません。

一方、極端な例として、心臓や血管の変化が起こらずに、50代60代になってから診断される人も確かにいます。症状や身体の特徴が現れていれば診断できますが、自覚症状がない場合には、診断されない人も実際にいらっしゃるのですよね。

全然症状がなくて、自身のお子さんの方でついた診断がきっかけでわかったというケースもありますか?

あります。マルファン症候群は、最初のうちに現れやすい症状は、心臓や血管よりも、体つきや骨組み、眼の症状です。特に、背骨が曲がるといった症状は、学校の健診項目に入っているため、他の症状などからも必要であればマルファン症候群の検査を受けることになります。遺伝子検査でFBN1遺伝子に変化が見つかりマルファン症候群と診断されると、ご両親も念のため調べることになります。実際に、ご両親の片方に、一見気にならないけれどちょっと似たような特徴があり、調べてみたら同じ遺伝子の変化を持っていたというケースもありました。後から診断された親御さんを、良く調べてみたら、すぐに血管の手術をした方が良い状態だったということもありましたよ。

ときに命に関わる心臓や血管の症状に対し、治療は進歩していますか?

血管を取り替えなくてはならないような膨らみができる、あるいは血管に裂け目が起こるような状態になったとき、それを治す手立ては、現時点では外科手術です。40年ぐらい前、私が医師になった頃は、診断がついても心臓や血管の治療は決して安全ではありませんでした。手術の方法や術後の管理、取り替える人工血管の素材など、以前は今ほど良い状態ではなかったので、治療の成績はあまり良くなかったのです。

今は、手術の成績は非常に良くなってきています。血管が裂けるといった、命に関わるようなことが起こる前であれば、その危険性を事前に検査で明らかにして、良い状態のときに手直しをする手術をします。結果として、40年くらい前はマルファン症候群の診断がついたら、30代ぐらいで亡くなられる方が半分くらいいたのですが、今は診断や治療を受け、血圧の調整などもきちんと行われている場合、多くの方は、普通の人とほとんど変わらずに一生を全うすることができます。

また、昔は、マルファン症候群の診断がついたら、女性の場合はお子さんを持つことは、まずあきらめた方がいいですよと言われていました。なぜかというと、妊娠中は赤ちゃんにたくさん栄養を送るため、体の中の血液の量が増え、血圧が高くなりがちになります。お子さんが生まれれば血液の量が減るため、生まれる直前から生まれた後にかけて、血管の状態は非常に大きく変化します。そのため、お子さんが元気に生まれた1週間後に、お母さんの血管が裂けてしまったというようなことも、実際には少なくありませんでした。今はそれを見込んで、このまま妊娠を継続するのが適切か出産時期を調節すべきかどうかについてきちんと評価をしますし、場合によっては、妊娠中に心臓血管の手術をするということも、今では判断することもあります。

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「マルファン症候群の治療は昔に比べてとても進歩しており、今は出産も可能です」(森崎先生)
小児で発症した場合に特徴的なマルファン症候群の経過はありますか?

子どものときによく見られる症状は、体つきが変化をする時期に特徴的な症状だといえます。したがって、骨あるいは胸の形の変化が原因となるような症状は、お子さんから成長期にかけて起こりやすくなります。お子さんは成長期にかけて身長がどんどん伸びていきます。マルファン症候群では細長い骨ができるときに長くなりやすい特徴があります。この特徴により、身長が目立って高くなります。細長く伸びた骨に、体重による力が加わると、背骨が曲がったりします。骨の曲がり方が強ければ、それによって骨のつなぎ目である関節に大きな力がかかり、腰や背中などに痛みを生じやすくなることがあります。また、漏斗胸(ろうときょう)といって、胸の骨がくぼんでしまうようなことが起こることがあります。胸の骨の内側には肺があるので、漏斗胸により肺の容積が減り、肺の機能が影響を受けることがあります。

また、眼の症状も、お子さんの時期に起こりやすい症状です。例えば、眼球の丸い構造が、少しいびつに伸びることで、軸がずれてピントが合わず近視になります。また、眼球の前面には、レンズである水晶体がありますが、それを支えている構造に、血管や骨と共通のものがあり、良い位置にレンズを固定できずにずれてしまい、強い近視や乱視が起こることがあります。眼の変化は、お子さんの早い時期、乳児検診で見つかることもあります。そう多くはありませんが、変化が見つかれば、視力を良い状態に保つ工夫をしていきます。極端な場合には、レンズを固定する手術も考えます。

心臓や血管の変化については、極端な場合は10歳に満たないお子さんでも、血管が膨れてしまうとか裂けてしまうことも確かにあります。しかし多くの場合、10歳代までは強い症状が起こりません。ですので、お子さんに対しては、むしろ骨の伸びであるとか眼の症状が進んでないかというようなことを、主に気をつけていきます。もちろん、少ないとはいえ、心臓や血管の変化が進んでいないことも、毎年確認していきます。

10歳代になると、背が高いという特徴から、スポーツで期待をされる人も中には出てきます。ただ、病気を知らないでスポーツを頑張っていると、試合中に血管が裂けてしまうようなことが起こり得ます。ですので、何か気になる兆候があればきちんと診断を受けて、例えば血管が広がりやすい兆候があれば血圧を調節して血管を守るなど、その後に起こる危険性を減らしていく工夫が重要になります。

こうした年齢別の症状や、平均寿命などについての統計情報は公表されていますか?

マルファン症候群の人が毎年何人診断されたか、といったような統計情報はあります。しかし、これまでお話ししてきたように、マルファン症候群は人によって症状がさまざまです。また、診断されていない人も多くいます。ですので、そういう意味では、他のよくある、ありふれた病気のその後の経過のような、統計的な情報はありません。

大動脈解離の手術の際に、声帯の片方の神経が切れたためガラガラ声になってしまいました。こうした、手術後の合併症に悩まされている人は、どれくらいの割合いるのでしょうか?

なかなか難しい質問です。神経は、特に声帯の動きを調節する神経は、大動脈のすぐ脇に沿って走っています。ですので、血管を取り替える手術などを行う際は、注意をしながら進めますが、100%声帯の機能への影響を防げるとは言い切れません。手術をする前には皆さん、合併症の可能性について説明を受けることになりますが、私たちはそこで、「可能性がある」とお伝えします。

合併症に悩まされる人の割合ですが、いつ頃その手術を受けたのかにもよりますので、一概には言えません。手術中の神経への注意のしかたは今と30年前とでは違います。手術自体、今はゆっくり時間をかけて丁寧にできますが、以前は血管を取り替えるとき血液の流れを止めていたため、短い制限時間内に手術をする必要があり、声に関わる神経よりも命を救うことに力を注がざるを得ない状況でした。そういうわけで、どのくらいの人が合併症に悩んでいるのかは、いつ頃、どのような方法で手術が行われたかということを抜きにして評価するのは難しいので、なかなかそれについては答えにくいのです。ただ、手術によるいろいろな合併症は、以前に比べるとだいぶ少なくなっていることは事実です。

合併症について、声ももちろん重要な問題ですが、マルファン症候群の手術で以前から最も問題になっているのは、足やおなかに血液を送る太い血管を取り換える手術による合併症です。足やおなかに血液を送る太い血管は、単純に1本だけあるわけではなくて、太いところから背中の方に細い血管が何本か枝分かれしていて、そこから脊髄の神経に血液を送って栄養を届けているのです。この大切な役割をする血管は、みんな同じではなく、一人ひとり枝分かれの場所が違います。この部分の太い血管を急いで取り替えなくてはいけない手術のときに、もちろん注意して進めるのですが、脊髄神経に血液が行き渡らなくなってしまい、声がガラガラになるどころか、足が動かない対まひ(ついまひ)が起こることがあり、今でもそういうことは無いとは言い切れません。今は、事前に十分検査をして、注意をして手術をするようになっていますが、それでも手術の合併症としての対まひは、重要な問題としてまだ残っています。

対まひも、起こる割合については、いつ頃に手術が行われたのかにもよりますし、十分に事前に検査をして、危険性を十分に考慮して、必要な手技を全部やって手当てした上で手術をしたのか、あるいは、どうしても命を助けるために血管をつなぐことをとにかく最優先でやったのかにもよるので、それをまとめて数字で出しても、実際の危険性をその数字から評価することは、なかなか難しいですね。

日常生活や就業について

わが子がマルファン症候群の場合、子どもに病気のことをどのように伝えたら良いのでしょうか?

まずご本人に、自分の体の特徴がどういうものなのか、どういうことに気をつけなくてはいけないのか、きちんとわかっていただくということが一番大切だと思います。

マルファン症候群のお子さんに、病気について伝える場合には、まだ理解できないこともどうしてもありますよね。でも、「体にどういう特徴があって、何に気を付けなくてはいけないのか」は、時間をかけてしっかり説明をしてください。ただその際に、「他の人は良いけれどあなたはマルファン症候群だから、あれもダメ、これもダメ」という伝え方にならないように注意してくださいね。もちろん制限はあるわけですが、「こういうことはしても良いんだよ」ということを含めて、伝えるようにすることが大切です。

お子さん本人がある程度理解できるようになった後は、ご両親だけではなく、学校の先生など、身近な周囲の人にも知って頂くことが必要になります。子どものうちは、気胸になったり骨の変化が起こったりしやすいため、周囲も一緒に健康管理をしていくことがとても大切です。そのため、病気についての情報を共有することがとても大切です。

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「お子さんには、やらない方が良いことと、やっても大丈夫なことをセットで伝えるのが大切です」(森崎先生)
子どもが先にマルファン症候群と診断され、それをきっかけに親である私も診断されました。私のきょうだいにはこのことを知らせるべきでしょうか?

はっきりとした自覚症状がない場合、こういうケースもあります。そうなると、ご自身のごきょうだいにどのように説明するかという問題が起こります。もう大人になって、ごきょうだいが別の家庭を持たれていたりすると、一度検査を受けた方が良いと言うことすら、ためらわれますよね。また、伝えたことで、ちょっとギクシャクする可能性があることも事実です。なので、伝え方には注意をする必要がありますが、大切なのは、そうは言っても、その情報は、放っておくと命に関わる可能性がある情報だということです。ですので、きちんと伝えて頂きたいと思います。必要に応じて、担当医を巻き込んででも伝えていくということがとても大切です。私も、「場合によっては、お伝えするサポートはしますよ」という形で説明しています。

マルファン症候群であることを、パートナーや結婚を考えている相手にどう伝えたら良いでしょうか?

とりわけ女性の場合、パートナーや結婚相手との間で、妊娠出産が課題になります。

さきほどお話ししたように、妊娠出産では、血管に大きな負担がかかることによるリスクがあるため注意が必要ですが、このことは、きちんとパートナーに伝えて理解してもらうことがとても大切です。このことがパートナーとの関係の障害に全くならないとは言いませんが、これも先ほど説明した通り、今はもう、お子さんを持つことは難しいという時代ではありません。きちんと受診をして管理をすることで、お子さんを持つことはもちろんできるということを含めて、パートナーの方に病気を正しく知ってもらう必要があると思います。

また、妊娠出産の際に起こるいろいろなリスクを考え、妊娠を考える場合には、大動脈や心臓の状態が良いことを確認した上で、妊娠の計画を立てる必要があります。これもパートナーと一緒に正しく理解して欲しいと思います。

結婚・出産を考える年齢の患者さんが、マルファン症候群が「遺伝性」であると身近な人に伝える際のポイントはありますか?

結婚や出産はこれからという若い年齢の患者さんの場合、ご友人やパートナーに、自分の病気が遺伝性であると伝えるのを躊躇されている方はおられるでしょう。一般論で言うと、「遺伝」という言葉をなかなか受け入れることができない人もいるのは事実だと思います。

マルファン症候群に限らないのですが、私たち医師は、ご本人やご家族に、いきなり「遺伝」という言葉を使わず、まず「動脈や心臓の病気が多い体質を持たれている可能性がありますよ」「ご家族に同じような体質の方が結構いるので、あなたにその体質が受け継がれた可能性がありますよ」というふうに伝えます。そこで、まず、どのような考え方や受け止め方をされるのか、見ていきながら、順々に病気の内容について伝え、遺伝性の病気であることを伝えていきます。

そして、遺伝性の病気というのは、いわゆる悪い血が受け継がれているという考え方ではなくて、いろいろな変化が全ての人に受け継がれている中の1つの特徴なのだということを、受け止めて頂きます。原因がまだ全くわからない他の病気もたくさんありますし、全ての人が何らかの遺伝性の病気の素因を持っていることも事実なので、まずはそのことをなるべく理解してもらいます。

これらのことを、ご本人がしっかりと理解したところで、その方が説明できる範囲で、周囲の方に、同じようにお伝えして頂ければと思います。少しずつ、相手の方の理解や考え、受け止め方を見ながら、伝えていってください。

場合によっては、ご本人あるいはご家族から伝えるだけではなくて、この病気を含めて遺伝性の病気について知識のある専門医のところへ、お2人そろって話を聞きに行かれても良いと思います。もちろん最初にご両親とご本人で話をしていただきますが、その上で、専門医のところで2人揃って話を聞く機会を持ちたいということで、実際に私自身も話をした経験は何例かあります。

私たち医師としては、正しくない情報を信じて、遺伝性であるということだけで全て決めつけてしまうような理解を避ける、例えば、すごく特殊な悪いものを受け継いだなどという考え方にならないように、丁寧に説明をすることが求められているのだと思っています。ですので、困ったら思い切って相談してみて頂くのも良いかと思います。

子どもに病気が受け継がれるかもしれないのが怖く、子どもを持つことを躊躇してしまうのですが…

マルファン症候群の方がお子さんを持たれたときに、その半分の方が同じ体質を持って生まれてくる可能性があるということを、まず「知っておく」必要があると思います。受け継がれる可能性が50%というのは、一人ひとりのお子さんについてはゼロか100のどちらかということです。ゼロの方なら良いけれども、100の方だったと考えると、その先に進めなくなってしまう、という方は、実際におられます。

ただやはり大切なのは、マルファン症候群が、病気の全てではない、ということです。全ての人は、誰でもそれぞれ、いろいろな遺伝性の病気に関する体質を持っているので、自分が特殊なわけではないと知って欲しいですし、必要であれば、私たちはそういう情報をきちんと伝えるために説明をさせて頂きます。場合によっては、パートナーと2人揃った状態で、お話をさせていただくという機会も作りたいと思っています。

就職や転職の際に、マルファン症候群であることを勤め先にどのように伝えるべきでしょうか?

マルファン症候群という名前で伝えなくても、「家族で大動脈の変化が起こりやすい体質がある可能性がある」「いま病院にかかっている」ということは、特に業務内容によっては、伝えた方が良いこともあるのではないかと思います。例えば、「こういうことを、なるべくすべきでないと言われている」とか、「それ以外のことは制限されていません」という形での説明が良いと思います。

マルファン症候群を理由に就職や転職を断られるケースなどあるのでしょうか?

基本的に、遺伝性の病気であるということだけを理由に就職を断られることはないと考えて良いと思います。ただ、業務内容が、マルファン症候群の人にとって、血管や心臓などに危険性のあるものかどうか、また、そうした危険性のある業務が含まれる可能性があるのかどうかは、判断材料になるのではないかと思います。あえて危険性のある業務に携わることはお勧めできませんし、そういう意味でも、やはり病気のことは伝えた方が良さそうですね。

就職・転職に際して、注意点やアドバイスがあれば教えてください

今、気になるような症状が全くないという状態であれば、仕事上での注意点は、あまりありません。しかし、血圧を急に上げるようなスポーツや、息こらえをしなくてはいけないほど重たいものを持つような動作が必要な業務は、なるべく避ける必要があるということは、情報として職場に共有していただくことは必要かなと思います。もちろん伝えるだけでなく、危険な業務への従事もお勧めはできません。

ただ、それを除けば、みなさん普通に仕事をされています。運動の制限についても、息が上がらない程度のジョギング、ウォーキング、水泳などはむしろこの病気にとっては益であって、害にならないということも知られているので、病気だからあれもダメこれもダメというネガティブな考え方・伝え方ではなくて、「こういうことはしてもあまり問題はないというふうに言われています」という具合に、周囲の人と情報を共有することは大切だと思っています。

普段は病気を意識せず楽しく暮らしていますが、日常生活において「ここだけは意識していて欲しい」という注意点があれば教えてください

良い状態であっても、受診を続けるようにしてください。学校では健康診断を受けてきたけれども、大人になって、別に痛くもないし何ともないから健診を受けなくなってしまったという人も、ときにはいます。本人は、良い状態であると病気のことを忘れてしまったり、もう病院へ行かなくて良いような気持ちになったりしがちですが、それはやはり良いことではありません。なぜなら、自覚症状はなくても、放っておくと体の中の変化は進んでいくのです。そしてある日突然、大動脈解離のように命に関わることが起こるケースも、実際にあります。ですので、今は良い状態であっても、マルファン症候群と診断されている人は受診を続けることが大切であると、ご本人はもちろん、ご家族にも知って理解してもらうことが必要だと思います。

最後に先生からマルファン症候群の方々に一言メッセージをお願いします

マルファン症候群は、遺伝性の病気ではありますが、遺伝するから治らない、遺伝するからとても他の人と違うんだ、という意識を持つ必要はない病気だと考えて頂きたいと思います。遺伝性疾患の中には、診断をすることができても、治療法が全くない病気も残念ながらまだまだあります。しかし、マルファン症候群は、きちんと予防的な手術をしたり、薬を使ったりすることで、命に関わる症状を防ぐことのできる病気です。また、手術や薬は以前に比べると非常に進歩したため、今、マルファン症候群の人たちの寿命や日常生活は、普通の人とほとんど変わらなくなっています。ご家族を持ってお子さんを持つということについても、かなり対応ができるようになりました。

遺伝性疾患というのは特殊ではなくて、実は、全ての人は一人ひとり別々の遺伝性疾患の素因・原因を持っています。その中の1つとして、マルファン症候群の人は、その病気の原因を持たれていることは事実ですけども、そうでない他の病気を持っている人や、持っているけど診断されていない人と、実は違いがないのだということを、知っていただきたいと思います。

医学・医療の進歩で、これから治療はもっと良くなることが期待されます。そういう意味でも、診断を受けて、きちんと医療機関にフォローされることは、とても大切です。ですので、通院を続けるようにしてください。やがて、もっともっと良い治療法、手術をしなくても、全然心配なくなるような治療法が出てくることを、私自身も期待したいと思っています。


マルファン症候群の医療は確実に進歩を続けており、その発展した医療を受けていくためにも、症状がなくても通院を続けることがとても重要だとわかりました。また、周囲に「伝える」ことの重要性もわかりました。

今回、森崎先生が、「遺伝性疾患は特殊ではないんだ」と、何度も教えてくださったことが、最も印象に残りました。「今」の病気もあるけれど、「これから」起こる、予測できない病気もあるので、特に出産に関しては、人間みな同じ状況であると知り、先祖代々伝わってきて、これから先も続いていく「遺伝」の奥深さを改めて感じました。(遺伝性疾患プラス編集部)

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森崎隆幸先生

森崎隆幸先生

東京大学医科学研究所人癌病因遺伝子分野客員教授/バイオバンク・ジャパン事務局長、東京大学医科学研究所附属病院総合診療科(兼)、同ゲノム予防医学社会連携研究部門(兼)。医学博士。1980年に東京大学医学部医学科を卒業後、産業医科大学病院、三井記念病院、東京大学医科学研究所附属病院等を経て、1987年に米デューク大学医学部内科に留学。1991年には米ペンシルベニア大学医学部内科助教授に着任。1994年に帰国後、国立循環器病センター研究所バイオサイエンス部室長、同部長を経て2016年に東京工科大学医療保健学部臨床工学科教授に着任。2018年より東京大学医科学研究所特任教授、2021年より現職。