子どもが遺伝性疾患になったとき、家族にできること

遺伝性疾患プラス編集部

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自分の子どもが遺伝性疾患を持つと知ったとき、「どうしてうちの子が?」という感情を抱く人は少なくありません。しかしそのことを不運な出来事として片付けてしまって良いのでしょうか?また、子どもが遺伝性疾患を持つと知った時、その疾患や合併症と向き合い、長く付き合っていくために、家族には、どのようなことができるのでしょうか。

ここでは、小児の遺伝性疾患を多く診療しておられる、千葉県こども病院遺伝診療センター長の村山圭先生に、遺伝性疾患の子どもをもつ家族にできることや、これだけはお願いしたいこと、また、多く寄せられる悩みなどについて、お話をうかがいました。

千葉県こども病院 遺伝診療センター長・代謝科部長 村山圭先生
子どもの遺伝性疾患で最も多いのは、どのような病気ですか?

まず、遺伝性疾患は、「染色体の異常」と「遺伝子の異常」に大きく分けられます。染色体の異常で最も多いのは、「ダウン症候群(21トリソミー)」で、800~1,000の出生に1人の割合です。染色体の数や形の違い(一部分が欠けていたり、重複していたりする)によって起こるものがこのグループです。ダウン症候群のように比較的患者さんの多い疾患は症候群の名前があるものもありますが、「染色体異常症」という大きなグループとして診断を受けている患者さんも少なくありません。

一方、遺伝子の異常による病気は、現在知られているだけでも7,000種類くらいと、たくさんあります。千葉県こども病院代謝科にも、いろいろな遺伝性疾患の患者さんが来てくださっていますが、一番多いのは、「家族性高コレステロール血症」です。この病気は、血中の悪玉コレステロール(LDL)を処理するために肝臓に取り込む仕組みに関係する、「LDLレセプター遺伝子」に変化があるため、血中のLDL値が高くなり、若いうちから動脈硬化などを起こしやすくなる病気です。

 

 

人間は、両親から同じ種類の遺伝子を1つずつ受け継いで2つが1ペアとなって働いていますが、LDLレセプター遺伝子の1つに変化がある場合を「ヘテロ接合体」と言います。この病気は、「常染色体優性遺伝」という形式で遺伝するため、ヘテロ接合体でも軽い症状を持ち、大体、500人に1人くらいがこの病気のヘテロ接合体であると報告されています。これに対し、ペアになっている2つの遺伝子の両方に変化がある場合を「ホモ接合体」と言います。こちらはより重い症状を持っていて、小児のうちに肝移植が必要になる場合もありますが、頻度はヘテロ接合に比べると低く、100万人に1人程度です。ヘテロ接合体の患者さんは、ご両親どちらかのLDL値が高く、そのお子さんも学校の健診などでLDL値が高いことがわかり、当院を受診する、というパターンが多くなっています。最近は、10歳から内服治療ができるようになったので、そうした治療を導入することにより、LDLの蓄積をなるべく子どものうちから減らすような治療を行っています。

子どもが遺伝性疾患だった場合、今は発症していないきょうだいが発症する可能性もありますか?

病気の種類によってその可能性はあります。例えば、「尿素サイクル異常症」という、体内で有毒なアンモニアを正常に処理できず、アンモニア濃度が高くなる遺伝性疾患があります。尿素サイクル異常症の中でも最も患者さんの多いOTC欠損症は、「X染色体連鎖遺伝」という遺伝形式をとります。この疾患は男の子よりも女の子で軽症になる傾向があり、また女の子では、発症年齢に非常にばらつきがあります。つまり、子どものうちから発症する場合もあるし、成人になってから発症する場合もあるし、生涯発症しない場合もあるということです。ですから、例えば妹さんが発症した時点でお姉さんが発症していなくても、後からお姉さんが発症する場合もあり得ます。こうした病気のほか、ミトコンドリア遺伝子の変異により起こる病気なども、その病気が発症する仕組みにより、いま発症していないきょうだいで発症する場合があります。

このように、遺伝性疾患と一口に言っても、遺伝形式の違いなどにより、きょうだいに発症したり、しなかったりするのです。診断を受けたお子さんが、どういったタイプの遺伝性疾患なのか、あるいは、遺伝学的診断(遺伝子検査や染色体検査、生化学検査など)を受けているのか、などによっても、ご家族に提供できる正確な情報の量も変わってきます。ですので、もし、ごきょうだいのことが心配になったときには、主治医の先生や遺伝の専門家(臨床遺伝専門医、認定遺伝カウンセラー、病院の遺伝診療部門など)に一度ご相談していただき、正しい情報を得るようにしてください。

治療が助成金の対象でなく、保険適応にもならない小児の遺伝性疾患はあるのでしょうか?

小児の場合、各自治体に乳幼児医療費の助成制度があるので、高額負担になるケースはほとんどないと言えます。しかし、指定難病になっていないなど、成人になったときに、助成の受け皿がない病気はまだ多くあり、課題となっています。指定難病は、今のところ333疾患(令和2年1月現在)ですが、年々増えていっています。

子どもが遺伝性疾患だと判明した場合、家族など血縁者にどのような影響が起こり得ますか?

まずは、「病気の子どもを支える」という大きな役割が生じます。支えていく上で、病気についての正しい情報を知っておくことは、大前提となります。私の経験では、「治らない病気」という情報しか知らず、肝移植で治療できる可能性があることを知らなかったというケースがありました。子どもが適切な治療を受けるためにも、正しい情報が重要になるのです。

もしも子どもが肝移植の対象だった場合、ご家族が「肝臓のドナー」になる可能性が出てきます。このように、子どもが遺伝性疾患だった場合に、血縁者は、自身も治療に参加できる場合があるのです。

それから、「家族や血縁者が同じ病気になる」という可能性もありますね。例えば、子どもが疼痛発作を起こし、ライソゾーム病のひとつであるファブリー病と診断されたケースでは、診断後に、その親も診断はされていなかったものの、脳梗塞や不整脈など、ファブリー病と思われる症状が出ていたということがありました。このようなケースもあるので、子どもが遺伝性疾患だとわかった場合、家族や血縁者に同じ病気の遺伝子を持っている人が他にいるかどうかを調べることが、しばしばあります。このようにご家族の遺伝子検査を進めていくことは、特に、治療法のある病気で積極的に行われます。例に出したファブリー病は、遺伝子異常で作れなくなった酵素を外から補充するという治療(酵素補充療法)があるので、子どもの治療を行いながら、家系内の血縁者の遺伝子を調べることが積極的に行われる病気のひとつです。

子どもが遺伝性疾患だと知ったとき、家族にまずできることは何であると先生はお考えですか?

「適切な診断、治療を受けるために正しい情報にアクセスすること」です。そこから全てが始まりますし、その疾患としっかりと向き合っていくためにも重要なことだからです。

例えば、「ミトコンドリア病」を正しく説明できる専門家は、とても少ないのです。実際、「お母さんがミトコンドリア病だったら、子どもも全員ミトコンドリア病になる」と説明されたと話すご家族もいました。これは間違った情報です。

正しい情報を得るためには、「適切な専門家の意見を聞く」のが最も信頼できますし、近道であると考えます。そのため、できるだけ専門の医療機関を紹介できる病院や医師を受診するようにしてください。距離や時間的な問題で、ご家族やご本人が専門家に直接話を聞くことが難しい場合もあるかと思います。そのような場合には主治医の先生が窓口となって、そこから専門家に連絡をとるという方法でも良いと思います。また、ご自身で専門家のいる医療機関の情報をインターネットで調べる場合には、信頼できる医療情報を掲載しているサイトにアクセスすることが大切です。例えば、学会のホームページなどには、専門に診療している医療機関の情報が載っている場合がありますので、参考にすると良いでしょう。

「専門家による正しい情報を得ることが大切です」(村山先生)
わが子が遺伝性疾患であると告げられた方に、「これだけはお願いしたいこと」はありますか?

まず、「遺伝性疾患は、決して珍しいことではない」ということをご理解いただきたいと考えています。例えば、ある病気が2万人に1人の病気だったとします。これが「常染色体劣性遺伝」という形式で遺伝する病気だったとすると、確率的に約70人に1人は「保因者」といって、発症はしていないけれど病気の原因になる遺伝子の異常を1つ持っていることになります。そのような病気は山ほどあるため、私たちはみんな、何らかの遺伝性疾患に関わる異常をいくつか持っていて、全ての遺伝子を調べてみると平均で10個前後の遺伝子が保因者の状態であると言われています。ですので、何万人に1人という遺伝性疾患になったとしても、決して珍しいことが起こったわけではなく、誰にでも可能性のあることだ、ということを理解していただきたいと思います。

もっと大きなスケールで考えてみると、人間の多様性というのは、多くの遺伝子の変化が繰り返されてできてきたもので、その中で病気というものも出てきました。こうした大きな流れは、これからも続いていくもので、誰も抗うことはできません。ですから、あまり悩まずに、病気を受け入れ、対応する術を身に着けて欲しいのです。そのためには、やはり「正しい」情報にアクセスすることが大切だと思います。

一方で、「頭では理解できるけれど、感情的には納得できない」という気持ちをご家族が持たれるのも、当たり前のことだと思います。正確な情報がご家族の支えになることもあれば、こういった感情面での気持ちの整理や医療者との思いの共有が、ご家族やご本人を支えていく一つの柱になると、私たちは考えています。ぜひ、積極的に医療者に不安や考えを伝えていただき、必要に応じて専門の相談窓口である「遺伝カウンセリング」を利用することを検討してください。

子どもが遺伝性疾患だった場合、次の子どもを望むときに出生前検査を受けられますか?

疾患によっては出生前遺伝子診断の対象となります。例えば、「治療法がなく、上の子が生まれてすぐに亡くなってしまった」、「肝移植が必要」など、非常に重篤な病気の場合です。具体的な例の一部としては、新生児期発症の重症ミトコンドリア病、尿素サイクル異常症、有機酸代謝異常症などは出生前遺伝子検査が行われることがあります。一方、家族性高コレステロール血症やファブリー病などは、適切な治療を受ければ病気でないお子さんと同じように育っていきますので、当院では出生前遺伝子診断は行っていません。

一方で、上のお子さんが、重篤な遺伝性疾患で肝移植を行い、下のお子さんを妊娠した際に、肝移植を再び行うことは避けたいという理由で、ご両親が出生前診断を望まれ、行ったケースがありました。その結果、おなかの赤ちゃんも病気であることが判明したのですが、ご両親は考えた末に、そのお子さんを出産されました。こういうケースもポツポツとあります。このような状況で生まれたお子さんとご家族に対しても、私たちはもちろんサポートしていきます。

出生前遺伝子検査は、気軽な検査ではありません。受けるには、多かれ少なかれ流産リスクが伴います。また、もし検査が実施できる可能性がある場合でも、その準備には時間がかかるケースが少なくありません。次のお子さんの妊娠がわかってからご相談をいただいた場合でも、妊娠する前に患者さんのご家族から「検査を受けたい」との要望があった場合でも、すぐにお答えができない場合もあるのです。このように、ご家族のご不安や検査を受けたいというお気持ちに寄り添っていきたい一方で、実際に検査を実施するためには情報を集めたり、さまざまな状況を整えたりする必要があります。多くの関係する医療者や、その他のスタッフの協力も必要となります。次のお子さんへの影響や、出生前診断としてどのような選択肢があるのか、または、出生前遺伝子検査を実施することがそもそも可能なのか、疑問点や不安を感じていることについては、ぜひ、妊娠される前に専門家から「正しい」情報提供を受け、その上でご家族にとって一番いい選択肢を検討していただきたいと思います。

学校生活が始まる際に、病気に関して医師にお願いできることはあるのでしょうか?

例えば、遺伝性の代謝異常症では、食事療法(脂質やタンパク質等のバランスをそれぞれの疾患に合わせて計算した食事)が重要になってくるので、学校給食の献立をそのまま食べると具合が悪くなってしまう場合があります。このようなケースでは、患者さんのご両親と相談した上で、医師が学校に意見書を書いたり、ときには学校の先生や保健の先生に病院にお越しいただき、情報の提供を行うことがしばしばあります。

学校生活というのは、そのお子さんにとって「新しい」出来事で、自覚がなくても体に大きな負担がかかります。友達と過ごすことが嬉しくて、楽しくて、つい遊び過ぎてしまったりすることもあるでしょう。そんなときに、例えば、病気で肝臓が大きいお子さんであれば、「おなかに強い力がかかるような遊びをしたりしないように」など、学校生活で気を付けた方が良いことは、病院側から積極的に情報提供しています。

もちろん、病気のお子さんのご両親からお願いされて対応することもよくあります。「薬を学校でなるべく飲まないようにしたい」という要望があれば、朝、昼、晩に服用していた薬を、朝、放課後、就寝前、などのタイミングに変更することもあります。

学校生活の中で気を付けた方が良いことなど、医師からの意見が必要と思うことがあった場合には、まず主治医の先生にご相談してみてください。

遺伝性疾患の子どもをもつ家族から多く寄せられる悩みや相談は何ですか?

お子さんの健康状態やご家族の状況によってもさまざまですが、診断を受けてからどれくらい経っているのかによって、寄せられる悩みや相談も違ってきます。

診断直後は、病気に対する不安、日常生活に関する不安、学校に通えるのかなど、「今後の生活の見通しに対する不安」が多いですね。遺伝性疾患の多くは希少疾患で、一般的に得られる情報が少ないため、同じ疾患を持つ他の家族についての情報が欲しいという悩みも寄せられます。「どうしてうちの子が?」「運が悪かった」「妊娠中に〇〇したことが影響しているんだろうか?」というような、感情面での葛藤を打ち明けられるご家族も多いですね。

診断後、ある程度時間が経ってからは、きょうだい、親のきょうだい、次に生まれてくる子どもなど、病気が家族に与える影響に関する相談が多くなってきます。また、知的に問題がない遺伝性疾患のお子さんもたくさんいらっしゃるので、ご本人の疾患や、遺伝性疾患であるという事実を、どのように伝えていけば良いかという相談を受けることも多いですね。

また、さまざまな研究が進んできたことで、たくさんの新しい遺伝性疾患や、その診断方法が確立されている一方で、いまだに診断がつかず、「原因不明」という状況のご家族も少なくありません。「診断をつけてほしい」「何か将来を知るための情報につながる検査はないのだろうか?」という情報を求めるご相談も、当院のような小児専門病院では、多く聞かれるご相談だと思います。

寄せられる悩みや相談に対し、当院では、できるだけ患者さんとそのご家族の不安を取り除き、病気と長期的に向き合っていくための環境づくりに取り組んでいます。

千葉県こども病院発行の、先天性疾患をもつお子さんとそのご家族向けのリーフレット

 


 

子どもが遺伝性疾患になったとき、家族は、混乱しないためにも、治療の可能性を知るためにも、専門家が発信する「正しい情報」へのアクセスが、とにかく重要だということがわかりました。

取材後、村山先生は、千葉県こども病院遺伝診療センターが先天性疾患をもつお子さんとそのご家族向けに作成し、配布しているリーフレットを1部くださいました。前半は、「きらきら ひらひら」という、お子さん向けの”ぬりえ絵本”になっており、後半はご家族向けに、同センターについて、Q&A形式でわかりやすく案内されています。リーフレットに登場するマーム先生は、見た目も、優しい雰囲気も、村山先生にそっくり! 「家族に寄り添い、健やかな生活を支える」ことを目指す、村山先生が率いる遺伝診療センターの皆さんのあたたかい気持ちがダイレクトに伝わってきました。(遺伝性疾患プラス編集部)

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村山圭先生

村山圭先生

千葉県こども病院代謝科部長、同遺伝診療センター長。順天堂大学医学部・難病の診断と治療研究センター/小児科客員教授、および、千葉県がんセンター研究所主任医長を兼任。医学博士。1997年に秋田大学医学部を卒業後、千葉大学医学部小児科等を経て、2014年より現職。千葉県こども病院遺伝診療センターを立ち上げ、2018年4月より同センター長として、診療を行うとともに、遺伝相談を受けている。日本小児科学会専門医、臨床遺伝専門医、日本小児栄養消化器肝臓学会認定医。