既存のアルカリホスファターゼによる酵素補充療法に課題
島根大学の研究グループは、低ホスファターゼ症の小児を対象に、骨髄から採取した「間葉系幹細胞」という細胞を移植する治療法の効果を確かめるための臨床試験を始めることを発表しています。
低ホスファターゼ症とは、骨を形成するために必要な酵素である「アルカリホスファターゼ」が生まれつき欠損している遺伝性疾患です。この酵素がないために骨を硬い状態にすることが難しくなり、骨が曲がったり骨折しやすくなったりします。さらに歯が抜けやすくなるほか、けいれんや難聴、発達の遅れも現れます。
従来、アルカリホスファターゼを定期的に皮膚の下に注射する酵素補充療法が行われてきましたが、毎週1~3回の投与が必要な上に、体に薬を排除する抗体が作られると薬が効きづらくなる問題がありました。さらに、「血液脳関門」と呼ばれる脳の組織と血液を隔てる仕組みがあるために薬が脳に効果を発揮せず、脳をはじめとした中枢神経系の症状を改善できない問題もありました。治療費が最低でも年間2000万円かかるのも課題です。
効果が続く細胞移植治療の実現を目指す
効果がより持続して病気を根本的に治癒に導く治療として期待されているのが幹細胞の移植です。幹細胞は、さまざまな組織に分化可能な細胞で、骨髄など人の体には多数存在しています。これを移植することでアルカリホスファターゼを作る細胞を定着させて、骨の形成を正常にしていけると考えられてきました。
島根大学では既に世界で初めて間葉系幹細胞の移植を実施し、移植を受けた子どもの救命を実現しており、2015年に研究の成果を論文発表しています。ただし、ここまでの幹細胞移植は、骨の形成を正常まで改善させるには至っていませんでした。
今回、研究グループは幹細胞を高い純度で分離した「高純度間葉系幹細胞」を移植する治療を考案しました。骨形成を促す性質に優れた幹細胞だけを選りすぐる技術です。この新たな幹細胞の移植によって骨形成の異常を治す効果を高められると考えています。
ヒトに投与する前段階の実験では、高純度間葉系幹細胞によってアルカリホスファターゼが適切に作られて、骨の分化を促す効果を確認することができています。研究グループでは医師が自ら推進する医師主導治験の中で治療の検証を進める計画としています。(遺伝性疾患プラス編集部 協力:ステラ・メディックス)