ムコ多糖症I型の中枢神経症状に効果が期待できる治療薬候補が、米ファストトラック指定

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. ムコ多糖症I型で欠損する酵素を脳まで届けられる薬はなく、中枢神経症状への効果が得られなかった
  2. 今回、FDAファストトラック制度の指定を受けたJR-171は、酵素を脳まで届けられる仕組みをもつ
  3. 日本・米国・ブラジルでグローバル臨床第1/2相パート2試験が進行中

ライソゾーム病の一種「ムコ多糖症I型」、中枢神経症状の治療が課題

JCRファーマ株式会社は10月5日、同社独自の血液脳関門通過技術「J-Brain Cargo(R)」を適用した、ムコ多糖症I型(ハーラー、ハーラー・シャイエ、シャイエ症候群)治療酵素製剤(開発番号:JR-171(血液脳関門通過型遺伝子組換えα-L-イズロニダーゼ))について、米国食品医薬品局(FDA)よりファストトラック制度の指定を受けたことを発表しました。

ムコ多糖症I型は、ライソゾーム病の一種で、ムコ多糖を体内で分解する酵素(α-L-イズロニダーゼ)の設計図となる遺伝子の異常により発症する、常染色体劣性遺伝性疾患です。全世界における患者さんの数は約3,600人と推定され(同社調べ)、中枢神経症状、関節病変、低身長、角膜混濁、心臓弁膜症、肝脾腫など幅広い症状があります。既存の治療酵素製剤は血液脳関門を通過できないため、脳内で薬効を発揮できず、中枢神経症状に対し効果が期待できないことが重大な課題となっています。

FDAファストトラック制度とは、重篤な疾患を治療するために、アンメットメディカルニーズを満たす治療薬の開発を促進し、審査を迅速化することを目的とした制度。ファストトラック制度に指定された医薬品は、開発計画についてFDAと頻繁にミーティングを行うほか、関連する基準を満たす場合に優先審査および早期承認の対象となります。

血液脳関門通過技術で酵素を脳まで届ける

今回、FDAファストトラック制度の指定を受けたJR-171は、ムコ多糖症I型で欠損している酵素「α-L-イズロニダーゼ」に、血液脳関門通過技術「J-Brain Cargo(R)」を適用させた分子。酵素の分泌に重要な受容体であるマンノース-6-リン酸受容体を介した作用に加え、トランスフェリン受容体を介して血液脳関門を通過することで、中枢神経症状に対する効果が期待できます。

現在、日本・米国・ブラジルで、JR-171についてのグローバル臨床第1/2相パート2試験が行われています。今回のファストトラック指定により、米国におけるJR-171の臨床開発の迅速化、優先審査や早期承認が期待されます。

なお、JR-171は、2021年2月にFDAより、同3月には欧州委員会(EC)よりオーファンドラッグ(新たな希少疾患用治療薬の開発を促進するための制度)の指定を受けています。(遺伝性疾患プラス編集部)

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