ムコ多糖症II型治療薬「パビナフスプ アルファ」、欧州でプライム指定

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. 国内で5月に発売されたムコ多糖症II型治療薬が、EMAでPRIME指定を受けた
  2. 酵素を脳まで届ける仕組みを持ち、中枢神経への効果が期待できる薬
  3. 米国・ブラジル・欧州でグローバル臨床第3相試験開始に向け準備が進行中

ムコ多糖症II型で特に課題の中枢神経症状にも期待できる治療薬

JCRファーマ株式会社は10月18日、独自の血液脳関門通過技術「J-Brain Cargo(R)」を適用したムコ多糖症II型(ハンター症候群)治療酵素製剤について、欧州医薬品庁(EMA)よりPRIME(PRIority Medicine)の指定を受けたことを発表しました。同剤は、「血液脳関門(BBB)通過型遺伝子組換えイズロン酸-2-スルファターゼ」というもので、国際一般名は「pabinafusp alfa」(パビナフスプ アルファ)、開発番号はJR-141です。なお、同剤は、日本では既に厚生労働省により承認されており、「イズカーゴ(R)点滴静注用10㎎」として2021年5月より国内の患者さんたちに届けられています。

ムコ多糖症II型は、ライソゾーム病と呼ばれる遺伝性疾患の一つで、細胞内のライソゾームという場所で働く「イズロン酸-2-スルファターゼ」という酵素が作られない、または働きが低下している病気です。これが原因で、ムコ多糖(グリコサミノグリカン)という物質が全身の細胞において過剰に蓄積し、関節拘縮や骨変形、肝臓・脾臓の肥大、呼吸障害、弁膜疾患など、さまざまな症状が現れます。特に課題となっているのは、中枢神経症状です。X染色体連鎖劣性(潜性)という遺伝形式をとるため、男性に発症する病気で、発症頻度は男児約5万人に1人と推定されています。また、同社の調べによると、現在日本では約250人がムコ多糖症II型に罹患していると推測されています。

今回、EMAのPRIME指定を受けたJR-141は、ムコ多糖症II型で欠損している酵素「イズロン酸-2-スルファターゼ」に、BBB通過技術「J-Brain Cargo(R)」を適用させた分子。酵素の分泌に重要な受容体であるマンノース-6-リン酸受容体を介した作用に加え、トランスフェリン受容体を介してBBBを通過することで、中枢神経症状に対する効果が期待できます。

欧州で迅速審査の対象になる可能性

PRIMEとは、EMAがアンメットメディカルニーズを対象とした医薬品の開発支援を強化するために開始されたスキームです。有望な医薬品の開発者との交流を深め、早期に対話を行うことで、開発計画の最適化と評価の迅速化を図り、これらの医薬品がより早く患者さんたちに届くようになることを目的としています。PRIMEにより早期かつ積極的な支援を受けることで医薬品の迅速な申請が可能となり、また迅速審査の対象になる可能性があります。PRIMEに指定されるには、初期の臨床データに基づいて、アンメットメディカルニーズのある患者さんたちにベネフィットをもたらす可能性があることが示される必要があります。

JR-141は、分子設計の段階から非臨床、臨床にいたるまで必要なエビデンスを構築しながら開発が進められてきました。非臨床試験においては、トランスフェリン受容体への親和性だけでなく、JR-141がBBBを通過し神経細胞へ到達することが電子顕微鏡下において確認され、また、脳の各組織中への酵素取り込み、蓄積基質の減少も確認されました。これらの結果に基づき実施した臨床試験においては、中枢神経系症状に対する有効性の代替評価指標である脳脊髄液中のヘパラン硫酸濃度において、非臨床試験にて得られた結果と矛盾しない結果が得られました。また、中枢神経症状への作用と考えられる結果も得られています。

2021年9月には、武田薬品工業株式会社と同社の間で、特定地域における独占的な共同開発およびライセンス契約が締結され、現在、米国・ブラジル・欧州においてJR-141のグローバル臨床第3相試験開始に向けた準備が進められています。(遺伝性疾患プラス編集部)

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