筋ジストロフィーと関連する糖鎖の異常に着目
愛媛大学を中心とした研究グループは、糖鎖異常型に分類される筋ジストロフィーのモデルマウスを用いて治療手法を考案し、実験的に効果を確認したことを発表しました。
細胞の中には「糖鎖」という物質が存在しますが、この糖鎖の異常が筋ジストロフィー発症の原因につながることが、2000年代に相次いで発見されていました。こうしたタイプの筋ジストロフィーに共通して、ジストログリカンというタンパク質に付く糖鎖に異常が見つかったため、これらは糖鎖異常型(ジストログリカン異常症)という病型に分類されました。糖鎖異常型の筋ジストロフィーは特に重篤であると知られており、日本でも小児期の筋ジストロフィーで2番目に多い福山型筋ジストロフィーが糖鎖異常型であるとわかっています。研究グループはこれまでに、福山型筋ジストロフィーの原因遺伝子であるフクチンを発見するなどの研究成果を報告してきました。
一方で研究グループは、糖鎖の構造や糖鎖の合成にかかわる酵素の研究に取り組んできました。その中で、従来は哺乳動物での存在が知られていなかった「リビトールリン酸」という物質が糖鎖の中にあることを発見し、この合成に関わる酵素のほか、リビトールリン酸の材料になる物質「CDP-リビトール」とその合成に必要な酵素「ISPD」(イソプレノイドドメイン含有タンパク質)を発見していました。
今回、研究グループは、ISPDを持たないように人工的に作り出したISPD欠損マウスを使い、詳しく病気の発症について検証しました。すると、ISPD欠損マウスでは筋力や筋重量が低下することが確認されました。その上で、このマウスに筋ジストロフィーで見られる状態が再現されることがわかりました。さらに調べたところ、ISPDによって作られるCDP-リビトールが激減しており、糖鎖の異常も確認され、ISPDの欠損が筋ジストロフィーの発症要因になると考えられました。
さらに、研究グループは欠損したISPDやこの酵素がないことで不足するCDP-リビトールを補うことによって病気を治療できるかを検討しました。具体的には、アデノ随伴ウイルスベクター(AAV)と呼ばれる、遺伝子を細胞に運ぶ仕組みを使い、欠損したISPD遺伝子を導入することで、ISPD欠損マウスの病気に変化が見られるかを確かめました。
ISPD変異型筋ジストロフィー、遺伝子治療など新しい治療法開発の可能性
こうして、ISPD遺伝子の導入によって、CDP-リビトールと糖鎖の回復が確認され、筋ジストロフィーの進行を抑えられることが判明しました。ISPD変異型の筋ジストロフィーは、ISPDの導入によって治療効果が現れる可能性があるとわかったのです。
さらに研究グループではCDP-リビトールの補充により治療効果が現れることも想定しました。CDP-リビトールはそのままでは細胞の中に入りづらいため、CDP-リビトールを化学的に変化させた物質(プロドラッグ化合物)を10種類作り、細胞の中への導入を検討しました。
結果として、そのうちの1種類は細胞の中に効率的に入っていくことを確認しました。そこでこれをISPD欠損マウスに長期的に投与したところ、治療効果が確認されました。
研究グループでは、今後遺伝子治療やCDP-リビトールのプロドラッグ化合物を使うことで福山型筋ジストロフィーを含めた糖鎖異常型の筋ジストロフィーの治療を実現できる可能性があると指摘しています。(遺伝性疾患プラス編集部、協力:ステラ・メディックス)