知的能力障害などにつながるレット症候群
発達障害や精神疾患の問題を抱える人は世界的にも多く、病気メカニズムの解明のほか、診断や治療の方法の開発が重要な課題となっています。名古屋大学を中心とした研究グループは、進行性の神経発達症であるレット症候群の病態を明らかにするため、原因となるMECP2遺伝子変異を持つモデルマウスを用いて、これまでに報告されていなかった特徴的な脳構造の異常が発生することを確認したと発表しました。
レット症候群は、重い知的能力障害のほか、自閉スペクトラム症、てんかん、運動機能障害などを特徴とする難病の一つです。レット症候群では、性染色体であるX染色体に存在するMECP2遺伝子の変異により発症することがわかっています。この病気は、女性では1万人~1万5,000人に1人の頻度で起こり、男性の場合この遺伝子変異があると、ほとんどが胎児のうちに亡くなることが知られています。
またMECP2遺伝子の異常は、レット症候群のほか、同じく重い発達障害を示すMECP2重複症候群や、知的能力障害、自閉スペクトラム症、認知障害、統合失調症などの他の病気の発症につながることもわかっています。
しかし、MECP2遺伝子の変異により、どのようなメカニズムで病気の症状が引き起こされるのかは、まだ不明な点が多く残されています。研究グループはMECP2遺伝子が失われる遺伝子変異を人工的に起こし、レット症候群にみられる多くの症状を示すマウスを用い、病気に関連した脳構造異常をMRI(磁気共鳴イメージング)画像検査で調べました。
特徴的な脳構造の異常を確認
その結果、体の感覚を司る「大脳皮質体性感覚野」と呼ばれる脳の領域の体積が減少していたほか、記憶などの情報処理に関連している「嗅内野」と呼ばれる領域の体積も減少しているなど、特徴的な脳構造の異常が確認されました。このほかの複数の領域においても体積の減少が認められました。
さらに、脳の左右差も確認されました。正常なマウスと比べると、レット症候群の症状と関連する複数の領域において異常な左右差が起こることが分かりました。
研究グループは、これまで報告されていなかった脳領域の変化が見つかったとして、普及しているMRIを使うことでレット症候群の患者さんの診断や検査に応用できる可能性があると説明しています。また、今回の研究結果が、広範な発達障害・精神疾患の診断や治療法の開発につながることも期待されます。(遺伝性疾患プラス編集部、協力:ステラ・メディックス)