胆道がんに焦点を絞り大規模ゲノム解析を実施
理化学研究所(理研)を中心とした研究グループは、乳がんや卵巣がんの発症に関連している遺伝子を含む5つの遺伝子の病的バリアントが、胆道がんの発生にも関与していることを突き止めました。多くはDNAの傷を修復する仕組みに関連し、今後の治療薬の選択などに発見が生かされそうです。
胆道がんは日本やアジアで発生率が高く、日本では2017年に毎年約2万2,500人が発症し、約1万8,000人が死亡しています。胆道がんは発生する部位によってタイプが分かれ、その特徴や治療法に違いがあります。長く生きられることが期待できる唯一の治療法は手術ですが、がんが増殖しやすく、できる部位も複雑なので治療は容易ではありません。化学療法やがんを狙い撃ちする薬も効きづらく、5年生存率は27%とされます。
胆道がんの発生に関わることとして、胆石、感染症、化学物質への暴露などが考えられています。また、理研を中心とした研究グループはこれまでに、10万人以上を対象に遺伝情報を調べた大規模な横断的がんゲノム疫学解析により、遺伝性乳がん卵巣がんの原因として知られるBRCA1、BRCA2という遺伝子が、胆道がんの発症にも関連していることを示していました。
今回、研究グループは胆道がんに焦点を絞ったゲノム疫学解析を実施。そのために、胆道がん患者さん1,292人、および比較対照となる3万7,583人のゲノム解析を行いました。
5つの遺伝子の病的バリアントが関連
こうして明らかになったのは、調べた胆道がん患者さんの5.5%が遺伝性腫瘍に関連した遺伝子の病的バリアントを持っていたということです。さらに、これによってがんの発症リスクが約4.1倍高くなることもわかりました。
胆道がんの発生につながると確認された遺伝子は、BRCA1、BRCA2、APC、MSH6、PALB2の合計5つの遺伝子でした。このうちBRCA1とBRCA2の病的バリアントがあると、胆道がんのなりやすさがそれぞれ13.6倍および6.5倍になると計算されるなど、胆道がんのリスク上昇が確認されました。
なお、これらの遺伝子はDNAの異常が生じたときに修復する仕組みに深く関連していました。こうした修復の仕組みに異常があることを修復機構欠損(HRD)と言いますが、HRD陽性(修復する仕組みに異常がある)は、HRD陰性よりも構造異常やコピー数異常といったゲノムの“傷痕”が多いと確認されました。
研究グループによると、HRD陽性のがんに効きやすい、HRDを標的としたPARP阻害剤やDNA障害性の化学療法、放射線療法を優先的に治療法として選ぶ考え方が成り立つ可能性もあるようです。ゲノム医療の進展によって胆道がんの治療が今よりも進歩する可能性があります。(遺伝性疾患プラス編集部、協力:ステラ・メディックス)