筋強直性ジストロフィー1型、iPS細胞の応用で治療薬候補の体外での検討が可能に

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. 筋強直性ジストロフィー1型(DM1)患者さん由来の骨格筋細胞をiPS細胞から作ることに成功
  2. DM1の細胞で起きている、3種の不具合が測定できるようになった
  3. 開発した方法を用いて治療薬候補(アンチセンス核酸CAG25)の効果を検討することができた

筋強直性ジストロフィー1型の研究と治療薬の開発にiPS細胞を応用

京都大学iPS細胞研究所の研究グループは、筋ジストロフィーのうち「筋強直性ジストロフィー1型(DM1)」と呼ばれるタイプの症状を再現した「ヒト細胞モデル」を作製し、この病気に伴う細胞の異常を定量的に測定する方法を開発したと報告しました。この方法を使って治療薬候補の効果を調べることもできるようになりました。

DM1は、筋ジストロフィー患者さんのうち、多くの成人に発症しているタイプですが、有効な治療法はまだありません。この病気は、DMPKという遺伝子に含まれる、CTGという文字列(塩基配列)の繰り返しが異常に長いことで起こる「リピート伸長病」の一つです。これが原因で、細胞内で作られた異常なRNAは、核の中で遺伝子を制御する役割を持つMBNL1というタンパク質とくっつき、MBNL1は核の中で塊(MBNL1凝集体)を作ります。このためMBNL1が正常に働かなくなり、結果として遺伝子の制御ができなくなります。これが、DM1が発症する主な理由と考えられています。

これまでに研究グループは、ヒトの細胞からiPS細胞(人工多能性幹細胞)を作製し、ここから骨格筋細胞を作り出すことに成功しています。iPS細胞を骨格筋細胞に誘導するための方法は、骨格筋特異的転写因子MyoD1というタンパク質を、遺伝子から強制的に作らせることで実現しています。

今回、研究グループは、このようにiPS細胞から骨格筋細胞を作りだす方法によって、DM1患者さんの細胞から病気を再現した骨格筋細胞を作りました。その上で、病気の細胞で起きている不具合を定量的に測定できるようにし、これを応用して治療薬の効果を確かめる方法を開発するための研究を進めました。

DM1細胞で起きている3種の不具合を測定し、薬効を検証する手法を開発

こうして開発されたのが、DM1患者さん由来の骨格筋細胞に見られる不具合を測定する方法です。具体的には、これらの細胞の分化を促したり、培養したりする方法を工夫することにより、3種類の不具合を測定できるようになりました。1つ目は、DM1患者さん由来の骨格筋細胞の核にある、MBNL1凝集体の数を測定できるようになりました。2つ目としては、DM1の発症に重要な遺伝子における、スプライシング(遺伝子からタンパク質が作られる過程で起こるステップの1つ)の異常を測定可能にしました。3つ目は、強制的にタンパク質を作らせるのとは別の方法で細胞を分化させることで、筋力に重要なSERCA1遺伝子の異常を測定することを可能としました。

研究グループは、このように開発した方法を用いて、アンチセンス核酸CAG25という、治療薬の候補を試験しました。その結果、この薬剤は、DM1細胞においてMBNL1凝集体を減らし、異常な遺伝子スプライシングを改善することが発見されました。今回新しく開発された方法は、将来的にDM1を治療するための薬剤の開発に応用されることになります。(遺伝性疾患プラス編集部、協力:ステラ・メディックス)

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