網膜色素変性症の安価で簡便な治療につながる成果、4つの化合物を眼内注射で視機能回復

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. 網膜変性疾患の細胞移植治療や遺伝子治療は、実用化が期待される中で製造コストや患者さんへの負担など課題
  2. 特定した4種類の化合物をモデル動物の眼内に注射し、視機能を回復させることに成功
  3. 「眼内に注射するだけ」の安価で簡便な方法、早期から繰り返し治療が可能になると期待

網膜変性疾患の細胞移植治療や遺伝子治療、期待されるが課題もある

九州大学の研究グループは、網膜色素変性症や加齢黄斑変性などの網膜変性疾患の視機能を回復させる低分子化合物を明らかにしたことを発表しました。

網膜変性疾患は、視力や視野などの視機能が徐々に低下していく病気で、特に網膜色素変性症については、現時点で確立された治療法はありません。これまでに、網膜色素変性症や加齢黄斑変性に対して多くの細胞移植治療や遺伝子治療などの研究や臨床試験が行われ、実用化が期待される治療法も生まれています。

一方で、開発中の細胞移植治療や遺伝子治療には、製造コストなどにより費用が多くかかる、専門性が高く治療を行える医療者が限られる、患者さんへの負担が大きいなどの課題もあります。また、開発されている治療法の多くは視機能が大きく低下した患者さんが対象であり、視機能が維持されている多くの患者さんに対し、早期に介入できる治療法の開発も求められています。

今回、研究グループは、細胞移植治療や遺伝子治療の前段階で行うことのできる、安価で簡便な治療法の開発に取り組みました。

眼内に注射するだけで視機能を回復する4種類の化合物を特定

研究グループは、視機能を回復させる化合物を眼内に注射するだけで治療することができないかと考え、複数の低分子化合物を治療薬候補として検討しました。培養細胞実験ですべての組み合わせを検証した結果、4種類の低分子化合物を同時に培養液に加えることで、ミュラー細胞と呼ばれる網膜の非神経細胞が、網膜視細胞へ効率的に分化することを発見しました。

さらに、網膜変性疾患のモデル動物を使って、生体内でも再現できるかどうか確かめる実験を行いました。その結果、これらの4種類の低分子化合物を同時に眼内に注射するだけで、視細胞に特徴的なタンパク質であるロドプシンを産生する細胞が網膜内で増加し、視機能が回復することが確認されました。

これまでに、低分子化合物を順番に加えることで、非神経細胞から網膜神経細胞へ分化させた報告はありましたが、複数の化合物を「同時に加えるだけ」で網膜視細胞を生み出した報告はありませんでした。

この治療は対症療法ではあるものの、安価で簡便なため、早期の段階から繰り返し行うことができるのが最大の利点であり、細胞移植治療や遺伝子治療の前段階で、どの病院でも受けられる治療法にするため開発を継続していく、と研究グループは述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)

関連リンク