網膜の機能が障害される遺伝性・進行性の眼疾患の総称「IRD」
ノバルティス ファーマ株式会社は、遺伝子治療用ベクター「ルクスターナ(R)注」(一般名:ボレチゲン ネパルボベク)について、両アレル性RPE65遺伝子変異による遺伝性網膜ジストロフィー(IRD)を対象に製造販売承認を取得したと発表しました。眼科疾患で初めての遺伝子治療です。
IRDは、網膜の機能が障害される遺伝性・進行性の眼疾患の総称です。例えば、IRDの1つ網膜色素変性症は、一般的に10歳前後で発症し、夜盲や視野狭窄といった症状が現れ、進行とともに視力が低下します。また、同じくIRDの1つレーベル先天黒内障は、生後2~3か月で症状が発現します。6か月以内に視力が著しく低下することが多く、若年成人期までに失明に至るとされています。
視覚障害あり・十分な生存網膜細胞あり、RPE65遺伝子が2つとも変異の患者さん対象
IRDの原因遺伝子の1つRPE65遺伝子に変異があると、RPE65タンパク質を作ることができずに不足し、視覚障害が生じます。今回承認されたルクスターナは、このRPE65遺伝子の機能を補う遺伝子補充療法。視覚障害が生じていて、検査により十分な生存網膜細胞があると確認されたIRDの患者さんで、両アレル性RPE65遺伝子変異(2つ持つRPE65遺伝子の両方に変異がある)と診断された人を対象とした遺伝子治療です。
ルクスターナは、それぞれの眼につき、網膜下へ1回注射します。遺伝子の運び屋アデノ随伴ウイルス2型(AAV2)により、正常なRPE65遺伝子が網膜色素上皮に導入され、RPEタンパク質が長期間安定して作られる仕組みです。これにより、不具合の生じていた視覚サイクルが正常に機能するようになり、長期間にわたって視機能が維持されることが期待されています。
臨床試験により、機能的視力・光感受性の改善を確認
今回の承認は、両アレル性RPE65遺伝子変異によるIRD患者さんを対象に実施された、4つの臨床試験(海外第1相試験(101試験、102試験)海外第3相試験(301試験)、国内第3相試験(A11301試験:日本人4例))の結果に基づくものです。
301試験は、両アレル性RPE65遺伝子変異による成人・小児のIRD患者さんを対象とした海外第3相試験です。治療グループ21例の両眼にルクスターナを単回網膜下投与した結果、1年間無治療で経過観察したグループの10例と比較して、機能的視力の改善が示されました。
A11301試験は、両アレル性RPE65遺伝子変異によるIRD患者さんを対象とした国内第3相試験です。日本人患者さん4例の両眼にルクスターナを単回網膜下投与した結果、光感受性の改善が見られました。
また、これらの臨床試験で、ルクスターナが投与された45例(日本人4例を含む)のうち、重大な副作用として眼内炎(頻度不明)、眼の炎症(6.7%)、網膜異常(28.9%)、眼圧上昇(13.3%)、白内障(24.4%)が報告されています。(遺伝性疾患プラス編集部)