最も重要なALS原因遺伝子の1つであるC9ORF72
東京医科大学を中心とした研究グループは、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因タンパク質の細胞内局在と毒性を制御する分子機構を解明したことを発表しました。
ALSは運動神経細胞が進行性に変性し、全身の筋肉が次第に動かなくなる神経難病です。人工呼吸器を装着しない場合、発症から2~5年で命を落とすとされており、根治療法も確立されていないため、早期の病態解明および治療法の開発が望まれています。
2011年に発見された、家族性ALSの原因遺伝子「C9ORF72」は、家族性ALS患者さんの約40%で変異が見られ、また、孤発性ALS患者さんの10%でも変異が見られることから、最も重要なALS原因遺伝子の1つであると考えられています。この遺伝子に変異を持つALS患者さんでは、全て同じタイプの変異(イントロン1における「GGGGCC」6塩基リピート配列が異常に伸長する変異)が見られます。このリピート配列伸長によりALSを発症する機構としてさまざまなモデルが提唱されていますが、「リピート長依存性ATG非依存性翻訳」と呼ばれる特殊なメカニズムにより産生される「毒性ジペプチド」という物質による神経毒性仮説が有力であると考えられています。
2つの毒性ジペプチド「ポリPR」と「ポリGR」の毒性の違いは?
この毒性ジペプチドには、「ポリPR」と「ポリGR」の2種類があり、それぞれポリPRはアミノ酸であるプロリンとアルギニンの繰り返し配列、ポリGRはグリシンとアルギニンの繰り返し配列で出来ています。どちらもアルギニンが交互に存在する、非常に似た特徴を持つ配列ですが、細胞内で存在する場所や毒性の強さ、毒性機構が大きく異なります。しかし、このような違いが生じる詳細なメカニズムは不明なままでした。
そこで今回、研究グループは、これらのジペプチドが細胞内で存在する場所や、毒性を制御する分子機構を明らかにし、ALS発症機構を解明することを目指し研究を行いました。
アルギニンの間がプロリンかグリシンかが大きく影響と判明、新薬開発に期待
その結果、アルギニンの間に存在するアミノ酸がプロリンであるポリPRの場合は、周囲にある多くの分子に影響して強い毒性を獲得することがわかりました。一方、アルギニンの間に存在するアミノ酸がグリシンであるポリGRの場合は、周囲にある少数の分子に強く結合して、細胞質における毒性に関与することがわかりました。
今回の研究により、最も頻度の高い家族性ALS原因遺伝子C9ORF72によるALS発症機序の解明につながることが期待されるほか、ポリPRおよびポリGRの毒性を阻害する新規ALS治療薬の開発につながることが期待されます。(遺伝性疾患プラス編集部)