ALSの原因遺伝子は30以上報告されているが未知の原因遺伝子がまだ多くある
広島大学を中心とした研究グループは、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の新規原因としてLRP12遺伝子の5’非翻訳領域のCGGリピート伸長変異を同定し、さらに、同じ遺伝子におけるCGGリピート長の違いが、異なる分子メカニズムでALSと眼咽頭遠位型ミオパチー(OPDM、眼瞼下垂や咽頭筋障害、四肢遠位筋障害をきたす筋疾患)の原因となることも突き止めたことを発表しました。
ALSは、運動神経の変性により、四肢の筋力低下、構音障害、嚥下障害、呼吸筋麻痺をきたす神経変性疾患で、指定難病に定められています。これまでに30個以上の原因遺伝子が報告されていますが、これらの原因遺伝子変異を持っていない患者さんは多く、まだ同定されていない原因遺伝子は多く存在すると考えられています。また、ALSの病理学的な特徴である「リン酸化TDP-43の細胞質局在」は病態の中心とされ、盛んに研究されてきましたが、ALSの病態は完全には解明されていません。
LRP12遺伝子に61~100のCGGリピートでALSに
リピート伸長病はゲノムDNAの繰り返し配列が長くなることが原因となる疾患です。ALSの一部は、リピート伸長病であることが知られていました。
今回の研究では、家族性ALSの2家系を対象にロングリードシーケンサーによる全ゲノム解析を行い、ALS発症者がLRP12遺伝子の5’非翻訳領域(タンパク質をコードしていない部分)のCGGリピート伸長を有していること、さらに、これらのALS患者さんのCGGリピート長は100リピート以下であり、通常100リピート以上であるOPDM患者さんより短いことを突き止めました。
次に、リピート長の違いがどのようなメカニズムでALSとOPDMの違いを生み出すのかを明らかにするため、患者さん由来の筋およびiPS細胞から分化させた運動神経を用いて解析を行いました。
その結果、健常人では通常10から20リピートであるCGGリピートが61から100リピートに伸長したALS患者さんの運動神経細胞では、ALSの特徴である「リン酸化TDP-43の細胞質局在」が認められることがわかりました。一方、100リピート以上もつOPDM患者さんの筋細胞では、筋の機能維持に重要と考えられているMBNL1タンパク質がリピートRNAと共に蓄積していました。この所見はALS患者さんの筋では認められませんでした。なお、OPDM患者さんの運動神経細胞では、リン酸化TDP-43の異常局在は認められませんでした。ALS、OPDMともにRNA foci(異常なリピート伸長をもつRNAが細胞核内で凝集したもの)の形成が見られましたが、ALSの方で多くの形成が見られました。こうして、ALSとOPDMの発症機序の違いが明らかになりました。
同研究グループは、今回の発見に関して「ALSの病態の解明や治療法の開発につながる可能性がある」と、述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)