脳卒中のような発作など重篤な症状が見られる疾患
九州⼤学を中心とする研究グループは、ミトコンドリア病のMELASで多く報告される病原性変異について、その近くに位置する⾮病原性変異がミトコンドリア機能の改善に貢献するという新たな仕組みを解明したことを報告しました。
ミトコンドリアは、細胞でエネルギーを産生する役割を担う細胞小器官です。ミトコンドリア内に存在するDNAや核のDNAにおいて、ミトコンドリアの機能に関わる遺伝子に変異が生じることで、心臓や骨格筋、神経などにさまざまな症状が現れるミトコンドリア病を発症することがあります。
ミトコンドリア病には、まだ有効な治療法は確立されていません。ミトコンドリア病はいくつかの病型に分かれますが、その中でも発症頻度の高いMELASでは、脳卒中のような発作などの重篤な症状が見られ、発症後数年で亡くなる場合があります。
これまでに、MELASを発症するメカニズムについては明らかになっていませんが、発症する人の多くに、ミトコンドリアDNAの中でも「トランスファーRNA」(tRNA、タンパク質が作られる際に遺伝情報を読み取りアミノ酸をつなぐ役割を担うRNA)の設計図となる遺伝子に変異があることがわかっていました。また、アミノ酸の一種であるタウリンがtRNAに結合すること(tRNAのタウリン修飾)が、MELASの発症に関与していると明らかにされていました。このタウリン修飾は、tRNAの正確な遺伝情報の読み取りに関わっています。
しかし、tRNAとタウリン修飾がミトコンドリア機能の低下にどのように関わっているのかについて、詳細はほとんどわかっていませんでした。
研究グループは、MELASで頻繁に報告される遺伝⼦変異である「ミトコンドリアDNAのtRNA遺伝⼦における3243A>G」を高頻度で持っている人のうち、症状が軽度な人がいることに着目し、ミトコンドリアDNAの解析を行いました。
頻繁に報告される病原性変異以外の共通した変異を発見
解析の結果、症状が軽度の人では、ミトコンドリアDNAのtRNA遺伝⼦において、3243A>G以外に3290T>Cと呼ばれる病原性ではない変異を共通して持っていることが明らかになりました。
そこで、培養細胞を用いてミトコンドリアの機能を調べました。3243A>Gと3290T>Cの2つの変異を持つ細胞は、3243A>Gだけに変異を持つ細胞と比較して、ミトコンドリアのエネルギー産生機能が働き、細胞増殖が改善しました。ミトコンドリア機能障害の程度を⽰すマーカー遺伝⼦の発現を調べたところ、2つの変異を持つ細胞は、3243A>Gだけを持つ細胞ほど機能が障害されていないことがわかりました。
また、2つの変異を持つ細胞は、3243A>Gだけを持つ細胞よりもtRNAのタウリン修飾が改善していることが明らかになり、3243A>Gと3290T>Cの2つの変異を持つことで、tRNAのタウリン修飾が改善し、それに伴ってミトコンドリア機能が回復すると示唆されました。
研究グループは、研究成果からミトコンドリア機能の改善に関与するメカニズムをさらに解明することで、MELASを始めとしたミトコンドリア病の治療薬開発にも貢献する可能性がある、と述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)
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