DMDの複数の遺伝子変異に対応できる新治療法を開発、患者由来iPS細胞で効果を確認

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. DMD治療でエクソンスキッピングという手法を用いた核酸医薬品は、変異パターンごとに開発する必要があった
  2. ゲノム編集技術で、エクソン45~55領域に起こったどの変異にも対応できる新たな手法を開発
  3. 3人のDMD患者さん由来のiPS細胞でジストロフィンタンパク質の回復を確認

変異パターンごとに治療法が開発されてきた

京都大学iPS細胞研究所(CiRA)を中心とした研究グループは、CRISPR-Cas3システムを利用し、さまざまなデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)患者さん由来のiPS細胞ジストロフィンタンパク質の発現を回復可能な方法を開発したと発表しました。

DMDは、筋肉を維持するために重要なジストロフィン遺伝子の変異により、正常なジストロフィンタンパク質が作られなくなり骨格筋、心筋、肺などのさまざまな筋力が次第に低下する遺伝性疾患です。

DMDの多くは、変異によりタンパク質の読み枠が変わり、そのためにタンパク質が作られなくなる変異であるため、それを修正するエクソンスキッピングと呼ばれる方法が用いられます。しかしDMDで起こる変異パターンはさまざまであり、これまでの研究ではそれらの変異パターンごとにジストロフィンを回復させる方法が開発されてきました。これまでに、エクソン53をスキップする核酸医薬品が日米で販売されています。

一方で、複数の変異パターンであっても、変異が起こりやすいエクソン45から55までの領域を同時にスキッピングさせる方法を用いれば、一つの方法でDMD患者さんの60%以上に有効であることが報告されていました。しかし、ゲノムDNA上でエクソン45から55の数百キロベース(kb)の標的エクソン部位を大規模にDNA欠失できる方法はほとんどありませんでした。

近年、CRISPR-Cas9技術を応用したCRISPR-Cas3ゲノム編集技術が報告され、この方法では狙った箇所から数kbのゲノム配列を削ることが可能であることから、研究グループはこの方法を応用し、ジストロフィン遺伝子のエクソン45から55まで(およそ340 kb)の大規模ゲノム欠失の誘導を目的とした研究を行いました。

CRISPR-Cas3をペアで使用し、大規模な欠失を効率的に誘導することに成功

研究グループは、CRISPR-Cas3をペアで使用することで数百kbの欠失誘導を行うことができるのではないかと考え、実験を行いました。標的となるDNAを探すためのRNA(crRNA)をエクソン45〜55が内側に挟まれるように一対使用して細胞へのゲノム編集を行いました。どの程度DNA欠失が起こっているか確認したところ、ペアでCRISPR-Cas3を用いることで344 kbのDNA領域が欠失されている細胞を検出することができました。

しかし、この方法で大規模な欠失を誘導することが可能なものの、効率は高くありませんでした。そこで、ペアでのCRISPR-Cas3が機能した細胞に、2種の蛍光タンパク質が光るように遺伝子を導入し、検出した蛍光から必要な細胞だけを集める方法を開発しました。

今回開発されたシステムを用いて、異なる変異を持つ3人のDMD患者さん由来のiPS細胞でジストロフィンタンパク質が回復することが確認されました。全ゲノム解析で、crRNAが結合すると思われる付近において、間違った位置での欠失(オフターゲット)は見られませんでした。

研究グループは、今回開発した方法によって、より広い範囲のDMD患者さんに対するゲノム編集治療の開発につながる可能性がある、と述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)

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