末梢神経のミエリン形成不全により、手足の末端の筋力低下などが起こる疾患
横浜市立大学を中心とした研究グループは、シャルコー・マリー・トゥース病(CMT)を引き起こす変異が、原因タンパク質であるミエリンタンパク質ゼロ(MPZ)の機能と構造に与える影響を原子レベルで明らかにしたと発表しました。
CMTは、およそ2,500人に1人の割合で発症すると言われている遺伝性疾患です。複数ある病型のうち1型(CMT1)では「ミエリン」と呼ばれる神経の伝達に関わるタンパク質が正常に作られないこと(形成不全)を特徴とします。末梢神経のミエリン形成不全によって神経伝達の速度が低下し、手足の末端に神経刺激が届きにくくなることから肘から先もしくは膝から下の筋力低下、筋委縮、感覚低下などが起き、症状が進行すると歩行困難などが生じます。しかし、有効な治療方法や治療薬はまだ開発されていません。
CMT1の原因遺伝子の一つとして、MPZの設計図となるMPZ遺伝子が知られています。ミエリンの機能には、神経細胞から伸びた軸索に何重にも細胞が巻き付いて細胞膜の層を形成することが重要となりますが、その時、MPZが膜と膜を接着することによりミエリンを形成・維持します。MPZ遺伝子のミスセンス変異によって、MPZタンパク質を作るアミノ酸の1つが変更されることにより、ミエリンが正常に形成されないことがCMT1の原因となると考えられています。しかし、MPZがどのように膜と膜を接着しているのか、またMPZ遺伝子の変異がどのようにMPZの機能や構造を変化させ病気を引き起こすのかについては不明でした。
研究グループは、X線結晶構造解析法やCMT1を引き起こすことが知られるアミノ酸の変更を人工的に導入して膜接着を評価する実験などから、MPZが膜を接着するメカニズムやMPZ遺伝子のミスセンス変異が機能に及ぼす影響を調べました。
ミエリンを形成する膜接着活性に重要となる構造が明らかに
その結果、MPZは8量体(8つの同じ分子でまとまった構造)で働くことが明らかになりました。
W28A変異と呼ばれる変異をMPZの一部に導入したところ、膜接着活性が失われ、変更されたアミノ酸の位置から細胞膜上で4量体(4つの同じ分子でまとまった構造)となったMPZが細胞外領域の構造の先端(頭と頭)を別の膜上の4量体と連結して8量体構造をとることが膜と膜を接着しミエリンを形成するために重要であることが明らかになりました。
また、N87H変異と呼ばれる変異をMPZの一部に導入したところ、隣同士の分子が上手く4量体を形成できず、膜接着活性が失われることも明らかになりました。
一方、D32G変異、E68V変異と呼ばれる変異を導入したところ、膜接着活性は失われず、ミエリンを形成するように見えました。そこで、これらの変異型タンパク質の温度変化による構造の変化を解析したところ、変異型タンパク質は低い温度になると変性(性質が変わってしまうこと)もしくは凝集(より集まって塊になってしまうこと)することがわかりました。
これらの変異によって、細胞内で正しい構造のタンパク質ができにくくなることや膜接着の性質が変わりやすくなってしまうことなどがCMT1の発症に関与すると考えられました。
研究グループは、今回の研究成果を起点として、難病であるCMTの治療方法、治療薬の開発が進むことが期待される、と述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)