神経難病で期待される核酸医薬、けいれんなどの副作用が問題となっていた
東京医科歯科大学を中心とした研究グループは、神経難病に対する新たな治療手段として期待されるアンチセンス核酸医薬(ASO)について、その有効性を保ちつつ副作用を大きく改善する技術を開発したと報告しました。
核酸医薬は、次世代の分子標的医薬とも考えられ、脳や脊髄などの中枢神経の疾患などを中心に臨床開発が進められています。特に小児の神経難病の一つである脊髄性筋萎縮症を対象としたASOは日本を含む60か国以上で承認されており、2023年にはSOD1遺伝子変異を有する筋萎縮性側索硬化症に対するASOも米国で迅速承認されました。
中枢神経の疾患を対象としたASOは、一般に中枢神経組織の周囲の空間である髄腔内(ずいくうない)へ投与されます。しかし、薬を髄腔内に投与した際、けいれんや意識障害、運動機能の異常といった副作用が出現することがあり、そのためASOの開発時において、有望な治療薬候補の投与量を制限する必要が生じ、十分な有効性が引き出されない問題となっていました。
今回、研究グループは、新規の核酸化学修飾で、導入した核酸分子が標的RNAに対し高い結合能力を持つことがわかっている「BNAP-AEO」を用い、核酸化学修飾を行ったASOの中枢神経疾患に対する有効性と安全性を調べました。
従来ASOと同様の有効性示しつつ、神経機能の異常は大きく改善
研究グループは、まず従来型の化学修飾で高活性のASOと、そのASOにBNAP-AEOを導入した新規ASOである「BNAP-AEO ASO」を設計・合成しました。
これらのASOをマウスの脳室と呼ばれる脳周囲の髄腔内に投与したところ、BNAP-AEO ASOの脳内における標的遺伝子の抑制効果は、従来型のASOと同様に高く保たれていました。投与後の神経機能を評価するため、神経機能の異常をスコア化した毒性スコアや5分間の自発的運動機能評価(オープンフィールドテスト)を行ったところ、従来型のASOでは出現するマウスの重篤な神経毒性が、BNAP-AEO ASOでは大きく改善することがわかり、BNAP-AEO ASOが高い有効性と安全性を持つことが明らかになりました。
研究グループは、BNAP-AEO ASOが神経毒性を改善したメカニズムとして、従来型のASOでは神経細胞内のカルシウムイオンを低下させることで急性の神経毒性が出現すると考えられていることから、BNAP-AEO修飾が神経細胞に発現してカルシウムイオン濃度を調整する役割を持つ「Sigma-1受容体」と呼ばれるタンパク質を介して神経毒性を改善させるのではないかという仮説を立てました。
そこで、Sigma-1受容体の機能を阻害する薬を従来型ASOとBNAP-AEO ASOに併用してマウスに投与したところ、従来型ASOでは見られる神経毒性に変化がなかったのに対し、BNAP-AEO ASOは改善していた神経毒性が再び出現し、BNAP-AEOによる神経毒性の改善はSigma-1受容体を介した細胞内カルシウム濃度調節が関与していることが示唆されました。
研究グループは、「開発された新規の核酸化学修飾はシトシン塩基配列を有するアンチセンス核酸に広く応用が可能で、この研究成果によって多くの神経疾患の核酸医薬の治療開発の成功に結びつくことが期待される」と、述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)