OTULIN遺伝子の変異により全身に異常な炎症が生じる疾患
横浜市立大学を中心とした研究グループは、希少遺伝性自己炎症性疾患の一種である、OTULIN関連自己炎症症候群について、常染色体優性(顕性)遺伝形式で発症する病態を明らかにしたと報告しました。
OTULIN関連自己炎症症候群は、OTULIN遺伝子の変異により全身に異常な炎症が生じ、繰り返す発熱、下痢、痛み、関節腫脹、発疹、脂肪萎縮症などの症状が引き起こされる遺伝性疾患で、常染色体劣性(潜性)遺伝形式で発症することが知られています。
OTULIN遺伝子が設計図となり産生されるOTULINタンパク質はユビキチンと呼ばれる分子が鎖状につながった「ユビキチン鎖」を取り除く「脱ユビキチン化」と呼ばれる機能を持つ酵素で、炎症や細胞死などのさまざまな過程に関連し、その機能が失われることによって全身性炎症と好中球性皮膚炎が引き起こされると考えられています。
研究グループは、新生児期から全身性炎症と好中球性皮膚炎が認められた患者さんの全エクソーム解析を行い、OTULIN遺伝子にまだ報告されていないバリアントを発見し、解析を行いました。
疾患関連性が疑われるバリアントに由来する異常OTULINを評価
研究グループは、新しいバリアントが確認された患者さんと同じ遺伝子を持つ細胞(患者由来細胞)を使用して、直鎖状ユビキチン鎖の異常な蓄積や細胞死の評価を行いました。解析の結果、患者由来細胞ではこれまでにこの病気で報告されていた通り、直鎖状ユビキチン鎖の蓄積と細胞死の増加が確認されました。
また、この患者さんでは2つの希少なバリアントが各遺伝子座に確認されたことから、それぞれのバリアントがどのように病態に関連するのかを調べるため、詳しい解析を行いました。データベース解析、タンパク質立体構造解析、それぞれのバリアントを持つ遺伝子に由来するOTULINを細胞に強制発現させた解析などから、疾患関連性が疑われるバリアントは2つのうちの1つのみであることが強く示唆されました。
最後に、OTULINタンパク質を欠損した細胞を使って、正常なOTULINタンパク質と今回発見された疾患関連性が疑われるバリアント由来の異常OTULINタンパク質を同時に発現させ、それぞれの発現量を変化させて評価したところ、異常なOTULIN発現量が増加するごとに、直鎖状ユビキチン鎖の蓄積と細胞死の増加が認められました。これは異常OTULINが正常なOTULIN機能を阻害し、今回発見された1つのバリアントだけで疾患発症に寄与すること、常染色体優性(顕性)遺伝形式で発症する可能性があることを示唆しています。
研究グループは、この研究成果によってこれまで未診断とされてきた患者さんがOTULIN関連自己炎症症候群と診断され、有効な治療を受けられる可能性があること、今回の研究手法を用いることでさまざまな遺伝性疾患で病態解析の促進につながることが期待される、と述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)